第2話絵画
倒れた金髪の勇者ちゃんを、黒髪の魔王ちゃんが涙目で必死に介抱していた。しかし彼女は起き上がらない。
どうして起き上がらないのか。それは数分前に遡るのだ……。
◇◇◇
黒髪美少女の魔王ちゃんは今日、絵画を描いていた。それは離れた城下町を町起こしする為に頼まれ描いた絵画である。
我ながら良い絵が描けたなぁと。満面の笑顔で自画自賛する魔王ちゃん。彼女に呼応してかステンドグラスに魔力で描かれた人間達も唸りみたいな誉め声を上げているように見えた。
降り注ぐ賞賛の雨の中、(想像の中)で、魔王ちゃんは満足げだ。腕組みをしてウムウムと頷いて嬉しそうなのが良く判る。
ちなみにこの絵画、タダで描いた物ではない。魔王ちゃんが町民達に求めた報酬は美味しいチョコドーナツを大量である。
そして町民は皆で用意すると言っていたので。今から美味しいお礼に心が弾むと魔王ちゃんはうっとりよだれを垂らしている。両手を組んだ幸せいっぱいな満面の笑顔でくるくる回っていて、その姿は本当に嬉しそうである。
そしてそれを。面白くなさそうに物陰から見ていた金髪碧眼の勇者ちゃんがいたのだった。
◇◇◇
彼女は今日こそ、魔王ちゃんを倒して願いを現実化しようとしたのである。しかし彼女からは絵を描きながら容易くあしらわれ、たった一度も振り向いて貰えなかったのだ。
魔王ちゃんは町起こしの絵画に夢中でこちらなど眼中に無いのだ。しかもたかだかドーナツなんぞに現を抜かして……。
メラメラと陽炎が見える程の炎熱が立ち昇る勇者ちゃん。蜃気楼や逃げ水も近所には発生していた。
ふと見る絵画はとても上手に描けている。生きているような絵画は見ていて凄い。
だがそれを眺めていて。勇者ちゃんはパチンと指を鳴らして悪い笑顔を浮かべたのだ。
◇◇◇
魔王ちゃんが報酬のチョコドーナツを思い浮かべていたところ。勇者ちゃんが入り込む音が響いた。やれやれ今日はやたらと勇者ちゃんがしつこいなぁと、魔王ちゃんはうんざり振り向いて。
絶句して飛び退いた。
何故ならそこには。『にんまり』と嫌な笑顔の勇者ちゃんが軽機関銃を手に『『青い小鳥を乗せた』
あんぐりと口を開いて異常な光景を見やる魔王ちゃん。
その瞬間。勇者ちゃんは絵画を指差して文句をつけ始めた。どうやら彼女の言い分は、これが町起こしの絵画には不適切だと言いたいらしい。
改めて自分の絵画を見やる魔王ちゃん。そこには『白い薔薇と赤い薔薇の切り花が仲良く寄り添う』絵画がある。
なるほど。確かに言い分には一理有りそうだと。魔王ちゃんは勇者ちゃんに頭を下げた。
しかし勇者ちゃんは全く引かない。口をぱくぱくして文句を言うだけ案山子と一緒に苦情を更につけてきた。
最初は確かにそう感じたが……だんだんとむかっ腹が立ってくる魔王ちゃん。
仕方ないので不機嫌そうに絵画を隠すと。更に描き直しを始めた。
あっさり描き直された絵画。今度は『赤い薔薇と白い薔薇の場所を入れ換えただけ』の絵画を描き直されていた。
絵画の素晴らしさは変わらないが……構成も入れ換わっただけで変わらなかった。
しかし勇者ちゃん。それに満足するととても、いや、本気ですっげぇ偉そうに頷いている。まるで自分が上から施してやったと言わんばかりだ。
それを見ながら屈んでプクク! と嗤う魔王ちゃん。
だってそれはそうだ。この絵画ただ位置を入れ換えただけで描いているものは何一つ変わらないのだから。
勇者ちゃんもそれに気づいて半眼で魔王ちゃんを見下ろしたその瞬間。付近のステンドグラスに描かれた人間達も嗤い始めたのだ。
クスクス……ケラケラ……。嘲笑うかのような嫌らしい嗤い声。ただの絵画の筈なのに、何故か聞こえてくる。勇者ちゃんがステンドグラス達を見上げて拳を振り回しても反応無しでますます嘲笑う。
そりゃそうだ。だってこれ人が描かれたステンドグラスなんだから。絵が応えるはずはないのである。
その様子を見て、魔王ちゃんは腹を抱えて涙を流し。さらに大嗤いし――目玉を飛び出させて驚いた。
その理由はただ一つ。憤怒の勇者ちゃんが軽機関銃を構えていたからだ。
勇者ちゃんは悪魔みたいな笑顔で高笑いをしながら軽機関銃を乱射し始める。
ドドドドドドドドッッ!!という轟音と共に辺り一面に弾丸が飛び交う。ゲリラ豪雨並みの弾幕が壁をステンドグラスを壊してゆく。
魔王ちゃんは大慌てで床から壁を、天井を走り逃げ続ける。勇者ちゃんはケタケタ笑いながら更に機関銃を乱射して追い詰めてゆく。
やがて弾丸が一発床に当たり。何と別の方向に跳ねたのだ。弾丸はそのまま直進し壁に当たるとまた跳ね返り。更にステンドグラスにぶつかって跳ね返る。力を失う事なく跳ね返る弾丸は壁を跳ね宙を飛び、乱射している弾丸と弾丸を跳ねながら不規則に飛んでゆく。
そしてそのまま。気づかない勇者ちゃんの眉間に叩き込まれたのだった。
ゆーしゃちゃんとまおーちゃん なつき @225993
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