第36話 エピローグ

まるで積み木の城。

初めてこの都市を見た時、ロミオは思った。

土台となる下層エリアは配管や機関で覆われており、中層エリアから外界へ開放され、人の住んでいる気配が辛うじて感じられる。

上層エリアは見上げても霞んでおり、棒菓子のように、摩天楼が乱立している。

歪で、ただ機能を積み上げて作られた、雑然とした巨大な建造物。

よく倒壊しないものだと、ロミオは関心しながら足を踏み入れたのを覚えている。

そして今、三年を経て、この積層都市ドーシュを後にする。

中層エリアから外に降り立ち、振り返る。

印象は変わらない。

都市内で生活が完結できる、ある意味理想郷アルカディアではあった。


川沿いの駅まで、更地を三人は歩く。

ロミオの後ろを二人の少女が続く。

一人はピンクのボブカットの髪に眼鏡を掛けたややつり目の美しい女性。

もう一人は帽子キャップを被った十歳くらいの少女。

「旦那はん、電車って本気です?荷物こんだけあるんですよ?」

「持てるからいいだろ。」

「延棒百数本…貴金属大量…」

人一人が楽に入れる程の特大の駆動機関エンジン付キャリーケースを二つ引きながら、ヒロネはロミオを睨みつける。

総重量は百キロをゆうに超えるが、駆動部のおかげで、そこまで負担ではないのだが。

だがヒロネはキャリーケースの他にリュックサックを背負っている。

少女も、彼女の体のサイズに合ったリュックサックを背負っているが、ロミオはデイバック一つである。

文句の一つでも言いたくなるのは当たり前だ。

「んなこと言ったって、車のほうが時間かかるぜ?電車なら二時間かからんところを四時間も。それに金も断然、電車のほうが安い。これからしばらく収入の見通しも立たないしー」

「…あー分かりました!じゃあ、一つは旦那はんが持ってください!私はジュリお嬢様の手を引くという大事なお役目があるんです!」

ヒロネはロミオにキャリーケースを一つ押し付けるとジュリの手を引いて先を行く。

ロミオはヒロネから渡されたキャリーケースを文句を言いながらも引いて後に続いた。

「ジュリお嬢様、これから私達はキョウトに行きます。旦那はんの知り合いに、住むところ斡旋してもらいましたから、寝る場所はありますよ。」

ヒロネはにこりと笑い、ジュリもそれに応えようと口を開く。

だが、言葉は出ない。

ジュリの声は、結局回復しなかった。

シンマチにいた間もロミオの馴染みの医者に診せたりしたのだが、原因はさっぱりわからないという。

陰った表情を、ヒロネは優しく包み込んだ。

「お礼の気持ち、十分伝わってます。…旦那はんはどんなつもりか知りませんけど、私はジュリお嬢様のこと、好きになりましたから気にせんといて下さい。大体、ドーシュは空気が悪すぎるんです!場所変わったら、もしかしたら声も出るかもしれへんですし、前向きにいきましょ。お医者さんも、知り合い向こうにいますし。あ、あとキョウトは美味しいもんいっぱいありますよ!甘いものも、たくさん!」

ヒロネの言葉にジュリの表情が段々と明るくなる。

時刻は昼十三時過ぎ。

夕方までには十分新しい住処に到着できるだろう。

ヒロネは既に、次の街キョウトでの生活環境をいかに素早く整備するか、考えを巡らせていた。

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守銭奴ロミオと青い鳥 千夜 @akatsuki_senya

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