肝臓をイわした話

@azuma123

第1話

 朝起きると道端だったので、嘘だろうと叫んでしまった。久しぶりに酒でやらかした。もう途中からまったく記憶がない。仕事終わりに同僚と酒を飲みにいったのはいいが、気が付いたら朝で、道端だった。コートもカバンもなにもない。着の身着のままで開店前の飲食店前に転がっていた。とにかく九時から出社だったため、家に帰らねばならぬ。かろうじて腕についていた時計を見れば、時間は七時をまわっている。立ち上がり、ここはどこだと少し歩いてみると、職場最寄り駅の近くだった。知っている場所でまだよかったナと電車に乗って帰ろうと思うが金が一銭もない。徒歩で帰るには時間がない。会社に遅刻の連絡を入れようにも、携帯電話がないのである。誰かに電話を借りるか、いや、会社の電話番号は携帯のアドレス帳を見なければわからない。完全に「詰み」だなととにかく交番に入り、おそらく当直だったのだろう「寝てました」の顔をしている警察官に「金を貸してくれ」と泣きついた。一九〇円あれば帰宅はできる。家に帰ればまあ、何かしらあるのだ。警察は「いつもなら返してもらうけど、かわいそうだからあげます」と五百円を渡してくれた。ありがとうと頭を下げて、その足で切符を購入して帰宅する。家に帰るとすでに八時前で、シャワーを浴びて着替える。コートはなくしたので別のジャンパーを着た。なにを思ったかカバンは持たず、家にあった一万円札のみポケットに突っ込んだ。そのままとんぼ返りで同じ電車にのり、会社に到着する。業務開始の九時一分前に打刻し席につくが、なんだかいつもと調子が違う。アルコールが抜けていないのだ。酔った頭で仕事をするのはどうにもいかんが仕方のないため、とにかくおかしい行いがないよう全意識を集中させる。それまではまだよかった。一時間も経ってアルコールが抜けてくると、体調の悪さが襲ってくる。とにかくひどい吐き気と頭痛に(これはシャレならん)と二十分ごとにトイレにかけこむことになった。ひどい二日酔いの経験は豊富であるため、まあ今回もじっと我慢していれば治まるものだと水を飲んでは吐き、飲んでは吐きを繰り返す。しかし、昼飯時を過ぎてもますます体調は悪くなるばかりで全く改善の兆しが見えぬ。何かを腹に入れねばと飲むヨーグルトなんかを飲んでみるが、次のターンには全て吐いてしまう。悪寒とめまいもやってきたのでこれは重症だと感じ始める。デスクでぐったりしていたところ、同僚から「熱があるのでは」と体温計を貸してもらう。測ったところ三十九度近い熱があったため、早退することになった。

 わたしは過去に数回、酒で肝臓を殺したことがある。その時と同じ症状に(まずいことになったぞ)と感じ、急いで帰宅する。今なら水を大量に飲んで大量に胃液を吐き、あたたかい布団で眠ればワンチャン肝臓が生き返る可能性がある(ない)。鈍行で止まる駅のたびにトイレにこもって吐き、そして吐き、帰宅できたのは夕方四時過ぎであった。部屋が荒れておりできれば洗濯、掃除など行いたいがそんなことより肝臓だ。水を大量に飲んで吐き戻し、一瞬すっきりしたタイミングで布団に飛び込み眠るも、コップに入ったゲロを飲む悪夢を見て飛び起きる。口の中にゲロの味が広がっているが布団は汚れていない。口の中で唾を集め、飲み込む。時間を見ると夕方五時、布団に入ってから三十分ほどしか経過していない。寒い、熱い、頭と背中が痛い、体がだるい、吐き気がひどい。全身の倦怠感にトイレに行く気力もなく勝手にダラダラでてくる唾液をベッド脇に置いてあったコップに垂れ流す。吐けるものはどうせ胃液だけなので最悪ゲロはコップに出してしまおうとうつぶせになって死んでいると、尻がぬるぬるとしている。全く自覚のないまま、クソを漏らしてしまったようだ。

 夕方七時から知人の舞台があり、チケットを予約していた。一時間ほど寝てしまい体調が少しでも戻れば行けるかと思っていたのだが、完全に心が折れた瞬間である。ゲロとクソを漏らしている人間が、舞台鑑賞なんて行けるはずがなかろう。せめてどうにか連絡をとれないかと回らない頭で考えるが、なんせ携帯電話がない。わたしに使用できるのは、かろうじて手元に残ったipod touchとパソコンのみ。電話番号は知っているが、メールアドレスは知らない。これももう「詰み」だなと思い、全てを諦めて眠ることにした。先に金を払うシステムではなかったため、無駄な席をひとつ空けてしまったことになる。あわせる顔がない。

 寝ても寝ても30分ごとに吐き気と悪寒で目を覚ます。トイレにいこうと立ち上がった瞬間、めまいがひどく吐いてしまう。さすがに心が折れてしまったため救急搬送でもされてやろうかと思うも、救急を呼べる電話もない。じゃあ殺してくれと思うが死ぬほどではない。動けないまま唾液だけをコップに垂れ流し吐き気をこらえていると全く無意識にクソを漏らす、ということをもう二度繰り返す。排泄も空腹もわからない、壊れた肉だるまになってしまったらしい。明日も仕事のため、早く寝なければいけない。二度と酒は飲まんという強い気持ちがある。

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