ゆーしゃちゃんとまおーちゃん
なつき
第1話 決戦
魔王を倒せばどんな願いも現実にして貰えるらしい。そんな噂があった。
だから叶えたい願いを力に変えて。魔王に勇者達が挑むようになったという。
◇◇◇
穏やかな昼下がり。ステンドグラスの大広間。玉座に座る魔王の黒髪美少女は。勇者の金髪美少女から魔力で出来た半透明の剣を突き立てられながらそんな噂を思い出していた。
殺意の高そうな眼差しで剣を構える勇者ちゃん。背後と蒼い両目には炎すら燃え上がっている。
対する魔王ちゃんはやる気まったく無し。玉座に座り眠そうに半分閉じた黒目でうんざり頬杖をついて。しっしっと手を振り出ていけと言わんばかりだ。
それに呼応して首を左右に振る勇者の美少女ちゃん。なるほど、回れ右はしないらしい。正義感ある奴だと苦笑する魔王ちゃん。
と思いきや。勇者ちゃんは自分の剣を掲げた後、笑顔で刀身を叩く。どうやらこの剣は何でも斬れる願いを魔力の結晶で創った物らしく、魔王を倒し願いをこの世界に現実化したいから自分に挑んできたのだとか……。
やれやれ前言撤回だと言いたげにかぶりを振る魔王ちゃん。ついでに提案代わりにコロッセオのチラシも見せてやる。思う存分戦うならこっちが良い筈だと魔王ちゃんも感じるからだ。
もちろんそんな物で勇者ちゃんが満足する筈はない。だって魔王を倒さないと願いは現実にならないしと、かぶりを振って。勢いよく剣を振りかぶって斬り込んでゆく。
魔王ちゃんは付き合いきれないと半眼になり。勇者ちゃんが間合いに踏み込む瞬間に横から空気弾をお見舞いしてふっ飛ばす。
大きな音を立ててステンドグラスを崩して落下する勇者ちゃん。魔王ちゃんが壊れたステンドグラスから下を覗き込めば、勇者ちゃんが両手を振り上げて涙目で地団駄を踏んでいた。
まぁ大丈夫そうで何よりだと。魔王ちゃんはお昼の紅茶とお菓子の準備を始めたのだ。
◇◇◇
魔王ちゃんから容易くあしらわれ。勇者ちゃんは地団駄踏んで石を投げながら随分とご機嫌斜めだ。
腕組みしてうろうろし。とりあえず何か考え。
指をパチンと鳴らして。悪い笑顔でほくそ笑みを浮かべたのだった。
◇◇◇
穏やかな昼下がりは紅茶とドーナツが似合う。美少女魔王は温かい紅茶を飲みながら満面の笑顔で頷いていた。
今日のドーナツは大好物のチョコドーナツ。しかも砕いたアーモンドをまぶした物だ。
味は保証出来る。何せ一流のパティシエに作らせたのだから。
紅茶の程よい渋みを味わいつつ、ほぅ……とため息をついた魔王ちゃんがドーナツに手を伸ばそうとした瞬間だった。
いきなりテーブルごとドーナツが半透明の刃で一刀両断されたのだ。
いや、テーブルはおろか天井や壁すらも斬り落とされ。余波で窓が割れ、本棚も破壊され。内装がズタズタに破壊されてゆく。
驚く魔王ちゃんは瓦礫の山に飲まれてゆくのだった。
◇◇◇
外では勇者ちゃんが大剣を振りかぶり。魔王の城をケーキでも切り分けるかのように縦横無尽に斬り倒していた。
この剣は魔力で出来た剣。実体は無い。
だから大きさは自由自在だ。
なので思う存分剣の大きさを変化させ。勇者ちゃんは徹底的に魔王の城を斬り倒す。その光景は斬り刻むというよりは解体に近い。一太刀、一閃でバッサバッサと壮麗な城を瓦礫に変えてゆく……。
やがて瓦礫と化した山を見上げ、勇者ちゃんは満面の笑顔で大剣を肩に担いで握り拳を振り上げる。何かを成し遂げたような爽やかな雰囲気に、煌めくような汗が光る。その姿はまさに勇者だ……と思う。
これならきっと、この願いも叶う筈と。ウキウキしながら大剣を眺めた勇者ちゃんは顔をしかめた。
何故なら大剣は。未だ半透明のままだったからだ。
刹那。自分の脇に大きな瓦礫が飛んで来て大慌てで飛び退く勇者ちゃん。
驚いて瓦礫が飛んで来た方を勇者ちゃんが見やると。そこには鬼みたいな顔をした魔王ちゃんが涙目で地団駄を踏んでいる。どうやら魔王ちゃんのドーナツ付きティータイムを破壊したのが怒りを買ったのだろう。メラメラと瓦礫を溶かす程の怒りの火柱が昇っているのも納得だ。
しかし全く気にしない勇者ちゃん。どのみち魔王ちゃんを倒せば平気だと大剣を振り上げて突撃する。
しかし今度は魔王ちゃんもただでは置かない。同じく魔力で大剣を精製すると空で柄を握り、刃を水平にして受け止め斬り結ぶ。
再度、距離を置き。もう一度突進しつつ大剣を斜め下から振り上げて斬り込む勇者ちゃん。
もちろん魔王ちゃんも負けてはおらず、上から振り下ろして迎撃する。ぶつかった直後に勇者ちゃんもそれを引きもう一度攻撃を右から振り抜くように仕掛ける。それに呼応して魔王ちゃんも距離を引いて再度振るう。
ガンッ! ギィンッッ!! と金属音が鳴り響く。
何十何百という打ち合いの果て。煌めきと共に散らばる汗の中で、勇者ちゃん、魔王ちゃんの顔が笑顔に変わる。
多分全力の憂さ晴らしが原因だろう。輝く宝石のような滴の中で清々しい青春の笑顔で剣を振るい続ける二人。とても魅力的だがどこか白々しい目的を忘れた笑顔で交差する刃。
いつしか二人は晴れやかに――まるでスポーツでもしているような笑顔で危なっかしい凶器を振り回していた。
とは言えそろそろ体力も限界。疲労もピークに達した頃。二人は勝負を決める為に最後の一刀を放つ。
勇者ちゃんは下から斜め上に向かっての斬り上げ。
魔王ちゃんは上から斜めに振り下ろして迎撃。
ぶつかり合う二人の刃。
そして刃はお互い折れて。互いの頭にぷっすり刺る。
二人してばったり倒れ、そのまま動かなくなる。
乾いた風が砂埃をまとって、吹き抜けていったのだった……。
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