愛の力は偉大なり

 はっきりしない態度のあたしに業を煮やしたのか、変態男子は自説を語り始めた。


「もしかしたら、君もボクと同じように特殊能力ホルダーじゃないのかい。そう、例えばまくれたスカートを瞬時に鉄にする能力を持っている、とか」

「え、えっと、どうかなあ……」


 図星だ。しかし認めたくない。ナイスな言い訳も思いつかない。

 こちらを凝視する変態男子の視線が痛い。ただでさえ遅い頭の回転がさらに鈍くなってしまう。


「そうか。言えないのなら今朝の状態を再現するしかないな。悪いけど少しスカートをまくってくれないか。それではっきりするはずだ」

「いやよ。何が悲しくて男子の前でスカートをまくらなくちゃいけないのよ」

「そうしないと真実にたどりつけないだろう。それにスカートをまくってパンツを見せてくれと言っているんじゃない。ほんの少しまくってくれるだけでいいんだ。それならいいだろう」

「パンツがどうこうじゃないのよ。スカートをまくるという行為自体が嫌……」

「あぶない!」


 いきなり変態男子の両手があたしに向かって伸びてきた。抱きかかえるように背後に回された両手があたしの上半身を下に向ける。


 ――ガチン!


 お辞儀したような格好になったあたしは、尻の辺りに大きな衝撃を感じた。振り向くとスカートの後ろが全開にされている。そこにくっ付いているのは持っていたはずのクリップと変態男子の右手、そして競技用の槍らしき棒の先端。言うまでもなくパンツ丸出しの状態だ。


「いやあああ!」


 変態男子の手を振り解きスカートを元に戻す。落ちるクリップ。転がる槍。離れる右手。体育倉庫を回り込んで運動服姿の男子三名がこちらに走ってくる。


「あ、あそこだ。ごめん、ケガはないかい。こいつ新入部員で今日から投てきを始めたんだけど、とんでもない方向に槍を投げちゃって」

「そうですか。運よく逸れてくれました。これからは気をつけてください」


 変態男子が転がった槍を渡した。受け取った陸上部員が戻っていく。

 あたしは信じられない事態に気が動転していた。何が起きたのか、おおよその見当はついている。逸れた槍が体育倉庫を越えて飛んできた。それに気づいた変態男子があたしの上半身を倒し、同時にスカートを持ち上げたのだ。そして槍は鉄と化したあたしのスカートに当たった。もし彼がそうしてくれなかったら今頃あたしの体は串刺しにされていただろう。


「やはりそうだったのか。君のスカートはまくれると鉄になる。だから今朝、ボクの右手はスカートに吸い寄せられてしまったんだ」


 こうなったら認めるしかない。それに二度も助けてくれた相手にウソをつくのは心苦しい。


「そうよ。あんたの推測通りよ。あたしもあんたと同じ特殊能力の持ち主。少しでも裾が持ち上がればスカート全体が鉄のように硬くなるの」

「あんたと同じ、ってことはボクの右手が磁石になる話は真実だと認めてくれたんだね」


 無言でうなずく。全開になったスカートには槍の先端とクリップがしっかりくっ付いていた。磁石男子の右手によってスカートが磁化したためとしか考えられない。


「でもおかしいわね。あんた、どうしてあたしのスカートをまくれたのよ。少しでも裾が持ち上がれば金属のように硬くなるのよ。そこからさらにまくり上げられるのはあたしだけのはずなのに」

「ボクにも疑問点がある。スカートが全開になった時点でパンツは完全に見えてしまった。モロパンの状態ではボクの劣情は一気に減衰し、それとともに右手の磁力も消滅するはず。それなのに右手は磁化したままだった。あり得ないことだ」


 あたしと磁石男子は顔を見合わせた。互いに互いの気持ちを探るように無言で見つめ合った。


「これは、愛だな。それしか考えられない」

「愛? あんたあたしを好きなの?」

「どうやらそのようだ。劣情を超えたボクの愛が君のモロパンすらもエロスの対象へと昇華させてしまったのだろう。ボクの磁力を保持させ続けたのは劣情ではない。君への愛だ」

「じゃあ、あんたがあたしのスカートをまくり上げたのも愛の力だって言うの?」

「たぶんそうだ。だが、それはボクの愛ではない。君の愛だ。君のスカートはボクを受け入れてくれた。だからこそまくれたんだ。それはつまり君もまたボクを好き、ぐはっ!」


 あたしの右拳が磁石男子の腹にめりこんだ。それ以上の言葉は聞きたくない。


「勝手に決めつけないで。スカートをまくったくらいで彼氏づらされちゃ迷惑だわ。話はこれで終わったんでしょ。帰るわ」


 あたしは地面に置いたカバンを持つとスタスタと歩き出した。後ろから磁石男子の声が聞こえる。


「そうだな、少し結論を急ぎ過ぎたようだ。しかしこれだけは覚えておいて欲しい。君のスカートをまくれる男はボクしかいないことを。もしまくって欲しい時がきたらいつでもボクを呼んでくれ」


 あたしは歩く。体育倉庫を通り過ぎて運動場に出る。カバンからスマホを取り出し画像を表示させる。一日一度は必ず見ている、隠し撮りした磁石男子の画像。今朝はこれを見ながら歩いていて足を滑らせたんだっけ。


「ただの変態じゃなくてよかった。やっぱり思った通りの人だった。そして彼もあたしのことを……」


 梅雨明けの夕焼けが眩しい。明日からもあたしの学園生活はこれまでと同じように続いていく……ううん、同じじゃない、少しだけピンクに染まったバラ色の日々となって続いていくんだわ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鉄壁スカート女子高生 沢田和早 @123456789

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ