最終回

「とりあえずレッド・パスターくんとピンク・パスターくんは無職のカップルになるということだね。のっけから大変な新婚生活になるわけだけれども、まあ頑張ってくれたまえ。それに較べたら独り身なだけ、ブルー・パスターくんの方は身動きが取りやすいだろうね。けれども、前職の経験を活かそうなんてまかり間違っても考えないことだね。宇宙マフィア相手の戦闘技量が必要とされる職場なんてそうはないだろうからね」

「そんなのいや~!」

 突如突き付けられた厳しすぎる現実を前にして、ピンク・パスターがその現実から逃れるように悲鳴を上げた。

「泣きたいのはこっちだよ。きみたちゃまだ良いよ? 若いから。その気になれば働き口なんていくらでも見つかるでしょ。私なんざ五十も半ばを過ぎた今になって無職だよ。こんなおっさん雇ってくれるところなんてどこにもありゃしないよ。家のローンだって残ってるし、息子だってまだ大学を出ちゃいないんだ。明日からどうすりゃ良いんだよ」

 そう言ってグラスの中のビールを一気にあおる隊長。愚痴が止まらない。

「繰り返しになるけどね、なんで相手潰しちゃうの。こうなるってことが分からなかったの? 活かさず殺さずっていう言葉、知らないの? ちょっと考えれば分かりそうなもんだけどね。レッドくんもピンクくんも、コロッスーゾ・ファミリーがどうとか関係なしにさっさと結婚してしまえば良かったんじゃないの? ブルーくん、きみも悪いよ。もうちょっと手心加えてくれてたら、コロッスーゾ・ファミリーだってこんなにも早く潰れなかったんじゃないの? 本気出すからこうなっちゃうんだよ。確かに頑張れとは言いましたよ? でも潰してしまえなんて、私ひと言でも言いました?」

 隊員の面々にはもはや返す言葉もない。

 どうしようもない沈黙が、酒席を覆っていた。


 沈痛な空気を破ったのは隊長のスマートフォンの着信音だ。

「はいもしもし隊長です。えっ? ノコラーズ・コロッスーゾが留置場から脱走した? それは出動命令ということでよろしいですか? はい、分かりました。さっそく隊員を招集して、追跡させます」

 隊長は通話を終えると三人に向き直った。

「聞いてのとおり、打ち上げパーティーは中止だ。ノコラーズ・コロッスーゾが留置場から脱走した。身柄確保を急がねばならない。いまならまだそう遠くへは逃れていないはずだ。レッド・パスターくん、さっそくパスターカーに乗って、逃走者の追跡を開始してくれたまえ」

「了解しました隊長。しかし、いまパスターカーを運転したら飲酒運転になってしまうので、追跡はひと眠りして酔いが覚めた明日からにします!」

「よろしい分かったそういうことなら仕方がない。ではブルー・パスターくん。きみの身体能力ならば走って捕まえることが出来るだろう。さっそく追跡を開始するのだ!」

「了解隊長。でもいま走ったら、追いついても酔いが回って返り討ちに遭うだろうから、追跡は酔いが覚めてからにするぜ!」

「負けてしまっては本末転倒だ。これも仕方がない。最後にピンク・パスターくん!」

「ダメです隊長。私にはみんなから預かった会費で飲み代を精算しなければならないという重大任務が残っています。それが済んで、しかも明日になってから追跡を開始します!」

「むう! 確かに飲み代の精算はゆるがせに出来ない重大な問題だ。宇宙特捜戦隊たるもの、無銭飲食は許されないからね。是非そうしてくれたまえ」

 隊長は最後に言った。

「どうやら明日からの仕事は、全面的に任せることが出来そうだ。みんな、大人になったな!」

 隊長も隊員もその表情は何処までも晴れやかなのであった。


                 (完)

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宇宙特捜戦隊最後の日――組織の存立目的の達成と組織防衛に関する一考察―― @pip-erekiban

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