つまるところ、百合とは何なのか?


 『オンナの世界』について語った。

 その上で、百合について書いていこうと思う。


 どうして百合の定義は定まらないのか。定義なんて、はっきり決めれば、決まるものだ。

 「女同士の恋愛関係」

 そう決めてしまえば「百合とは何か?」なんて議論が、これ以上巻き起こることはない。

 起きるはず無いのに、百合業界で、この手の論争は尽きない。

 ――どこまでを百合にして、どこからを百合じゃないとするか。

 それは、百合好きの数だけ存在する。そう言っていいくらい、多種多様だ。


 面白いのはBL業界で、この手の論争をあまり聞かないことだ。

 どこからかBLだ、なんて論争は聞いたことがない。

 どの部分が熱いか、どっちが受け攻めか。そういう話はよく聞くのに、だ。

 思うに、ほとんど女性で構成されていることが関係するのだろう。

 彼女たちは、定義をはっきりさせようなんてしない。結果が出ないなんて、わかり切っていることだからだ。そういう不毛な部分に、オンナは時間をかけない。

 そんなことに時間を費やすなら、好きな部分を語るに使う。

 結果、彼女たちにあるのは、棲み分けだけだ。

 棲み分ける。これ重要。

 やっぱり、理解できても、萌える萌えないは別の話。個人の感性なのだ。

 棲み分けることで、ムダな争いも減る。自分は理解し合える同志と話す時間が増える。

 良い事だらけじゃないか。

 百合もそうなれば、もっと平和になると思うのだが、中々難しい。


○「百合じゃないけど、百合」とは何か


 論争を巻き起こす気は、まったくない。

 だが「百合じゃないけど、百合」作品を、ここでは取り扱う。これから語る上で、ある程度はっきりさせておきたい。百合の定義は、千差万別だからだ。

 今から「百合じゃないけど、百合」作品を選ぶ上で基準にしたことについて書く。

 納得できるなら、すんなり、そのまま使ってもらって構わない。

 ピンとこないなら、自分なりの百合を考えてもらってよい。

 何だったら「百合じゃないけど、百合って……これは百合じゃないと思う」とか、「百合じゃないって、これは百合でしょ!」とか、どんどん考えて欲しい。

 何が百合かを考えることで、百合の世界は深まる。

これも百合の楽しみ方の一つだろう。


 ここで「百合じゃない」の定義に用いたのは「恋愛関係」である。

 キャラクター同士が、かっちりと付き合っていると明言されているものは除外した。

 次に「けど、百合」の部分。

 ここが難しい。方向性がバラバラで、まとめきれない気がした。

 どうにか、まとめようと出た言葉は「女同士で強い絆がある」である。

 恋愛関係でつながってはいないけれど、それに匹敵するほど、強い絆がある。

 百合じゃない(恋愛関係じゃない)けど、百合(特別な絆がある)。

 そういうものを、この本では取り上げさせてもらっている。


 そのため、ぶっちゃければ、将来的に男とくっつく作品も取り上げてある。

 物語の最終場面で、男と恋愛関係が結ばれようと関係はない。

 そのストーリーの間に、女性同士の強い絆があったか。

 恋愛関係じゃなくても、特別な絆があったか。

そこに焦点をあてた。

 「男とくっつく作品なのに、百合として紹介するなんて!」という人は、そっと本を閉じて欲しい。

 おそらく、あなたが求めるものは、この本には載っていないだろうから。


 反対に「そういう女同士の関係って萌えるわー!」という人は、ぜひ目を通してもらいたい。

 きっと、わたしと同じような百合好きへの成り方をしていると思われる。

 今でこそ、百合での恋愛関係は増えた。少し前までは、壊滅的だった。

 そんな時代でも、百合好きの心を育んできた。そういう人は多いはず。

 男がいようと、いまいと、女同士の強い絆は変わりないのだから。


 「百合じゃないけど、百合」なんて、作品を集めようと思ったのには、理由がある。

 百合業界はここ10年ほどで、かなり発展した。

 純粋な恋愛から、不倫まで、「女性同士の恋愛関係」を楽しめる作品は、爆発的に増えた。そのおかげで、わたしの財布からお札が減るスピードも早くなった。

 その一方で、それ(恋愛関係)以外の女性同士の関係――友情やライバルなどは減っているように思える。

 これが、寂しくて、悔しい。

 

 恋愛は素晴らしいものだ。人生の喜びと言えるだろう。

 そうじゃなきゃ、恋愛関係について、これほど描かれることはない。

 でも、恋愛だけで、人の世は成り立っていないと思うわけ。

 友情やライバルだって、恋人と同じくらい、下手したら、それ以上に得難いものなのだ。

 オンナの世界において、親友は恋人以上に存在しにくい。

 嘘だと思うなら、聞いてみて欲しい。親友が5人以上いる人がいたら、それは親友が友達くらいの意味の人だ。

 ひとりでも、本当の親友がいるオンナがいたら、拍手喝采で讃えたい。

 それほど、オンナにとって親友はできづらいものなのだ。(わたしだけかもしれないが)


 「恋人以上に手に入れにくいなら、そこに焦点をあげた作品があってもいいじゃないか!」ということで、「百合じゃないけど、百合」は始まった。

 恋人ではないけれど、強い女性同士の絆を味わって欲しい。 

 最近、百合でも恋愛作品が多い。自然と取り上げるものは、昔の作品が多くなった。

 誰でも知っている名作から、妄想ありありの作品まで、取り揃えてみた。

 ジャンルもなるべく、バラけるようにしたので、興味のある部分から読んでもらえると良いと思う。

 ひとつでも気になる作品があったら嬉しい。


○百合にまつわる誤解


 百合の定義は、百合好きの数だけある。それは事実だ。

 だが、少なくとも、百合の定義として「女性同士の関係」は外せない部分だろう。

 ここだけが一人歩きをして「可愛い女の子同士がイチャついてれば、すべて百合」みたいな受け取り方をする人もいる。

 何より驚くのは、たまに男性から聞く「男が出てくるくらいだったら、オンナだけの世界が良い」という感想だ。


 意味は分かる。アイドルを応援する人間にも、たまに見られる。

 自分の手が届かない(付き合えない)女なら、他の男とも付き合ってほしくない。

 自分以外の男と付き合うくらいなら、女同士で付き合ってもらいたいという考えだ。


 これにより、何が満たされるのか。

男のプライドだけである。

 男と付き合えば、自分にもチャンスがあったと思えてしまう。とられたとさえ思う人もいよう。

 相手が女であれば、男は土俵に上る必要はない。勝負にならない。

 なぜなら、性別という絶対に越えられない壁がそこにはあるからだ。

 まぁ、ここまでは、同意しよう。

 負ける勝負はしたくないだろうし、そう思うことで守られるプライドもある。

 ただ、それは百合を容認しているだけであって、百合好きな人間がするものではない。


 わたしが引っかかるのは、さらに続く部分だ。

「女同士の方が、綺麗な気がする」

 まったく、これは、どうしたものか。

驚きが伝わらない人のために、繋げてみよう。

「男が出てくるくらいだったら、女だけの世界が良い。女同士の方が、綺麗な気がするし」である。

 女性だから綺麗とか、男同士より良いとか。私としては「……は?」としか返せない。

女性同士の世界が、綺麗の一言で済ませられるものか。

そんなキレイな世界だったら、百合は逆に生まれない気がする。

オンナの世界については、別の項を参照されたい。

一言でいうと、面倒くさくて大変だ。


 男性もわかっているはずなのだ。

 「女の世界のほうが、ドロドロしてる」だの、「女の世界のほうが怖い」だの、散々言っているのだから。それが、表面だけの感想になると「綺麗」とは……理解に苦しむ。

 結局、外見だけかい!とツッコミたくなる。

 百合は、そりゃ、表面は綺麗に見えるかもしれない。

 内面は上記の通り、ドロドロしてたり、複雑だったり、いろいろあるのだ。

 いろいろあるのを、なかったことにするのは、違う。


 勝手なことだが、百合を嗜む人間には「オンナの面倒臭さ」を愛してもらいたいと思う。

 百合を「オンナの世界で生きてきた、オンナ同士の間に紡がれる関係」と定義するならば、そこにあるのは、綺麗だけじゃない。

 その人のために命をかけられる一途さから、足の引っ張り合いまで、すべてを含有する。百合とはそういうものである。

 「百合じゃないけど、百合」作品を語る前に、百合について、少しだけ掘り下げてみたい。


 百合は決して、男のプライドを守るための代替品ではない。表面的に綺麗だから、好かれるものでもない。

 オンナの本質を見れる。

 それが一番、百合の美味しいところだと思うのだ。

 表面から、中身まで。

 綺麗なところから、汚いところまで。

 理解不能なオンナたちが繰り広げられる、複雑怪奇な関係性。

 そういう、面倒くさくて、普段、表に出てこない部分を、これでもかと掘り下げたい。

書いてて、自分の面倒臭さも出てくる……百合好きとは難儀なものである。


 end

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百合じゃない、百合 藤之恵多 @teiritu

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