Ex.4 わたしとナツミちゃん

 今日は待ちに待ったクリスマス。

 わたし、朝日心はわたしの中で一番の友人のホタルの家へと向かっている最中だった。

 電車に揺られながら、外の景色も見れないほど曇っている窓を見て、外がいかに寒いのかなんとなくわかるようだった。

 どうやら今日はホタルの家でクリスマスパーティーなるものが行われるらしい。

 パーティーには同じゆるふわ部のマイちゃんとナツミちゃんも来るらしい。

 ナツミちゃんは最近のわたしのお気に入りで、一つ下のとっても良い子だ。ついつい甘やかしてしまう。

 ナツミちゃんはなんだかふわふわしていて、ずっと一人にしておくとどこかに行ってしまいそうな気がする。そんな子だ。

 最近はナツミちゃんともっと仲良くなってきたように感じる。初めて会った頃は緊張で固まっていて、肩の力もずっと入りっぱなしだったように見えたけど、最近は打ち解けてきた感じがある。敬語も少しずつ無くなってきた。わたしとしては全然敬語じゃなくてもいい、別にそんな上下関係とかは気にしてないし。

 ナツミちゃんは今日も元気かな。


 そんな事を考えていると、コートのポケットに入っているスマホが鳴った。

 どうやらナツミちゃんからのメッセージのようだった。

 どうしたんだろう?

 送られてきたメッセージにはこう書いてあった。


『ココ先輩ー!道に迷った!何故か商店街に来ちゃったー!ココどこー!』


「あらら……」


 ナツミちゃんったら……

 商店街か……なんとなく分かる気がする。わたしも一回迷った事あるし。多分同じところでしょう。


 わたしは『とりあえずそこで待ってて。迎えに行くから』と返した。


 しばらくして、ようやく電車が目的地の駅に止まった。このままホタルの家に向かえば良い感じ時間に行けそうなんだけど……ナツミちゃんを迎えに行かないとね。


 電車を降りると、ものすごい寒さだった。マフラーや手袋があっても寒い。電車内の暖房がいかにありがたいのかが良くわかった。

 よく考えたらナツミちゃんはこの寒さの中ずっ値待ってるのか。早く迎えにいってあげないと。


 ナツミちゃんは多分ホタルが伝えた出口とは違う、もう一つの出口に向かったのだろう。

 いつもとは違う階段を降りて、改札を出る。

 目の前には商店街らしきものがあった。ここに来るのは久しぶりだな。わたしが初めて迷った時以来だ。

 さぁ、ナツミちゃんはどこだろう。

 少し見渡すと、少し先、商店街のベンチにナツミちゃんが座っていた。


「ナツミちゃん!」


 私は声をかけながら近づいた。


「あ!ココ先輩!」


 ナツミちゃんは私に気づくと、ダッシュで私に近づいてきた。

 そしてそのまま私に抱きついた。


「ココ先輩ー!会いたかったー!もう寒かったよ」

「寒い中よく頑張ったね」


 わたしはナツミちゃんの頭を優しく撫でてあげた。


「えへへ……ナツミえらいでしょ?」

「うん。えらいえらい」


 そう。こうやってついつい甘やかしてしまう。

 本当は道に迷ってる時点で偉いも何もないんだけど……。


「それにしてもこんなところで待ってたの?寒かったでしょ?」

「うん、寒かったよー……」


 ナツミちゃんの体はブルブル震えていて、見ているだけでかわいそうだ。何故か手袋つけてないし……。

 何かナツミちゃんをあっためられるものがあったら良いんだけど……。

 わたしが周りを見渡すと、すぐ近くに自動販売機があることに気づいた。


「もしかして……」


 わたしは自動販売機の方に近づいた。ナツミちゃんも後ろからテクテクついてくる。

 自動販売機の品揃えを一通りチェックしていく。そして一番右下に目当ての物を見つけた。


「これこれ……!」


 お金を入れてボタンを押す。ガタン!という音とともに出てきたのは缶に入ったコーンポタージュだ。


「はいナツミちゃん。これあげる。あったまるよ」


 ナツミちゃんはわたしが持っているコンポタの缶を物珍しそうな目で見つめていた。


「どうしたの?もしかして缶のコンポタ初めて?」


 ナツミは何も言わずただ首だけ動かしてうなずいた。


「そうだったの?あったまるよ?」


 わたしはそう言って缶のプルタブを開けた。


「熱いから火傷しないようにね」


 ナツミちゃんは大事そうに両手で缶を持つと、ゆっくりと缶に口をつけた。


「……!コーンだ!」


 ナツミちゃんは突然現れたコーンに驚いたようだった。


「おいしい?」

「うん!」


 どうやら気に入ってくれたようだ。これで少しはあったまってくれれば良いんだけど……。

 ナツミちゃんはフーフーと息を吹きかけて冷ましながら、コンポタを慎重にゆっくり飲んでいた。

 なんだか小さな子供みたいで可愛かった。


「ねぇねぇナツミちゃん。一口だけ頂戴?」


 なんだかわたしも寒くなってきた。


「一口だけね?」


 わたしが買ってあげたはずなんだけど……完全にナツミちゃんのものになっていた。


「大丈夫だよ」


 あまりナツミちゃんを悲しませないように少しだけ……。

 一口飲むと、手袋やマフラーの温かさとはまた違う、内側からじんわりと温まっていくのがとても心地よかった。


「ありがとう」


 わたしはナツミちゃんに缶を返した。

 ナツミちゃんはまた缶を傾けて一口飲もうとして、突然動きを止めた。

 飲み口のあたりをじっと見つめている。


「どうしたの?なにかついてる?」

「いや……」


 そこでナツミちゃんは言葉を詰まらせた。

 少し「えーと……」と、額に手を当てて、なにか言いたい言葉が思い出せないような仕草だ。

「あっ!」とようやく思い出せた言葉は私の想定の範囲外から飛んでくるものだった。


「今口をつけたら間接キスになるよね……?」

「えっ?!」


 まさかそんな事を言われるとは思っていなかった。


「……そ、そうだね?わたしとの間接キスはイヤ?」


 なんて質問をしてるんだ、わたし。


「いや、そうじゃなくて、その……もったいないというか……」

「もったいない?」

「うん。一回口をつけちゃったら、もう二回目からは間接キスでもなんでもなくなると思うと、なんだかもったいなく感じて……」


 ナツミは缶を見つめながら言った。その姿が愛らしくて、もっと甘やかしたくなる。


「本当にナツミちゃんは良い子だね」


 またナツミちゃんの頭を優しく撫でた。

 ナツミちゃんは気持ちよさそうに目を閉じている。


「ナツミちゃんの気持ちは嬉しいけど早く飲み切らないと冷めちゃうよ?」


 わたしはナツミちゃんへの撫でる手を止めた。


「んー……確かにー」


 そういうと、ナツミちゃんは缶の残りを思いっきり一気に全部飲み干した。

 そして、わたしの方を向いてこう言った。


「間接キス……しちゃったね」


 ナツミちゃんのセリフにドキっとしてしまった。なんだかいつも甘やかしているナツミちゃんが少し大人っぽく見えた。

 大丈夫かなわたし。顔赤くなってないかな。


「さ、ホタル部長の家に行こー!」


 そう言ってナツミちゃんはいきなりわたしの前を歩き始めた。

 さっきの大人っぽいナツミちゃんから一転、今度は逆に子供っぽくなった。

 不思議な子だなぁ……。


「ってどこいくのナツミちゃん?!ホタルの家は逆方向だよ?!」


 ナツミちゃんは商店街のさらに奥の方へ進もうとしていた。

 わたしに呼び止められて、ナツミちゃんは足を止め、くるりとわたしの方を向いた。


「あはは……そういえばナツミ迷子だったんだ……」


 これから先、この子はわたしが引っ張ってあげないとね……!

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