電子メール

夢美瑠瑠

電子メール



           小説・『電子メール』



21世紀も50年を過ぎると、通信技術やコミュニケーション技術は、


飛躍的に進歩していた。


今やメールで送信できるものは文章や写真や音楽、動画だけではない。


三次元に再現された送り手の生の映像、声、触感、その他のリアルな「本人の姿」


が、忠実に、精密に再現可能だった。


「どこでもドア」みたいだが、本人を移送することはまだ不可能だった。


シミュレートされた本物そっくりの「影」が、自在に送信されて再現可能になっていたのだ。


もちろん、再現された似姿と親密な交接をすることも可能だった。


リアルな愛撫をお互いに交換して、本当の逢瀬よりもリアルなくらいの感覚の


(感覚を増幅することも可能ゆえに・・・)


SEXを楽しむこともできた。人類は空間の束縛というものを


今やほぼ克服していた!


そういう技術革新の成果として、新たなビジネスも次々と開拓された。


「ビデオワイフ」の販売というのもその一つだった。


好きな女優や歌手の忠実な再現アバターを自宅でおもちゃにできる、


秀逸な商品だった。


特別に課金すれば、実物とリアルタイムに交流もできる。


「今週の人気ビデオワイフトップテン」などというのが、ネット界隈をにぎわせていた。


ついちょっと前までちゃちいようなアンドロイドとかが性対象にされていたことを思えば、


長足の進歩である。


「いい時代になったなあ」おれは、お気に入りの岐村二三乃ちゃんのアバターを


思う存分おもちゃにした後でつくづくの感慨に耽った。


アバターを本物以上に性感の強い、淫乱な女性に調整することもできるのだ。


乱れ切った二三乃ちゃんのあられもない痴態を思い返すと口元が緩む♡


服装も下着も、色々とリクエストできる。夢のようなイノベーションだなあ、と


おれは新しい時代を寿いだ。


しかし、ただ一つ気がかりがあった。


何度か「リアルタイム交流」をした後で、


本物の岐村二三乃ちゃんが、どうも俺自身に惚れてしまったらしいのだ。


おれは馬鹿だしコミュ障でブサメンだが、おれの例の部分の鋼鉄のようなw感触に、


二三乃ちゃんは虜になってしまったらしい。


こればっかりは男女の密室の出来事で、二人にしかわからない事情だ・・・


二三乃ちゃんは結婚した後ではそういう遊びからは足を洗ってほしいらしい。


こういう百花繚乱のセックスライフを捨てて、最愛の人と結婚すべきか・・・


今おれは人生の空前絶後の選択の岐路に立たされていっそ自殺したいほどに?


悩みぬいているのである。



<了>

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電子メール 夢美瑠瑠 @joeyasushi

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