第二話 無能の烙印
思わず声が出る。戦闘が…できない?そんな、これから訳も分からんものと戦わなきゃいけないのに戦闘ができないってどういう事だよ。
俺は必死になって国王に詰め寄る。
「ど、どういうことですか!戦闘ができないって…」
「――そなたは戦闘に従事することができないのだ」
再びざわめきが起こる。「戦闘できないって戦わないって事?」「え、アイツまさかの用無し宣告?」「あいつらし過ぎて笑うわ」と、皆口々に俺の“悪口”を言っている。
「せ、“戦闘不可”だった人は他にも…!」
俺がそう問いかけるが、皆顔を見合わせ、そんなことないと言わんばかりにクスクスと笑っている。
そこに、ハルが追い打ちをかける。
「つまり、神崎さんは“役立たず”って訳ですね」
トモヤがゲラゲラと笑う。
「そんじゃ俺たちの靴でも磨いてもらうか!」
そんなしょうもないジョークに、皆合わせたように笑う。なんだ、そんなに俺が可笑しいのか。見てて面白いのかよ。
その様子に見かねた国王が、横入りする。
「諸君!…取り合えず歓迎の宴の席を用意してある。今日はもう遅い、しっかり休んで明日からの訓練に備えるといい」
(こんな…惨めな事ってあるか?)
$$$$$$$$$$$$
宴の広場らしきところには、豪勢なシャンデリアに、長椅子。そして長机の上に並べられた色とりどりの料理があった。
我先にとめぼしい料理に飛びつくものもいれば、友達やグループで談笑しているのもいた。そんな中で俺は、さっきのことが信じられず、端っこの席にちょこんと座って、ハムの様な何かをつまんでいた。
「神崎君?」
不意に聞こえた俺を呼ぶ女の子の声。
「マキか…どうしたの?」
声の主は『
「その…そんな落ち込まないでよ」
「ありがとう。でも、落ち込んでないよ」
「そ、そう?それなら良かった」
マキは料理を手に、俺の横に同じようにちょこんと座る。
「なんかファンタジーみたいだね」
そう言うマキの目は輝いている。
「はは、そうだな。…でも、俺は今でも訳が分かんないよ」
そう、この転移。そしてグランツ・エーレ王国と、魔王。突然過ぎて理解が追い付かないのに、それに加えて全く現実離れした話…。俺はここに来るまでずっとそのことを考えていた。
「私、“回復魔法”と“計画立案”って書いてあったの」
計画立案…まるで軍部の参謀みたいだ。でも、マキに向いてると思う。普段から成績のいい彼女は、俺と違って可愛いし、人望も厚い。そして、なんたって頭の回転が速いから状況判断とか得意そうだ。
「それじゃあ、皆をサポートできそうだな」
「うん!なんだか分からないけど、皆の役に立てたらいいなぁ~!」
「俺も…陰ながら皆を応援するよ」
マキのお陰でちょっと希望が湧いてきそうだったのに、そこでトモヤが水を差す。
「おやおや、無能君がここで何してんのかな?」
「…」
俺は押し黙る。何も言い返せない。
「喋んねーのか。まあ、そりゃ役無しの役立たずだしな!」
食事をしていた他のクラスメイト達からも、クスクスと笑い声が聞こえてくる。そこに、更にハルが付け加える。
「仕事もしないのに、ご飯食べないでくださいよ」
耐える。耐える。だって、このままでは本当に“役立たず”だから…!
「ちょっと!何言ってるの!」
(え!)
予想外の出来事だった。
マキが突然席を立ち、トモヤに向かって怒鳴った。
「神崎君だって、みんなの役に立ちたいって思ってるんだよ!」
「何だよマキちゃん。そんな奴庇う事無いって。ほっとこうぜ。それよりさ、俺たちと一緒に食事…」
トモヤがそう言いかけた時に、俺は席を外し、会場から飛び出した。これ以上マキに迷惑をかける訳には行かないという俺なりの配慮のつもりだ。
飛び出したのはいいが、特にこれと言って当てはなかった。兎に角、今は馬鹿みたいに広いこの建物の巨大な廊下をウロウロと徘徊している。今頃は、皆楽しく料理を楽しみながら談笑している頃だ。
(結局俺はハブられるのか…)
独りは慣れてる。馬鹿にされるのも。もちろん、俺がマキに庇ってもらう程価値のある男ではないことも分かってる。そんな苦悩を胸の奥に押し込んで歩いている俺を、天窓から差し込む月光が照らし出す。
(ん…?)
照らし出されたのは俺だけではなかった。窓際に後ろ手を組んで満月を眺める軍服を着た人の姿があった。それを認めた俺は、別に話しかけることもなく、後ろを静かに通り過ぎようとしたが。
「今夜は月が綺麗だ」
その人物が急に喋りだす。独り言だろうと思い、邪魔にならないようにそそくさと立ち去ろうとすると、今度は呼び止められた。
「なあ、そう思うだろう?」
明らかに俺に向けての問いだった。
俺はその場で歩みを止め、その人物の数歩後ろのところで居心地悪そうに立つ。
「そ、そうですね」
適当に返事をする。と、更に言葉が返ってくる。
「…君、今日召喚された“勇者”とやらだろう?」
「え、ええ」
ぎこちなくそう答えると、その人物はくるりとこちらに振り返った。その時に、後ろで結んでいた綺麗な赤色のポニーテールが風に揺れた。
「自己紹介、まだだったな」
そういう“彼女”はにっこりと笑う。
「私は第一憲兵隊隊長のイルザ少佐だ。よろしくな」
月に照らされた彼女の顔は、とても美麗だった。月のせいか分からないが、肌は透き通るように白く、吸い込まれるような真っ青な瞳。顔立ちも端正で、俺は思わず彼女の顔に見入ってしまっていた。
「どうした、何か顔についているか?」
「つ、ついてないですよ。…よろしくお願いします」
「そうか、よろしくな。ところで、君の名前は?」
「カンザキ コウです」
「カンザキか…面白い名前だな!」
イルザさんはそう言って、にっと笑うと、そのまま何処かへ歩いて行ってしまった。取り残された俺は、一体何だったんだと悩みながら、徘徊を続ける。
すれ違う軍人は俺に対して敬礼をしてくれる。あんな宴会場にいるより、廊下でウロウロしていた方がよっぽどマシだ。まあ、そう思えるのはクラスの中で俺だけだろうけど…。
貴族らしき人は見ただけで分かる。放つオーラが他とは違っているし、身なりも整っている。というより、質素ながらも華やかだ。既得権益に縋り付くダニの様なものだと思っていたが、実際に目の前にしてみると、果たして同じ猿人から進化してきた同族なのだろうか。
「こんばんは」
挨拶も簡潔。俺が異世界人と知ってかは分からないが、あまり目を合わせようとしてくれない。まあ無理もないか。俺だって異世界から来たなんて奴と目を合わせるのはゴメンだ。
「おーい!神崎君!」
廊下の奥から聞こえてきた俺を呼ぶ声。これは…さっきも聞いた、これはマキの声だ。しかしなんで彼女がここに?今は宴会中じゃないのか。
「なんでマキがここにいるんだ?」
「なんでって…神崎君が急に飛び出したから探しに来たんだよ!」
ああ、俺を探しに来てくれたのか。…本当に優しいんだな。
「ゴメン」
「それより、早く戻ろうよ!みんなでご飯食べようよ!」
マキの俺を案じての提案も、今の俺にはささやかな“悪意”だと感じ取ってしまう。もうここまで心が歪んでいるのかと、本当に情けなくなった。誰にも相手にされないし好かれないのに加えて、このクズっぷりじゃあ、もう救いようがないじゃないか。
「…ありがとう。でも、ちょっと気分が優れないから」
「そうなの?大丈夫?熱とかない?」
「ああ、多分ちょっと食事が体に合わなかったんだと思う。なんたって“異世界”の食事だからね」
「でも大事にしてよね?」
「うん、ありがとう。マキは早く戻った方がいいんじゃないか?」
そう言って彼女に戻るように促すが、本気で俺のことを心配して中々離れようとしなかったので、心苦しいが、最終的に半ば強引に突き放した。後悔はしてない。マキはあの場所に相応しい人間だ。俺なんかといて、彼女の評判が悪化するようなことがあったら、俺は恥ずかしくて顔向けできない。
理不尽な世界を“権力”で踏ん張る~戴冠式には間に合うか~ あがしおんのざき @samplename
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