危なっかしい計画

@smile_cheese

危なっかしい計画

真っ白なものは汚したくなる。

何も知らない人にとって私、『渡邉理佐』という存在は、生真面目で、大人しそうな、普通の女子高生に見えているのだろうか。

本当の自分をさらけ出したら、きっとみんなも驚くだろう。

私は決して優等生なんかじゃないんだから。


今朝、クラスメイトが一人、病気でもないのに学校を休んだ。

噂では年上の男と遊びに出かけてしまったらしい。

そういえば今年の夏は海にもお祭りにも行かなかったな。

私も溜まっていた分、羽目を外してみようか。

何かを決意した様子の理佐は、上まで止めていたシャツのボタンを引きちぎると、にやりと笑って学校を飛び出した。



理佐「さあ、『危なっかしい計画』の始まりだ」



渋谷駅のトイレで着替えとメイクを済ませた理佐はコインロッカーに制服を預けた。

その大人びた外見から、きっと誰も理佐が女子高生だということには気がつかないだろう。

スクランブル交差点の信号が青に変わる。

交差点を渡る途中、横に並んで声を掛けてきた男が二人。

悪いけどあんたたちじゃ私を満足させられない。

私はプライドが高いの、他を当たってくれない?

と言わんばかりに理佐は二人組の男たちを無視してスタスタと歩いていく。

男たちは何か罵声のような言葉を理佐に浴びせたが気にしない。

すると、また違う男が声をかけてきた。

今度は一人のようだ。理佐は男の顔を見た。


当たりだ。


理佐はそう思った。

男は半ば強引に理佐の手を引くと、近くに停めてあったワンボックスカーに乗り込んだ。

理佐も抵抗することなく男の車に乗り込む。

このまま私を連れ出して、この退屈な日常から。

あんたならそれができるでしょ?


理佐を乗せた車は行き先も告げず、どんどん都心から離れていく。

誰かと待ち合わせしているわけでもなさそうだし、面倒なことになるかもしれない。

私の立てた計画は思った通り進んでる?

いや、計画通りに行かない方がスリルがあって楽しいわ。

誰も私のことを知っている人がいない場所まで連れていって。

私は自由になりたいの。


3時間くらい走っただろうか。

車は人里離れた山にある小屋へと到着した。

居眠りをしていた理佐にはここがどこだかさっぱり検討もつかなかった。

しかし、明らかにまずい空気は察した。

理佐は慌てて車から降りると小屋の中に逃げ込んだ。

しかし、小屋には鍵もなく、すぐに男が追いついてきた。

理佐は後ろづたいに部屋の隅へと追いやられる。

すると、理佐のかかとに何かがぶつかった。

目線を落とした先には血を流して横たわっている女性がいた。

しかも、よく見ると理佐の高校の制服を着ている。

そう、それは今日休んでいたクラスメイトの死体だった。

理佐は震えが止まらなかった。


男はにやにやとした顔つきで理佐にナイフを突きつけた。

この男は最近頻発して起きている失踪事件の誘拐犯だったのだ。

学校をさぼって遊んでいる女子高生たちを狙っては、人目につかない場所まで連れ込み、抵抗した者を次々に殺していた。

さあ、次はお前の番だと言わんばかりの表情で顔を近づける男。

そんな風に化粧なんかして、背伸びなんてするからだ。

だから、俺が大人の怖さってやつを教えてやるのさ。

真っ白なものは汚したくなる。

お前が悪いんだ。何も考えずついてきたお前が。

お前が、お前が、お前が、


お前があああああああああ!!!!!!


男が持っていたナイフを振りかざしたそのときだった。


理佐「あんたは私の何を知る?私はあんたの全てを知っている」


一瞬だった。

男は床に倒れこみ、眉間に拳銃を突きつけられていた。


理佐「すべては計画通り」


理佐は表向きは普通の女子高生だが、もう一つの顔は犯罪者専門の殺し屋だった。

組織の情報網からこの男が犯人であることが判明し、男の行動パターンを元に渋谷のスクランブル交差点で罠を張っていたのだ。

すべては理佐の計画通りだった。

唯一の後悔はクラスメイトを救えなかったこと。

動き出した時には既に手遅れだった。

男が抵抗する間もなく、理佐は拳銃の引き金を引いた。


理佐「これでおしまい」


理佐はどこかに電話をかけている。

『危なっかしい計画』はこれにて終了らしい。

理佐は男のズボンのポケットから車の鍵を取り出すと、乗ってきたワンボックスカーのエンジンをかける。


理佐「さて、海にでも行こうかしら」



完。

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