第35話 ドキドキ初体験!?お嬢様の熱い夜
夜。
シンマチ地区はいつものように
だが、どの店でも話題となっているのは、都市の根幹を担っていた
人体実験用の孤児を下層エリアから攫ってきたという非人道的なものだ。
更に余罪があるらしいが、巨大企業ゆえ、時間がかるという。
ロージィ・ナイトでもその話題でもちきりである。
だがロイにとってはこの事件は無視できないものでもあった。
売上が、事件以来落ちていると。
アルカディア・ケミカルの関係者も何人か太い客であったのだ。
事件に関わっていたのか、それとも目立つ行動を控えているのか店に来ないのだ。
「あー、今日も売上厳しいか?」
「だったら、俺が出ましょうか?ロイさん。」
ロイのボヤキにロミオが反応する。
いつもの白スーツを着て、フロアを見渡している。
「お前なあ、追われている身で人目につくようなことをするなよ。」
「大丈夫ですって、追手はみーんな捕まりましたし。それに、居候だけってのも、心苦しいですもん。」
「嘘をつけ。ヒロネちゃんが俺に渡してくれた『生活費』を回収したいだけだろお前は。」
ロイの指摘を否定することなく、ロミオはフロアの物色を続ける。
「今日はやけに若い客が多いですね。」
「例の上層一件で、昨日から太客が来ないんだよ。アルカディア・ケミカル以外のもな。だから新客でも入りやすいように今日は
「で、若い女ばっかりってわけですね。」
「ご新規様と言え…そうだな、やる気がある従業員は生かすのが俺のモットーだ。三番テーブルに行ってくれ。二人組だが、一人はちょいちょい来てくれる子で、もう一人はご新規様だ。今ついてるキャストの話だと、上層出身の子みたいだが…ん?ロミオ、三番のテーブル、なんか呼ばれてるみたいだぞ。」
ロイの視線の先にはロミオに手を振っている男性キャストの姿があった。
「分かりました。んじゃ、報酬は前と同じで。」
ロミオは襟を正すとフロアへと足を踏み出した。
「今晩は、お嬢様方。」
「ロミオさん!今日もお疲れ様です!ご指名頂いたのは、コチラのご新規さんです!」
ロミオは営業スマイルを保ちながらテーブルの客を確認する。
「コンゴウ先輩!」
思考停止。
巨乳。
人のいい笑顔。
そしてロミオのことを『コンゴウ先輩』と呼ぶ、唯一の人物。
「…ハヤマ様、ですか?」
表情を崩さずに対応したのを褒めて欲しい、とロミオは思った。
そう、ロミオのアルカディア・ケミカルの後輩であり、別れ際に頬を叩かれた、エリナ・ハヤマだ。
「なに?エリナ知り合いなの?ココに来るのって、初めてじゃなかったけ?」
連れの女性はロミオとエリナを交互に見る。
どうやら友人に連れられて、ロージィ・ナイトに来たらしい。
「えっと、ちょっと知り合い、みたい。あの、二人だけにって、出来ますか?」
「そうですね、テーブル料金がかってもよろしければ、あちらのボックス席でも…。」
ロミオはキャストとして、エリナの希望に従った。
「はい。お願いします。…ごめんね、ちょっとだけお話したら戻るから。」
二人は席を立つと、ボックス席に移動する。
飲んでいたドリンクと、ロミオの分のドリンクが到着し、ボーイが下がる。
「…あの時はすみませんでした!」
するとエリナは頭を深々と下げた。
「おう、痛かったぞなかなか。」
「!お怪我は、歯は大丈夫ですか?」
今度は頭を上げると、ロミオの頬に触れて怪我がないかを確認する。
傍から見れば、ロミオにキスを迫っているように見えたため、ボーイが出てこようとするが、ロミオは黙って手で制する。
「アレくらいじゃ腫れもしない。それよりも、ハヤマがこんなところに来るなんて、意外だ。」
世間知らずの純粋培養お嬢様。
こうした享楽とギラついた欲望と夜の世界には無縁の印象。
「謝罪と、お礼を言いたくて。探しているうちに、シンマチ地区のクラブ?にロミオという名前の従業員さんがいるって情報を見つけて友達に連れて来てもらったんです。ちょうど、このお店に何回か来たことあるって言ってて。」
お嬢様の友達にも色々いるのだと、ロミオは感心した。
そういった『遊び』をする友達に対しても、偏見なく付き合っているのがエリナらしいと思った。
「…相変わらず猪みてーな勢いだな。」
「?なんですか?ちょっと聞こえなくて…。」
「いや、それにしても礼ってなんだ?」
「データです。会社の悪行をまとめたUSB、渡してくれたの先輩ですよね?胸ポケットにあったペンも、ICレコーダーであの後のホノサキさんとの会話が録れていました。それで私、すぐにお父様に相談したんです。そうしたら、警察の方に掛け合ってくれて、摘発出来たんです。」
エリナが見つけたUSBには、今までロミオが攫ってきた子供達の情報が事細かに記された書類が入っていた。
ロミオ自身の情報は全く入っていないが、アルカディア・ケミカルの悪行を摘発するには十分すぎるほどの証拠だ。
更にペン型のレコーダーにはホノサキとエリナの会話が録音されており、エリナがこの悪行を知らずにジュリの世話をしていたこと。
ホノサキに脅されたことも綺麗に録音されており、エリナ自身の潔白を示すことになった。
エリナの父が警察への通報に踏み切れたのも、娘は利用されただけであり、火の粉が自身に降りかからないと判断したからであった。
「俺がデータ持ってても無駄だから、ゴミを渡しただけだ。」
「そうなんですか?てっきり、私の父を『利用して』アルカディア・ケミカルを潰すように仕向けたんだと思いましたわ。」
にこりと、ロミオが以前見た純朴な笑顔でエリナは言った。
「先輩のご期待に添えられましたか?」
「俺は誰にも期待しない…ま、勝手にそう思うのは自由だ。」
「はい!おかげで監禁されていた子どもたちを救うことが出来ました。…先輩、一つだけ知りたいことがあるんです。あの、ジュリちゃんは…?」
「あいつは死んだ。」
ロミオの言葉にエリナは首を横に降った。
「嘘はだめですよ、先輩。だって、所長とカラサキ主任がジュリちゃんを取り戻すためにあの教団施設を破壊したとこまで分かっているんですよ?」
破壊したのはロミオだが、捜査の結果ではそうなっているようだ。
「信者共はあの崩落でガキが死んだと思ってる。死んだままにさせといてやれ。」
ロミオの物言いは乱暴だが、エリナは、そうしないとジュリがいつまで経っても教団に追われるのだと悟った。
「…分かりました。でも元気なんですよね?ヒロネさんも。」
「ああ。あいつの世話はヒロネにやってもらっているから、大丈夫だろ。なに、手に入れたものは最後まで大事にするのが俺のモットーだ。」
ロミオは忘れていた営業スマイルをエリナに向ける。
台詞も笑顔も偽物のように感じるが、エリナはロミオを信じることにした。
「ところで、先輩はこれからどうするんですか?」
「街の検問が外れたら別のとこに行くさ。…ジョウはどうなっている?」
「キリシマ主任は、今取り調べを受けています。でも司法取引で、訴えられることはないと思います。今までの所業も、キリシマ主任が赴任する前から行われていましたし。主任は、会社に脅されてやらざる負えなかったと、仰ってます。何年かは観察処分が着くと思いますが。この前、面会したらお元気そうでしたよ。」
「そうか。じゃあ、あいつに伝言一つ、頼むぜ。」
「え?あ、はい、でも今ちょっとメモ帳がないくて…。」
慌てているエリナにロミオは構わず口を開く。
「『古巣で待つ』。これだけだ。覚えられるだろ?」
短すぎる伝言に、エリナは胸をなでおろした。
「それだけでいいんですか?」
「十分だ。通じるだろうし。」
「わかりました。あ、あとカラサキさんなんですけど、お嬢様が難しい病気でアルカディア・ケミカルの関連病院に入院してらしたそうなんです。それで、仕方なくホノサキさんに従ってたみたいなんです。ですから、カラサキさんも、情状酌量の余地がありそうです。」
「オッサンには興味ねえな」
「あ、そう、ですか。すみません、余計なことを言ってしまって。」
「別にどうでもいいけどな…さて、これ以上は追加のテーブル料金がかかりますが、お嬢様、元のお席に戻りませんか?」
今までの横柄な態度はどこへやら、ロミオは『仕事モード』に切り替わり、エリナは思わず笑ってしまった。
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