第35話 ランチ

一回だけと言っていたナギも俺にしがみついて放してくれなくて………❤




 生徒会室を出る頃には、クラウンゲーム前の俺達に戻っていた。





「それでね。今 保険で修理するか、新しいのに買い換えるか親と相談中でしばらく携帯無しなんだ。」


「そうか、頻繁に連絡できないのは困ったなぁ…」



『あ!』





 教室の前で緒方遥が待ち構えていた。


「おはようございまぁす❤辻先輩❤お話があったんですけどぉ、先輩遅すぎー❤」


「何の用だ」


「ひどーい。恋人が会いに来たのに~。」


「それなら用は済んだろう。教室にもどれば?」


「もう冷たいっ!ボク達恋人同士なんだよ。もういいや、じゃあ要件は毎日お昼を一緒に食べようね❤って言いに来たの。お昼にまた来まぁす❤」



 一方的に約束して緒方遥は戻っていった。





「………また来るって」


「そうみたいだね」



 二人で溜め息をついた。




  ************




「辻先輩~❤お昼だよぉ❤一緒に食べよー❤」



 緒方遥は堂々と巨大な包を持って3年生の教室に当然のように入ってきた。



 まさか本当に来るとは思っていなかった。


 堂々としているコイツの心臓には毛が生えているのか?



 ナギと向い合せで弁当を食っていた俺の横にピッタリとくっついて座る。


 包みを広げると中から大きな弁当箱が2つ出てきた。



「ボクね❤お弁当作ってきたんだよ❤食べさせてあげるね❤」



 蓋をあけてフォークで刺したおかずを俺の口元まで持ってきた。



「自分のがあるからいらない。」


「せっかく作ったんだからぁ。一口食べて❤ はい、あーん」



 緒方の行動に教室の空気が殺気立つ。



 ウチのクラスに緒方のファンがそんなにいたのかと驚くくらいだ。



 多分妬みも入っているかもな。



 俺は教室にいる男全員を敵にしているのか………



 中でもナギの放つ殺気が一番凄い事になっている………って、ええっ!!ナギも?! 



 うわー



 こんな殺伐とした状況で飯が喉を通るわけない。



 わざとらしく大きな溜息をつくと弁当を鞄にしまい席をたった。



「俺 食欲なくなったからもう行くよ。」


「えっ!」


「やん、辻先輩食べてよぉ。」



 緒方と俺がいるから、こんな状況なんだ。



 どちらか消えればこの場は収まるはずだ。



 それに俺がいなくなれば緒方もここにいる理由がなくなり教室を出ていくはず。



「悪いな、腹が減ってないんだ。」



 踵を返してすぐに教室から出ていった。




 腹が減ってない か………………そんなの大嘘だよ。




 朝、いっぱい運動したからめちゃくちゃ腹が減っているんだぞ!!


 くそ、キツイけど弁当は放課後にでも食うか。



 ととと と軽い足音が追いかけて来た。


「待って修斗!これ!」


「ナギ!?」



 ナギが教室から追いかけて俺に丸いタッパーを持たせる。



「これ どこかで食べて。」


「うん、ありがとう」



 後ろの方で緒方がちょっと待ってとか、お弁当がどうとか、なにか騒いでいる。


 すぐに追いかけて来れないようだから、急いで人気のない体育館へ逃げた。



 緒方の足を引っ張ってくれた、でかい弁当箱に感謝して体育館の入口付近の段差にぐったりと腰を降ろした。



 

「あー、腹減ったー。………そうだ!」



 ナギがくれたこれ何が入っているんだ?



 手渡されたタッパーを開けるとそこには俺の大好きな葡萄がぎっしりと詰まっていた。




「『ナガノパープル』覚えていてくれたんだ。すっげー嬉しい。」




 一粒 口に入れると芳醇な香りと爽やかな甘みが口いっぱいに広がる。




「うまー❤」




 食べる手が止まらず、タッパーが空になってから、はたと気がついた。







 結構量があったけど、これ二人で食べる用だったんじゃ………。


 

 ナギ、ごめん。怒るかな?

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【BL】王様の命令は絶対っ!! yao @yao2020

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