バクの話

@azuma123

第1話

 ひどい夢を見たためバクに食ってもらおうと思い、動物園に行ってきた。最寄り駅から電車を乗り継ぎ、40分ほどの場所である。入園料の700円を握りしめてでかけ、無事にたどり着いて受付のお姉さんからチケットを受け取った。入園するとすでに獣臭い。入園すぐにフラミンゴやカモなどの水鳥がいたが無視し、とにかくバクを目当てに奥へ進んでいく。脇目もふらずにずんずん歩くわたしを不思議に思ったのか、サル山の中で餌を撒いていた従業員が餌撒きを中断し、オリの中から「なにかお探しですか」と叫ぶように聞いてきた。「バクを見たくて」と返すと従業員はわたしから見て右の方を指差し、「バクならここをまっすぐ」、と言いかけてサルに襲われてしまった。数十匹の猿が彼の身体にたかり、はけた時には、彼の身体はもう肉ダルマになっていた。餌撒きを中断したので、しかたのないことである。

 右に進むことにする。ゾウやキリンなどオーソドックスな動物たちのオリがならび、彼らはオリの中で草を食ったり水を浴びたりしている。二十人ほどのニンゲンが入っているオリもあり、彼らは総じて全裸だった。かわいそうに身体を寄せ合い暖をとっている。興味がわいたのでオリにかかっている説明を読んだところ「犯罪をおかしたニンゲンを見せしめにしています」と書かれていた。犯罪をおかしたのか。では、しかたのないことだろう。

 ニンゲンのオリから少し歩くと、白と黒の模様が見えた。バクである。わたしはオリに近付いて「おうい、バク」と声をかけた。バクはオリの中から「オレはウシだぜ」と返してきた。困ってしまったので「冗談いうなよ」ととがめると、バクはハハハと笑った。さっそく夢を食ってほしいとお願いしたところ、今は満腹だから嫌だと言う。どうしようもないのでしょげてしまった。空腹になるまで待つか諦めて帰ってしまおうか悩んでいると、バクはまたハハハと笑ってから話し始めた。「さっき、アンドロイドの夢を食ったぜ。電気羊の話だった」

 その後、バクの話は途切れることがなかった。わたしは夢を食ってもらうことを諦め、話の途中で帰ることにした。生まれてから今まで支離滅裂な夢を餌として与えられているバクは、すでに頭が狂っており自分をコントロールできなくなっていた。バクは泣きじゃくり床に頭を擦りつけ、話すのをやめようともがきながらアンドロイドの見た夢を話し続けた。

 わたしは帰宅し、本日の夢見も悪いのだろうなアと気が重いままである。

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