第46話:真実?
少し催眠弾を吸ったせいか手足が軽く痺れるが、まだ銃は握れる。
躊躇うだけ無駄だと知っていながら、どうしても相手に意志があるのを見ると躊躇ってしまうのは人間として当然だ。
躊躇わなくなってしまったら、それはもう人とは言えないモノになってしまう。
煙の奥で蠢く敵の姿を見て、あの催眠弾でも動けるということは敵は間違いなく人間の域を超えていると判断した。
迷う必要はない、相手は人間ではないと何度も呟いて銃口を上げる。
そして、煙から人影が飛び出してきた時も変異した眼で捉えていたおかげで戸惑いはなく狙いもぶれることはなかった。
狙いはただ一つ、相手の活動を確実に止められる心臓だ。
「―――悪いな、恨めよ」
呟くと銃口がバチリと放電して、弾丸が煙を裂いて駆け抜けた。
「がッ……はっ」
確実に弾丸は心臓を撃ち抜いて相手に致命傷を与えていた。
狙撃を行っていた男は細身ながらしなやかな筋肉を備え、くすんだ金髪に獣に似た精悍な顔立ちで耳にはピアスをしている。
顔も知らない相手を射殺したという事実に唇を噛み締めるが、もう引き金は引かれたので後戻りする道はない。
「…………ッ!!」
だが、それでも男は最期の命の灯を奮い起こして立とうとする。
涼が命を奪ったのだとわかっているが、それでも死に際になお望まぬ戦いをしようとする男を見ていられなかった。
「もう、いいだろ!!何のためにそこまでして戦うんだよ」
「……人類の未来の為、だ」
低い声で呟く男の胸の傷から亀裂が徐々に走っていく。
最期にこの男には聞いておきたいことがあり、涼は銃を下げると口を開く。
「最終発症者を射殺していたのはお前だな。それとどうして俺を狙った?」
以前から起きている最終発症者の連続射殺事件。
どちらにしろ助からない最終発症者ばかりなので、時間を空ければ殺されていたのは間違いはないので罪となじる気はない。
だが、何の為にそんなことをしていたのか解明する機会は今しかない。
「人類に必要なのは探求だ。お前達も、いずれッ……」
さすがに多くを語らないが、譲れない主張が彼にもあったのだろう。
なぜ、そうしようと思ったのかに大した根拠はない。その言葉に既視感を覚えた涼はふと一つだけ質問をしてみることにした。
「白鷺がお前に、そう言ったのか?」
男は何のことかわからんと言いたげに鼻を鳴らすだけだ。
しかし、その中に涼は確かに男のわずかな動揺を見た。今の変異して格段に死力を増した目ならばわずかな喉や拳の動きや呼吸の変化までも捉え切る。
確信があったわけではなかったが、何者かがこの事件の裏にいることはとっくに予測できていたことだ。
そして、男の言い出した探求と言う言葉はあの男がしきりに口をにした内容だ。
加えて、その可能性に至った時に思い出したのだ。
学校で起きた千花による殺人、彼女の発症データを改竄できたのは検査に関わった心理学者だけではなかったのか。
公演に何度も通っていたという証言も得ている以上、決して否定しきれない。
まだ犯人として断定できる段階ではなくとも警戒すべきなのは確かだ。
「そうか、お前の銃もアイツの研究の成果ってわけだな」
「ち、がッ……」
既に亀裂は全身に広がっていて、もう話を満足にする力も彼にはない。
名前を聞いて記憶に留めようとも思ったが、この状態ではそれも難しいだろうし後の警察の調査後に墓参りへ行くしかない。
この男は間違いなく涼が命を奪った、それを重く受け止めるべきなのだ。
「安心しろ、万が一あいつが犯人だったしても出来る限り命は奪わない」
「…………」
それを聞いたからか、わずかに残された男の瞳に浮かぶ敵意が緩んだ気がした。
死に際にかけた一時の慰めではなく、本当にそのつもりで今までも生かす手段を模索しながらやってきたのだ。
もう、男が動くことはないと涼はその場を跡にした。
「っ……さすがに負担が来るな」
眼の変異は未だに最終発症にも至らない涼の肉体には大きな負担になる。
これだけ連続して動きながら使用すれば、少し休めば治るとはいえ激しい頭痛が一気に襲ってくるのだ。
もちろん、この事実は結姫には伝えていないのだが。
だが、それでも彼女がまだ戦っているならば。
「休んでいる場合じゃないよな……」
敵はまだいるはずだ、結姫がいる場所以外にも敵の反応があった。
戦うべき時は今だと涼は疲れた体を引き摺って、反応があった地点へと動き出す。
白鷺がこの騒動を起こしたのかは解らないが、仮にそうだとすれば騒動を観察できる場所にいるだろう。
ふと、そう考えた時に可能性がある場所に思い至る。
果たして戦いに参戦すべきか、白鷺の可能性に追い縋るか。
今、選択の時が訪れようとしていた。
マキャベリスト・ディストピア シカノスケ @sikasika
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。マキャベリスト・ディストピアの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます