005

 だけど、なんでだ。

「ハッ……今、君はボクを見て少なからず欲情したように見えたよ」

 ヤツは目を細めた。その後、ヘたりと体型を崩して短いスカートをちょいと持ち上げて、

「しかたがないなぁ……いいよ」

 と、半ば呆れたような口調でそう言った。

 なにが「いいよ」だ。他人ん家でやるポーズじゃないだろそれ。

 現在、俺達は高校一年。俺とヤツは同じ学校に通っている。先ほどのヤツの言動でもわかる通り、中学の時と今では、大違いだ。

 いつ変わったのかは、よく覚えていない。

「アホか」

 俺はため息を吐いて、ヤツから目をそらす。

「でも、いつもとは少し違っていたように見えたよ」

「考え事をしてたんだ」

「ボクの顔を見ながら?」

 ああ、そうだよ。

 コイツの顔を見てたら、ふと昔のことを思い出しちまった。

 あの頃、全然見れなかった顔。

「ふふ、どんなことを考えてたのかな? いやらしいことかい?」

「違う」

 四足歩行でちまちまと近づいてくるヤツに、頭に軽いチョップ。

「あうっ、もっと強く!!」

「変態か!」

「ああ、そうだ! ボクは君が思っている以上の変態だよ! もっと言うと『ド』が付くほどに!」

 ヤツはとんでもないだったのである。

 目を輝かせて、とんでもない事を言い放ちやがる。どうしようもないやつだ。

 だけど。

 あの頃と、まったく変わってない瞳、笑顔(身体の凹凸も含めて)。コイツの根本は変わっていない。

 コイツがあの頃言っていた変なところ、というのはきっとこの言動に対してのものだったのかもしれないが、それがどうした。中学三年間、俺とコイツはずっと一緒だった。おまけにクラスもだ。そして、今も同じだ。これまで変わらず友達だった。

 どんな変態であれ、なんであれ。俺とコイツは、友達なのだ。

「六月になると、ボクは思い出すんだ」

 低い天井を見上げて、ポツリと呟いた。

「君と出会った、あの日のことをね」

 照れくさそうに、ヤツはこちらに笑顔を向けた。

 友達になって、四年目の6月を迎える日のことだった。


「ああ、あの日って、女の子の日じゃないからね」

「わかってるっつーの! 最後に台無しにするな!」


 End.

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あんたいとる!-overture- 不知火ふちか @shiranui_fuchika

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