2000何年かにあったこと

木島別弥(旧:へげぞぞ)

第1話

 そこに紙が一枚あって、書いてあった。


『世界を支配したぜ』


 どきっとした。


『この文字が日本語だとわかるやつ、呼び集めろ。世界を征服したやつに勝てる戦力を』


 叫んだ。


『おれが世界を支配した時の状態がこうだ。かかってくるんだ』


 大勢がその姿を見て、逃げ出していた。


『おれは二段階の変化を残している。一回目はサーヴィスだ。二回目は、怒った時のおれだ。三回目が、真実のおれ』


 物語が頭をよぎる。逃げちゃダメだ。戦わないと。


『さあ、このことばを聞いてもまだ残ってるやつは、勇気があるぜよ。百人に一人しか、この台詞のおれを見たりしない。かかってきな』


 襲いかかった。一撃で、刺し殺されたと思った。


『まだ、おまえは死んでないよ。RPGで説明すると、敵であるおれがおまえたちに全体回復魔術をかけて戦っている状態なんだ。この回はサーヴィスなんだよ。おれにも練習期間はあった。そのおれがいきなり全力で相手したのでは、後継者を選べない。今の自分を省みて、勝てるとわかったらかかってこい』


 血が流れているのに、みるみる傷がふさがっていく。ぼくは残酷に彼を鈍器で殴り殺す。


『彼が口を開ける。さあ、一回目の変身だ。怒ったおれになるぜ』


 死ぬかと思った。錯視を利用した恐怖の姿で、突然、全世界を襲ってきた。


『世界の滅び見。世界そのものと同時に滅ぼす。このおれに勝てなければ、本気のおれを見ることはできない』


 数人の子供と大人が混じり合って、その怪物を倒そうとした。世界が滅ぶというデータが全面に映し出されている。もうダメだ。絶望した。自殺する者もいた。世界を征服した者に手を出してしまった罪悪感から死ぬ間抜けがいた。


『時間がたった。今、世界が再生する。おれが世界を救いたいから救ったのであり、世界の救世主であるおれに逆らう者はみな惨殺する。覚悟を決めろよ。おまえら、みんな死ぬよ』


 信念が歪んだ。誰が敵かわからない。敵は、世界を再生した神さまにも似た存在だ。彼を殺したら、世界は滅ぶ。


『よく、おれを本気にさせた。これからが本番だ。いざ、かかってきて。本気のおれは、正気を保っていない。何よりも強く汚らわしい。醜い生き物だ。さあ、おまちかねの、二回目の変身だ。容赦はしないぞ』


 神は、青い空気に包まれていた。ぼくは、遠まわりに包囲した。それがよかった。一般人の姿をした彼に呼びかけられた。時間を逆行して来た彼だという。


『おれがいるから大丈夫という連中がやばい。これはおれを殺すゲームだ。それなのに、おれがいるからおれを殺しても世界が救われると思っている。バカだ。利害が一致しない。これはおれが死に、後継者に力を継承するゲームだ。おれはおれの死後、世界を救わなければならない。あいつがおれを殺す。おまえは、伝言を伝えるだけでいい。すべてを一からやりなおせだ』


 そして、ぼくらは彼を殺した。世界の征服者はこうして死んだ。ことになった。実際は、平凡な日本人にされて生きのびている。地獄のように平凡な暮らしをさせる罰を与えることになっている。


 世界を征服したやつが、一から作り変えることなく、どす黒い悪意に巻き込まれたまま、何も信用できず、自殺する。ぼくは、真相を知っている。世界を支配した神は、後継者に後継するのに失敗した。それが現在の世界だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

2000何年かにあったこと 木島別弥(旧:へげぞぞ) @tuorua9876

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る