第262話
「かはっ……!」
爆風によって吹き飛ばされた女剣士は、そのまま勢いよく地面に叩きつけられゴロゴロと転がる。
「よしっ」
ミナスはそれでも慢心はせず、追撃の一矢を放つ。
「くっ!」
痛みに耐えながらも、必死に矢を避ける。と、壁にぶつかった矢が再び爆発した!
「えっ!?」
が。その勢いを利用して、なんとポニーテールの剣士が髪を向い風でめくり上げながら剣を構え突進してきたのだ!
「しまったっ、やあっ!」
しかしミナスは、己を鼓舞するが如くいつもよりも大きめの声を出すとその敵に向かって火の玉を放つ。直接的な攻撃魔法が使えないわけではないので、それだけであっても牽制にはなるのだ。
「こしゃくな」
女剣士はどうやってか、その場で人間ではありえない軌道を見せつつ横っ飛びになると、掌を広げ小粒の石礫を弓術士に向かって投げつけた!
「うあっ」
突然の攻撃に一瞬気を取られのけぞってしまう。その隙を逃す剣士ではなく、先ほどの魔法使いのように斬り伏せてしまおうと剣を振り下ろすが。
「ちっ」
ミナスは己の唯一の得物であるはずの弓を前に突き出すと、その斬撃を受け止めてしまったのだ!
「馬鹿なのかっ?!」
思わず口から思ったことを出してしまうが、しかし当然盾としての使用法など微塵も考慮されていない、学園貸し出しの弓の耐久力などたかが知れている。補強されているとはいえ長年たくさんの生徒に使われてきた木製の武器はそのまま半ばから真っ二つに折られてしまう。
だがその分、ミナスが立て直す時間を稼ぐことはできた。障壁を張り、なんとか剣の間合いから逃げ出すと、そのままお互いまた見合いながら対峙する形となる。
「馬鹿で結構よっ。でもこちらにもまだ手はある!」
そう言ってのけるミナスの次の策は。
「何をする気だ? ……まさか!!」
女剣士が驚くのも無理はない。なぜならば、ミナスは突然矢を手に取ると、そのまま投擲槍のように投げつけてきたからだ。愚考にも程がある。だが、相手は見たところエンチャントの使い手。当然女剣士は次は一体どんな付与効果をつけているのかと警戒する。
「ふんっ、余裕だ!」
それほど力のあるわけではない小柄な少女の投擲など何も怖いものはない。と、余裕を持って避けたはずだったのだが……
「なっ!!」
投擲矢が突き刺さった場所とは全く関係ない、すなわち自分の足元が突然地割れ崩れ始めたのだ!
まるで大自然が怒りを露わにしているかの如き地割れはどんどんと広がっていき、魔法による跳躍を繰り返しながらなんとか宙に浮こうとする剣士を呑み込まんと大口を開ける。
「とどめっっ!」
さらにそこに、ミナスによる魔法攻撃。威力は攻撃魔法専門の生徒よりも当然劣るものの、十分な牽制になりうる威力だ。
「くっ……! うわああああぁぁぁぁっっ」
そして彼女の思惑通り、こちらの攻撃を防ごうか宙に浮くことを優先するか戸惑った剣士は魔法操作を狂わせてしまう。
いよいよ、その深淵の奥底に呑み込まれていき――――その場で
「勝者、ミナス=ティリアス!」
「ふう……嬉しいよりも疲れた……かも」
試合が終わると、ミナス自身も女の子座りでその場にへたり込んでしまう。そして駆けつけた救護班に断りを入れてから、ゆっくりと立ち上がりその場を後にしたのだった。
★
「「てやあああ!!」」
そして、剣が交わった……のだが。
「おふぅっ」
「えっ」
ツルンッ。氷の柱のみならず、床全体が凍っているのだ。県を上段に振り下ろす形となった少年は、その勢いのまま足を滑らせ前のめりに崩れ落ちてしまう。さらにバランスを取ろうとするあまり、剣まで手放してしまったのだ。
「きっっっっっ! さま…………!」
「んん〜ってててて!」
膝をぶつけてしまって痛がる少年。しかし、辛うじて顔面ノックを避けることはできた。なぜならば、マリネのその双丘をつかむことに成功したからだ!
「んん? なんだこれ?」
下を向いたままの少年は、己が何をしでかしているのかを理解していない。しかしどうにもおかしいと思い上を見ると、革鎧の上から(なおマリネは今回動きやすさ重視で軽装の出で立ちだ)気軽に触ってはいけない部位をがっしりと握ってしまっているのをようやく理解した。
「うおわあああああっ!?」
革の上からなのでその柔らかさまでは分からないが、しかし思春期に入るか入らないかの年頃の男子にとっては、そろそろその手のことも意識し始める頃合いである。と言うことはつまり、マリネにとっても当然気にしないわけがないのであって……
「こ、ころ」
「ころ?」
「ころ……ス!! コロス!!」
「ひっ」
目を血走らせ、まるでバーサーカーのように闘気を噴き出す蛮族女剣士マリネ。もう一人の挑戦者である女魔法使いは何が起こったのか遠目で理解してはいるが、しかしどうすればいいのか(主にマリネが怖いせいで)判断がつかない様子だ。
「まてまてまて! 今のは不可抗力では?!」
「そんなの関係ない!!」
「ぎゃーっ!!」
話し合いを持とうとする男子生徒だが、今のマリネにとってそのようなものは一切考慮する気はない。そして剣を振り下ろすと慌てて男子生徒が飛び退いた。その動きは人によってはゴキブリのようだと思うような、四つん這いで素早くかつ滑稽な後退だ。
「逃げるな!」
「逃げるに決まってるだろ!!」
「今のは君が悪いと思うなあ……」
「そんなっ、元はと言えばお前のせいなのに!?」
これが真剣試合だということも忘れたのか魔法使いに対して理不尽な追及をする男子。だが女子が二人とも完全に敵になってしまっているこの状況において、逆切れは悪手にも程があるだろう。
「えいっ」
「うおおおおい」
再び氷の柱を発生させ、男子生徒の某一部分を狙っているようにも見える鋭利な三角錐が天を貫く。しかしその少年の方も二度も同じ手は喰らわない。ここはあくまでも魔法学園という国内最高の学術機関のなおかつ各学科最高成績の生徒が集められたAクラスのみによる予選なのだ。年齢はまだまだ低いとはいえ、それなりの技術や素質を持ち合わせている。
「おいどこ狙ってんだコラ!」
「知らないっ。変態にはお仕置きが必要なのです、えいっ!」
「くっ」
続いて、バスケットボールほどもある氷の礫をいくつも飛ばしてくる。それを先ほど辛うじて拾い上げた剣を使って弾くのだが……
「敵は一人ではないぞ!!」
バーサーカーマリネはその隙を狙っていたと言わんばかりに、ガラ空きになった脇腹を斬り付ける。
「ぐわああっっ、ひぎぅぐうっ!」
なんとも表現し難い悲鳴を上げ、ついに少年が崩れ落ちる。
「がっ」
「そこで大人しくしていろ、この外道が!」
とどめの蹴りを腹に入れると、戦う気力を無くした少年剣士は仰向けに大の字にノビて寝転がってしまう。
「さて、後はこちらだな!」
「負けないもんっ!」
そして女子生徒同士の戦いとなる。マリネはダッシュをし、うまい具合に足場を利用して敵の視線を左右に惹きつける。
「狙いにくいですねえっ……!」
動く標的に直線的な氷の礫は明らかに不利であるし、当然氷の柱なんて使うメリットもない。となれば、残りの手段は。
「やっ!」
「なにっ」
直接対象を凍らせるのみだ。と、まずは吹雪を発生させ、己に向かって突進してくる剣士を足止めする。それと同時に、床の氷をせりあがらせ延長させてマリネの足元をどんどんと凍りつかせてしまった!
「おおおっ」
急停止させられたマリネは、慣性の法則と魔法による拘束が干渉しあい変な体制となってしまう。また身体にも相応の負担がかかり、呻き声を出してしまう。
「とどめ!」
「ちっ」
マリネは床からの三角錐を警戒し、炎の魔法と剣を使い急いで床を溶かそうとする。が、その予想は外れてしまった!
「か、はっ……?!」
己の体を貫く何本もの矢。いや、これはただの矢ではない。つららのような氷の矢であるのだ! 軽装によって鎧が被っていない部位を的確に狙われてしまったせいで、障壁等で庇うまもなく大怪我を負わされてしまう。
「まい、った……」
「やった! やったよお母さんっ!」
そしてついに、この戦いの勝者が決定したのであった。
俺の幼馴染が勇者様だった件 ラムダックス @dorgadolgerius
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