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青子が自分のマグカップを片そうと立ち上がると、父は待ってましたとばかりに振り向き、自分のカップを差し出して、悪びれずに「おかわり」と言う。


「自分でやれば」

「分かんないかなあ。親父っていうのは娘が淹れたコーヒーを飲みながらテレビを見て、ああ、今日も頑張ったなあ、って自分を慰めるわけ」


手をひらひらさせて、台所に追い立てる仕草までする。


嫌々カップを受け取り、コーヒーを淹れながら、青子は思う。今度、もし父や千尋が名前をからかってくることがあれば、一度くらいは広い心で受け止めてあげても良いかもしれない。


そして、今度は誰が言うよりも先に、自分で、言ってやるのだ。



「そうね、青子だけにね」と。



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君に、青 ちこやま @chikoyama

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