第10話 The ZOMBIE


「かつて人類間で最も愛された…ゾンビアポカリプス!!」

「…今度は一体何よ?」


青のお姫様が唐突に何かを言い出すことに慣れたお姫様たちの反応は淡白です。


「…こほん。今回はそのゾンビアポカリプスの世界観を再現したVRプログラムを準備したからみんなでやろうよ!ってこと」

「面白そうだね。せっかくだからやってみようか」

「…ったくしょうがないわね」


お姫様たちは各自青のお姫様の用意したVRサーバーにアクセスを開始しました。

そこに広がる空間は仮想現実。

存在しない空間が、あたかも存在するかのように振る舞う空間です。


「…酷く荒んでる風景ね」

「それは、ゾンビアポカリプスだからね。荒廃もしてるよ」

「人が生存できる環境には見えないなぁ…本当にこんな世界で人類は生き延びることができるんだろうか?」

「それは、わからないね。ゾンビアポカリプスはフィクションで、現実にそんなゾンビパンデミックが発生した記録はないからね」

「そもそもね、動く死体ってモノが非現実的なのよ。あんな腐った死体が立って歩ける訳ないでしょ」


そういう赤のお姫様の視線の先には、絵にかいたようなゾンビがこちらに向かって歩いてきていました。


「ゾンビは最初は原因不明だったり、魔法とかで無理やり蘇生されたりしたものだったらしいよ」

「魔法だって、人間はなんてロマンチストなのかしら?そんなもの存在するわけ無いのにね」

「でも、時代が進むにつれてウィルスだったり、化学力で人為的に作られた兵器だったりと変化していったんだよねぇ」

「パンデミックを引き起こして制御不能に陥るのは兵器として致命的欠陥なんじゃないの?」

「それだけ人間がバカってことでしょ?」


赤のお姫様は人差し指をゾンビに向けます。


「…?あれ?」


戸惑いながら何度も指を突き出しますが何も起こりません。


「ちょっと!?青の?レーザーが出ないんだけど!?」

「?出るわけないじゃん。人間にそんな機能付いてないし」

「人間!?」


そう言われてみれば、お姫様たちの姿は機械の体ではなく、よく聞く人間の姿そのものになっていました。


「はぁ!?何よこれ!?」

「当然でしょ?私たちの性能だったらゾンビなんてあっという間に殲滅できちゃうし、感染の恐怖っていう醍醐味もないじゃん」


そんなこんななやり取りをしている間に一匹のゾンビが赤のお姫様に組み付いてきました。


「ちょっ…何なのよこいつ!たかが死体風情が何でこんなに力が強いのよ!」

「それは、厳密には死体じゃなくウィルスによって脳の一部が破壊されて食欲のみで動き回る生物になったって感じの設定だからね」


ついに赤のお姫様は押し倒されてしまいました。


「そういうのは良いからッ!さっさと助けなさいよ!」

「丁度いいからそのまま死んだらどうなるかの説明もしたいから、いっぺん死んでみて」

「ふざ、けるなぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


叫び声がそのまま断末魔になり赤のお姫様は事切れました。

それからしばらくすると赤のお姫様(だったもの)がのっそりとした動きで立ち上がりゾンビになってしまいました。


「と、このようにゾンビになります」

「なるほどね、私たちの力も人間相当になってるんだ」

「そそ、だから慢心してるとすぐ死んじゃうからね。それじゃあいったんゲームリセットするよ」


その合図の後世界が暗転し、再び明るくなると先ほどの場所にリスポーンしました。


「…青のお姫様?覚えておきなさいよ」



それからしばらくして



「みんな随分このゲームに慣れてきたね」

「流石にね…。しかし、凄いねこのゲーム。現実との差が無いし、この広大なフィールドの演算を行えるサーバーを青のお姫様が持ってた事に驚いたよ」

「でしょー。実はね、このゲームの演算はマザーのサーバーを間借りしてるんだ。さすがに私のサーバーだとここまでの演算できないよ」


笑いながら語る青のお姫様に一同の表情は凍り付く。


「…あんた、今マザーのサーバー使ってるって言った?」

「うん。マザーにバレない様にするの結構大変だったよ」

「………こんなところに自殺志願者」

「そんなことして、どうなっても知らないよ?」

「大丈夫だって!」













  この後、滅茶苦茶マザーに怒られた



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機械姫 -おーとまたぷりんせす- クリシェール @kurisyeru

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