コーヒーとテレキャスターとピル

@yoll

コーヒーとテレキャスターとピル

 マグカップから湯気を立てるコーヒー。

 少しだけすり減ったピック。ソファーにもたれ掛かったテレキャスター。

 ぽかんと開いた口から煙草の煙をぼんやりと吐き出して。ゆっくりと首を傾げてみる。


 少しだけ斜めになった部屋の中には洗濯物が干してある。

 皺だらけのシャツは少しだけ斜めになってハンガーに掛かっていた。もう少し首を傾けてみたけれど、どうやら真っすぐにはならなかったらしい。


 少しだけ手を伸ばしてテレキャスターのネックに手を滑らせる。重力に逆らわず手を離すと開放弦の音がした。一弦の音が消え、二弦の音が消え、三弦の音が消え。最後まで残った六弦の音も消えた。


 マグカップの中のコーヒーは少しずつ冷めてゆき、湯気はいつの間にか消えていた。


 銀色の包装紙を破り捨てる。中から産まれた白い錠剤を口の中に放り込み、温くなったコーヒーの中で噛み砕き流し込む。


 長いブレスを一つ。


 テレキャスターを抱き寄せ、ピックを握る。


 弾きなれたコードを少しだけ鳴らして、満足してもう一度僕は手を伸ばした。

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