とりあえず、傍観しようと思った。
池中 織奈
とりあえず、傍観しようと思った。
我はトーマスという庶民である。
うん、ふざけた。ごめんごめん、一回目で俺ってば自分の事「我」って呼んでたなーって鮮明に思い出されてきて時々口調が…、てか今考えると「我」だの偉そうな口調だの、クソ恥ずかしい。
三回目の人生は、地球で生まれて「ファンタジー小説」見ながら懐かしかった。いやー、あの世界魔物も魔法もないのに妄想力半端ないわーって思った。
宇宙を冒険している感じの小説とかも懐かしかったからな。二回目の人生宇宙で生活してたから。エイリアンとかいたし。いやー、本当に色んな世界があって面白い。
ちなみに俺は現在まだ10歳です。でも何か戻ってきたからか、前世と変わらない魔力量とかだし、俺めっちゃ強い。これ、三回目の人生で携帯小説とかであったみたいに無双出来るんじゃね? ハーレムとか作れるかも。あー、でもめんどくさから慎ましく生きれればいいかーと決意した10歳児である。
そんな俺は今日は父さんと一緒に畑仕事中だ。魔法を使える事をばれると厄介そうだから、魔法は一切使ってない。でもこの俺が弱いなんて個人的に許せないから徹底的に体は鍛えまくった。
ふはは、一回目の人生でも二回目の人生でも戦ってたし、三回目の人生は武術を一通り習った俺の実力を思い知るがよい、とか脳内では一回目の俺にものっそ感化されて偉そうな事を思っているけど隠れてこそこそと訓練していたし、その実力を示すのは村の悪ガキとの喧嘩程度しかない。あ、でも体力は滅茶苦茶ついたけどな。畑仕事なんて楽勝だぜ!
という感じで、のんびりと生活をしていたのであった。
そして、16歳のある日。街に家族で出かけていた恋人であるセスが慌てた様子で家にやってきた。
「た、大変よ、魔王が現れたらしいの」
セスはそういって、大変慌てている。うん、可愛いなぁ。茶髪の髪で、くりくりとした目ですげぇ可愛い。見ているだけで何だか頬が緩む。
「ちょ、ちょっと、トーマス聞いてる? 魔王が現れたのよ! 300年ぶりに…。しかも300年前の最強最悪の魔王カイザックがよみがえったって噂なのよ?」
「ぶはっ…」
いや、笑っちゃいけないのはわかるけどさ。思わず噴き出した。
『魔王が現れた』ってのは大変なことだし、笑った俺なんて怪訝そうな目でセスに見られてるけどさ。凄く聞きたいのは、何そのデマである。
というか最強最悪の魔王って…ぶはっ。やべぇ、笑う。てか、よみがえったって何それである。
「…ぷ、いや、うん、気にするな。で、魔王がよみがえったって?」
「そうなの…。怖いわよね。魔王カイザックっていったら世界を滅ぼす手前までいったっていうじゃない。また世界を滅ぼそうとしてるのよ、きっと」
「世界を滅ぼす…ぶはっ」
「ちょっと、トーマス?」
「うん、ごめんごめん。気にするな」
そういって、怒ったようにこちらを見るセスの頭をなでる。ああ、セスの髪さわり心地いいなぁとのんびりと思う。
「でも確実じゃないんだろう、その噂」
「いや、でも見た人が居るっていってて…。本人がカイザックって名乗ってたって」
「へぇ?」
セスの言葉に何だか面白そうな事になっている予感がしてきたので、とりあえずセスを安心させるように抱きしめて「英雄が倒してくれるさ」と慰めてそのまま寝かしつけた。
そして、俺はセスがぐっすり眠っているのを確認して家から出て行った。
それで、俺が何をしているかというと、魔王領に居る。名前の通り300年前魔王が納めていた地域で魔物の数が尋常でない場所だ。何で俺がこんな場所に来ているかというと、ちょっとセスがいってた真相を確かめに行こうと思ったのだ。
デマだとわかっているのでどういうこったという事で…。何でデマかってわかるって? 最強最悪の魔王カイザックというのは一回目の俺である。蘇ったも何ももう16年前にこの世界に再び戻ってきているのだ。
というか、ウケル。確かに一回目の俺かなり超絶好き勝手してたし暇つぶしに侵略とかしてたけど世界滅ぼすとかんなことしねーよ。あれだ、人間の国同士とかわんねー侵略をしてただけである。それが滅ぼすってなぁ? 俺強いっていってもんな力ねーし。
それにしても最強最悪ねぇ…? あの頃は若気の至りで暴れてたからな。今考えると黒歴史か? 大事な人も作らず自由気ままに好き勝手やってたんだよな。
《姿隠し》の魔法を使って俺は魔王領をのんびりと歩いていた。気付かれない自信あるし。つか、俺を名乗る偽物って何だろうか。俺今侵略とか全く興味ないんだけど。平凡にセスとのんびりと村人やれればいいんだけど。成り上がりとかする気もないし。
適当に魔物狩りを楽しみながらも、魔王城にたどり着く。
魔王城は一言でいうと黒い。こんなあやしい城の中で偉そうに暮らしていた自分を思い出すと何だか笑える。それにしても魔王城って何で暗黒を思わせる感じなんだろうか。白の方が清潔感あって良さそうだな。一回目の俺何でこの城をかっこいいと思ってたんだろうか。果てしなく不気味だ。
お、知った顔発見。アイツまだ生きてたのかとか、あれは…、アイツの子供か? とか魔族の面々を見ながらも中へと入っていく。
宰相の居る執務室の中に入れば300年前も宰相をやっていた魔族の―――えーと、名前忘れた――ともう一人の魔族がいた。うん、一回目の俺他人に興味なさすぎだろ。何百年か一緒に居たのに名前さえ忘れるとか酷いな、おい。ま、今だって俺はセス以外に興味ないから冷たいかもだけど。とりあえずセスと俺だけいればいいんじゃね? っては思ってる。
「……あれは、本当にカイザック様なのでしょうか」
おお、宰相感鋭いな。俺は此処に居るぞ。本物だ! って出ていく気はなけど。
執務をする椅子に座って、書類と向かい合っていたそいつはもう一人の魔族に視線を向けてそういった。
「当たり前だろ。お前だって見てただろう。カイザック様の保存していた死体に命が宿るのを」
「そうですが…」
保存って、お前ら何してんの。死体保存とか怖くね? えー、てか、俺の死体が勝手に動いてんの。何それ、ゾンビ? 何で俺の死体とってたのこいつら。
話を聞いている俺は笑い声をあげないようにするので必死である。
「お前も素直に喜べって300年間も蘇生の魔術かけ続けてようやくカイザック様がよみがえられたのだぞ!」
「……ぶっ」
「ん? 今何か聞こえなかったか?」
「いえ、私には何も。空耳では?」
あー、やばいやばい。思わず笑ってしまった。死体を保存して、300年間蘇生魔術をかけ続けたって! お・ま・え・ら! 何やってんのこいつら、何やってんのこいつら! そんなに俺に未練たらたらだったのか。一回目の俺も今の俺もこいつらに興味ないのに。
一方通行の思いなんですね、わかります。でも興味ない奴にそんなに執着されてもぶっちゃけ気持ち悪いんですけどー、みたいなと何故かギャル口調の俺である。
とりあえずバカだろ、こいつらと思いながらも詳しい事情を聴くために俺は頑張って笑いをこらえる。
「でも…ヒジンよ、私はあれがカイザック様なのか疑問なのです」
そういえば、ヒジンって名前だったけなんて暢気に思いながら話を聞く。
「しばらく魂がさまよってたせいで色々あったんだろう。それにあんな風に魔法が使えるのはカイザック様だけだ」
「……そうですね。魂がさまよってたから、ですよね」
「そうだ。カイザック様に間違ってもそんな風に言うんじゃないぞ。首を飛ばされたくなかったらな」
「そうですね…。カイザック様か、と聞いたら首をはねられそうですね」
しかし、一回目の俺なんか外道すぎて思い出した記憶と目の前のこいつらの声聞いてて笑えるんだけど。何百年も昔からの知り合いをその場で殺したり、えげつないとしか言いようがねぇな。あの頃の俺マジ無双かましてたからな。そのせいで勇者に殺されたけど。てか、勇者ってずるくね? チート能力付きでさ。何の苦労もなしにチート能力手に入れてるとか、倒される身にもなってみろ。ただの人間だって侮ってたら、ガチでチートでやられたからな
ま、やられても仕方がないことやってたし文句なんてないけど。
それにしても、力を使えるってどういう事かね。ちょっと見に行くか。てか、中身誰ってすげぇ聞きたい。俺の体勝手に使われてるとか何か嫌なぁ。つか、300年も死体とっておくなよってこいつらに言いたい。
それにさ、魂がさまよってたって何。俺思いっきり二回も人生謳歌してたけど。
「それにしても、300年間毎日蘇生魔術かけ続けた甲斐があったな」
「それは、そうですね」
「カイザック様が帰ってこられたんだから、頑張った甲斐があった」
さんびゃくねんかんまいにちそせいまじゅつ…? え、何それって思った。えー、である。いや、蘇生魔術ってかなり難しいんだけど、かなり魔力食うんだけど。せめて一年に一回かと思ったのに予想外。駄目だ。吹きそうだ。蘇生魔術って成功しても代償居る場合もあるしなぁ…。
何やってんのこいつら、何やってんのこいつら。
「……多くの犠牲は無駄ではありませんでしたね」
「そうだな」
しかも犠牲って、何お前ら犠牲出してまで毎日蘇生魔術してたの? しかもそれだけやって偽物ってぶぶぶぶぶっ。ああ、爆笑したい。やべぇ、一回目の人生で興味なかったけど、こいつら愉快な奴かも。何で一回目の俺こいつらを玩具にして遊ばなかった。
おおお、駄目だ一回目の俺の性格の悪さが二回目と三回目の人生より超感化してる。
ま、とりあえず知りたい事情知れたし魔王見に行こう。俺の体使ってんのはどんな奴かね。魔法使えるみたいだし…。俺の魂が二等分されてたとか? うーん、と思いながらも俺は執務室から出て以前使っていた自室に向かう。
魔王城の廊下で何人かの魔族とすれ違ったけれど、気付かれなかった。流石、俺。あー、でも一回目の俺を使ってる奴が俺より強かったら困るな。ま、転移して逃げればいいか。
というわけで、到着したんだけど、
「俺が、魔王。俺が、魔王…」
とりあえず、感想。何だこいつ? 漆黒の髪を腰まで伸ばした、黒眼の男――俺の一回目の体であるカイザックは何だかブツブツ一人でいっていた。
一人でブツブツいってるとか、かなり怪しいんだけど。それに《姿隠し》使ってる俺に全然気付かないな、こいつ。それにしてもこの部屋300年間使用してなかったはずなのに、綺麗すぎね? 配下の連中、毎日蘇生魔術かけるぐらいだし、この部屋も毎日掃除してたとか? うわ、ありえそうで何かやだ。
ベッド、鏡、タンスとかそういう必要最低限のものしかそこにはおかれていない。あ、大きな箱が置かれてるけど、それには確か宝石いれてたはず。一回目の俺、綺麗なもの好きだったし。
「俺は、俺は無双が出来るんだ、夢だった無双が」
って、あれ? と独り言のあやしいカイザック(仮)を見る。
「ファンタジー世界で夢だった無双が…。かっこいい呪文とか、あとハーレムとか…ブツブツ」
しかし、近づいてもきづかねぇな、カイザック(仮)。感じる魔力も俺より断然低いしな。
「『黒の魔王』とか『血染めの魔王』とか呼ばれちゃうのかな、俺。やっぱり、通り名はかっこいい方が……ブツブツ」
通り名…? ぶはっ。何、呼ばれたいの、お前、きっと恥ずかしいよ? と思いながらも笑いをこらえてカイザック(仮)を見る。
「ふはは、ついに、俺の『ファンタジー世界に来る事が出来たらの計画』を実現する時が来た!!」
「ぶっ」
思わず口から洩れて、あわてて手で押さえる。幸いブツブツ言う事に必死なカイザック(仮)は気付かなかった。
こいつ、厨二だ。確実に厨二だ。じゃなきゃ、『ファンタジー世界に来る事が出来たらの計画』とか考えねぇよ。てか、何、それ真面目に考えてたのって聞きたくなってきた。
「そう、これは第二プランの、『異世界の最強に憑依したら』だな! くそっ、此処に計画をかいた『計画ノート②』があれば!!」
異世界最強に憑依したら、に計画ノート…。何、こいつわざわざそんなアホな厨二なことノートに書いてたの。大真面目にそんなこと考えてたのか。何やってんの、こいつ。あー、やべぇ、爆笑しそう。後で黒歴史になるぞ。てか、こいつ地球人だな、確実に。
「ノートの内容を少し忘れてしまうなんてなんていう失態! でも、『最強に憑依して本人と間違われたら』の後の行動パターンは完璧のはずだ。誰も…、疑ってないはず…ブツブツ」
ノートの内容を『少し忘れた』って、ほとんど覚えてんの。てか、こいつ中身何歳だ? 30ぐらいのおっさんで完成してるならともかく、10代だったら大人になってから何やってたんだって恥かきそうだよな、面白いからいいけど。
「それにしてもこの体は、便利だ! 魔法の使い方もわかるし、何となくここで生活した記憶も残っているし…。まさか、俺は魔王の生まれ変わりで呼びもどされたのか…だったら俺は無双が…ブツブツ」
ああ、なるほどと俺は実感した。魔力は人それぞれ独特なのだ。それで、魔力にも記憶が宿るとこの世界ではいわれている。実際魔力を与えたら記憶も与えちゃうって言う世界だし。要するに体に残ってる魔力が魔法の使い方や記憶をこいつに伝えてるらしい。
あと、お前は生まれ変わりじゃないぞ。此処に本体居るからな。あー、やべぇうけるなんて思いながらも分析の魔法を行使する。
そして、わかった事は300年間もの蘇生魔術によってすっかりこの体は健康らしいという事と、体に残る俺の魔力で魔法が使えてるだけらしいって事。強さでいったらそこそこ? でも配下の連中や人間よりは強いかな。俺よりは魔力少ないし、弱いっぽいけど。しかし、愉快だな、この厨二。
「とりあえず、折角ファンタジー世界に来てるんだから、無双を……。そして、ハーレムを…。女の子とイチャイチャ出来るだろうし…ブツブツ」
何こいつ、童貞? どんだけハーレムと女がいいのだろうか。しかし、危ないな。ブツブツ一人で言いすぎだ。地球に居たら変人扱いされて気持ち悪いって思われそうなタイプだよな。
あー、やばいやばい。爆笑したい。
『三百年間毎日犠牲を払ってまで蘇生魔術を行使した末に厨二患者を憑依させてしまった配下魔族』と、『厨二で異世界にいったらという計画を真面目に立ててた魔王の体に憑依た(おそらく)童貞男』。
このフレーズだけで面白くね? この茶番見てるのはすげぇ、面白そう。決めた。時々こいつら観察に来よう。俺はセスとのんびり暮らせればいいから、表だって出る気はないけど一回目の俺の性格がかなり戻ってきてるのか面白い事は大好きだし。傍観者として過ごすのも楽しそうだ。
配下の連中が気付くかどうか、どう動くか。カイザック(仮)がどんな厨二道を進んでいくのか。何だか見ている分には楽しそうだ。
ま、俺とセスに危害加える気なら思いっきり殺すけど。
「トーマス、何か楽しい事でもあったの?」
「面白そうな奴らを見つけただけだよ」
家に帰って、問いかけてくるセスに俺は笑って答えるのだった。
―――とりあえず、傍観しようと思った。
(目立つ気は今のところ一切ない。俺は村人として生きられればそれでいい)
とりあえず、傍観しようと思った。 池中 織奈 @orinaikenaka
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