診察後

「それで? お医者さんはなんとおっしゃったんです?」

 病院の外で待っていた真が、出口から出てきた俺に話しかけてくる。

「ハイ問題。get wellはなんて意味でしょう」癖になってしまった問答を、今回もしてしまう。全部を勉強に結びつけてしまう癖は、そろそろ必要ないだろうか。いや、最後まで責任を持つといったのは自分だ。やめることはないだろう。それに、このやり取りをするのは、まったく苦じゃない。

「うーんなんでしょう? 一生治りません、とか?」わかっているくせに、真は白々しく首をかしげて見せる。まったく、いったい誰を真似たのやら。

「バカヤロウ、その逆だ」

「あれ? おかしいですね。治ったとしたら、そんな乱暴な言葉は使わなくてもいいはずですけど?」なかなか痛いところを突いてくる。こざかしいが、同時に目覚ましい進歩だ。

「そっちはどうなんだよ」やられっぱなしも癪なので話題をそらす。「親父さん、何て言ってた?」

「それはもう大喜びでした! お前がこんな成績を取れる日が来るなんて夢みたいだ! と泣きながら祝ってくれましたよ」屈託のない笑顔で、心底嬉しそうに話してくれる。

「よかったじゃねぇか。俺も苦労した甲斐があったもんだ」

「お互い様ですわ」いたずらっぽく真は微笑む。そうだな、違いない。

「医者に言われたよ。本音で喋れるいい友達を見つけたんだねってさ」

「本音というか、罵倒ですけどね」

 せっかく真面目に褒めたというのに、つれない返事だが、まあ悪くない。

「ほら行くぞバカ、期末に向けて勉強だ」

「はいはい、口には気を付けてくださいませ」

 病院からの帰り道は長い。会話は途切れることなく続く。口の悪い俺の、嘘つき症候群は、まだ当分治りそうもない。

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ライアーライアーシンドローム シンカー @thinker-sinker

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