後編
「せんせぇ〜どうして外に出たんですかぁ?漫画の描き方を教えてくれるって言ってたのに話が違うじゃないですか。」
太陽が真上に来る時間になってから私達2人はロッジの外に出た。だがそれに対しキリンは不満げだ。
「…キリン、漫画を描く上で1番大事な物はなんだと思う?」
「そりゃあ絵の上手さじゃ無いですか?伝えたいものを絵に出来なきゃ意味が無いですし、だから早く戻って絵の練習をですね…」
「確かにそれも大事、でも最も重要なのは……ネタさ。どれだけ絵が上手くたって読む人を引きつけるシナリオがなけりゃ漫画にはならない。」
「成程…?」
「と、言う訳でネタを探しに外に出たってわけさ。」
ロッジを1歩出ればそこは鬱蒼とした森の中。草、虫、鳥、セルリアンなんでもござれでネタの宝庫ともいえるお気に入りの場所だ。
「でも先生、ネタとは言いましたけどどうやって見つければいいんですか?」
「どうやってかぁ…ホラ、あそこにボスがいるだろう?」
たまたま目に止まったボスを指さした、キリンはじっとそれを見つめている。
「キリン、君ならあのボスに何をさせる?」
「何を…させるですか?」
「そう、なんだっていいんだ、実はあのボスはキツネのフレンズが化けていたー、とかでもいい。」
「いやいや、そんな事あるわけないじゃないですか。」
腕を手前において横に振る素振りをみせた。冗談だと笑っているのだろう、
「そう、まるで冗談みたいだよね、でも
漫画ならそれが出来る、あのボスが美味しい特性じゃぱりまんを運んでいるっていう事にも出来るし、実はボスが沢山いるって事にも出来る、話として纏まっているのならどれだけめちゃくちゃにしたって構わないんだ」
「……!」
キリンは驚いて言葉が出ないようである。
「そうやってめちゃくちゃにする為のヒントを探す為に私達は外に出ているのさ。」
「成程…わかりました!ネタ探しは大事な事なんですね!」
そういうとキリンは好奇心のままに走り出した。
……ちゃんと伝わったのかどうか不安だ。
2人でネタ探しを初めてから少し時間がたって太陽が少し傾いた頃、
「どうだいキリン、何かネタに使えそうな物は見つかった?」
そう聞くとキリンは自信ありげに答えてみせた。
「はい!沢山ありましたよ先生!まずあそこの木の枝見て下さい!何本か折れてるでしょう?」
キリンの指さした方向をみると確かに木の枝が折れていた。周囲の土が荒れている所を見るとハンター達がセルリアンと戦った跡だと推測できる。
「私はあの木の枝、ここに来たフレンズが道に迷わないように目印を付けたんだと思うんです!」
「へぇ…確かにそうかもね」
「だからこのネタを使って、名探偵キリンが犯人が付けた目印を辿って逃げる犯人に辿り着くって感じで…」
「どうして逃げる犯人がわざわざそんな目印を残すんだい?」
「う」
キリンは言葉を詰まらせた。
どうやらそこまでは考えていなかったらしい。
「で、でもまだまだありましたよ!あの…」
結果から先に話すと、キリンは私より多くの物を見つけていた。だがキリンは上手く漫画に取り入れる事が出来ないようだ。
「沢山見つけたね」
「私は元々警戒心の強い動物でしたから…こういうのは得意なんですよ」
「成程…すごいね、キリン」
「えへへ、ありがとうございます先生。でも漫画に生かせないなら意味ないですよねぇ」
「うーん…方法を変えてみようか」
「方法ですか?」
「そう、何かを見つけようとするんじゃなくて今までにあった事からネタを探すんだ。キリン、今日何があった?何でもいいから思い出してみて」
「そうですねぇ…あ、朝見たことの無いじゃぱりまんがありました!」
確かにあったね、
「それと…夜にハンターさん達が泊まっていきましたね!」
そう言ってたね、
「あと…最近セルリアンが多いって言ってましたね!先生の後ろにもいますし」
そうそう、最近セルリアンが……
私の後ろ?
後ろを振り向いてみると確かに数匹のセルリアンがいた。それもかなり大きい。もしこれが「名探偵ギロギロ」のワンシーンなら集中線を付けて強調したい所だ、これが漫画でないのが悔やまれる。
「それと…」
「キリン!思い出してる場合じゃない!早く逃げよう!」
「え?え?」
状況が理解できないキリンの手を引いて走り出した。セルリアンも私達を狙って追いかけて来る。
「せせせ先生!1回ロッジに戻ったらどうですか?」
現状を理解したキリンはロッジに戻ることを提案した。キリンにしては名案だ。あの大きなセルリアンはロッジの入口にある橋を渡ることはできないだろう。私達はロッジ目指して左へ右へ、前に出るキリンを追う形で走り続けた。
だが逃げる為一心不乱に走ったのがいけなかったらしい
「…先生?アレ見て下さい」
私達が逃げた先には先程見た折れた枝があった。つまり私達は道に迷ってしまったのだ。
「コレは…まずいね」
私はキリンの手を引き近場の大きな木の影に隠れた。セルリアンも気がついていないらしく、キョロキョロと辺りを見回している。
「………」
私が息を整えている中キリンは何か考え込んでいる様子だ
「なにかいい作戦でも思いついたかい?」
「……はい!先生。私がセルリアンを引きつけます、その隙に……逃げて下さい」
キリンが提案したのはつまるところ「囮作戦」である。でもそれじゃあキリンが危ない、それに仲間意識が強いオオカミとしては仲間を見捨てるような真似は出来ない。
「キリン、私は君を見捨てたくは無いし…第一君一人が突っ込んでいったってセルリアン全員が君を見てくれるとは限らないだろう」
「じゃあどうすれば…」
「キリン、漫画って言うのはね…全員が笑顔にならないとハッピーエンドじゃないんだ、仮に私が助かったとしても君がいないんじゃそれが正しい選択だったとは思わない」
私は息を吸い直し唾を飲み込んだ。
「……私に作戦があるんだ、協力してくれるかな?」
「作戦…」
「作戦といっても正直上手くいくかは分からない、それに中身はキリンのとそう変わらないけどね、キリンが前に出てセルリアンを引きつける…ここまでは一緒」
「そして私が逃げる代わりに助けを呼ぶんだ、その後は私も一緒に戦う、君を1人には出来ないからね」
「…わかりました」
「それじゃあ、サン、ニ、イチでいこう、準備はいい?」
「……はい!」
アオーーーーーーーン!!!
遠吠えが森中に響きわたる。
それと同時にセルリアンがこちらを向く、
そのタイミングでキリンは別の木の影に回り込みセルリアンの背後を取った。そのまま彼女は目を光らせ野生を解放したままセルリアンの弱点である石を強く殴りつける。ぱっかーんと強い音が鳴ると共にセルリアンの破片が周囲に飛び散った。
まずは1匹、残りは視認できる限りでは5匹、
そのうちの4匹がこちらを向いている。
残りの1匹が先生を捉えている。
アオーーーーーーーン!!!
2度目の遠吠え、
先生を見据えていたセルリアンが突進している。先生はセルリアンと向かい合う形で体を低くしていた。
少しだけ遠吠えの余韻に浸る。
それを済ませば目を見開き獲物を捉える。
後ろ足で地面を蹴りセルリアンへ向かう、
プレーリー式の挨拶がしたい訳じゃない、
正面に備え付けられた石を狙っているのだ。
セルリアンとのすれ違いざまに私は爪を立てる。見切り勝負は私の勝ちだ、私の背後でセルリアンが砕け散る音が聞こえた。視認できる限りではセルリアンは残り3匹、ひょっとしたら助けは必要ないかもしれないな、
残りのセルリアンを囲むように2人が立つ、
その姿はオオカミが獲物を囲む狩りのようだ
、だがタイリクオオカミは見落としていた。
キリンが認知していたセルリアンの一体を視界に入れる事が出来なかったのだ。
彼女がセルリアンをぱっかーんした時から視界を外れ、隙を伺っていたのだ。
油断したタイリクオオカミの背後からセルリアンが襲いかかった。
背後に忍び寄っていたセルリアンに強く体を突き飛ばされ、木に体を打ち付けた。
紙一重のタイミングで攻撃を避ける事は出来たものの腕を掠めてしまった、これではまともにセルリアンとは戦えない、
それを見たキリンが心配そうに駆け付けた。
「大丈夫ですか先生!先生!」
「弱ったね…これじゃあ漫画が描けないや…」
「先生、逃げましょう!」
「逃げる……いや、もう大丈夫」
足音が3つ聞こえてくる
その1つが飛び上ったと思うと、一瞬のうちにセルリアンに熊手が深くめり込んでいた
「キリン、私たちオオカミ…いや、イヌの仲間は鳴き声でコミュニケーションを取るんだ。嬉しい時や楽しい時、悲しい時や…
助けて欲しい時も、だよね、リカオン?」
「私達はあんな遠吠えはしませんけどね…」
セルリアンハンターの1人、リカオンがキリンの側に立っていた。
「この時間に何回も遠吠えするなんて何かあったのかって思いましたけど…見に来て正解でしたね」
「お陰で助かったよ…ありがとう」
……という事があったんだ。
腕が使えないから暫く漫画は休む事にするよ
…キリンは残念そうにしてたけどね、それに私だって退屈なんだ、キリンがじゃぱりまんを運んでくれるのを待つ以外にやる事がないんだからさ。
…そう、だから私の話に付き合って貰ったってワケ、
どうだったかな?「タイプ」の話、
セルリアンから隠れる時、君ならどんな選択をするのか…君は一体どんなタイプのヒトなのか……そんな事を考えてくれたら嬉しいな。
それじゃあまたいつか、別の機会に。
「タイプ」と狼 モノズキ @monozukihurennzu
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