描きたいもの?
目の前の景色、そこは中学生の時の教室
そして少しだけ違和感がある。私は頭の中に浮かんだ疑問を消して授業に集中した。
「ユズ」
誰かに名前を呼ばれて声が聞こえた方を向くとミサが優しい笑顔で私を見ていた。
「このノート、ユズが前見たいって言ってた漫画」
ミサはキャンパスノートを2冊渡してきた。
少し照れくさそうに私にノートを渡す。
「恥ずかしいから絶対に誰にも見せないでよ?!」
「分かってるよー」
私はパラパラとページを捲ってノートの内容を見る、ミサは相変わらず絵が上手い、自分で考えたストーリーを漫画に出来るのだから
「やっぱりこの展開はベタかな…?結構考えたんだけど。」
「うーん…面白いけど…確かにベタかも。」
いつもミサは漫画を描いては私だけに感想を求めてくる。彼女曰く私の感想は次の漫画の内容を描くのに的確なのだとか。
「でもミサ、私のためにこんなに描いて大丈夫か?絵画コンクール近いんじゃなかったのか?」
「あー…まぁ、うん。」
曖昧な答えを出すミサ、この場合の九割は大丈夫じゃない、絶対にアイデアに困っているパターンだ。私がじっとミサの顔を見るとミサは正直に答えた。本当は下書きすら終わってないという。
「アイデアが浮かばないのか‥?」
訪ねると彼女は頷ずき、
「うん、アイデアは少しある、けどそれだけじゃ私は描くことができないし完成しない。」
「何故?」
ミサはため息をつきながらスケッチブックを見せてきた。そのスケッチブックには女性の顔がたくさん描かれていた。私から見たらどれも十分な絵である。しかしミサは身近な人をモデルにしたいのだという、嫌な予感がしてきた…。
「ユズ!!お願い!!モデルになって!」
予想した通りの言葉がミサからでてきた。
彼女は自分の顔の目の前で必死に手を合わせている、断ったら泣き出してしまうのではないかというぐらいでそんな姿を見ると断れなくなり微妙な顔して頷いてしまった。後悔している。
「ありがとう!!ユズ!!」
本当に嬉しそうな顔をしてる、彼女はいつもそうだ。絵を描くとき目が輝いている、絵具の色を選んでいる時やスケッチブックに描くか画用紙に描くか悩んでいる時、私はそんな彼女を見るたびにどこか落ち着いていた。
モデルができたことに喜んでいるミサは側にあった鞄から数冊のスケッチブックを取り出してパラパラとページを捲りはじめた。
しかし途中で彼女の手が止まった、スケッチブックはミサの手から滑り落ち地面にパタンと音を立てた。
「ミサ?」
落としたスケッチブックを拾いあげようとした時、外から雷の音がしてからすぐに土砂降りになる雨の音が聞こえた。開いていた窓から強い風が吹いてきた、突然紙のページは破れて飛んでいってしまった。
「あ!まずい!」
急いで飛んでいく紙を掴もうとした時にミサの顔が見えた。
彼女は泣いていた…
そして
「ユズ…あなたの顔が描けないよ…」
そう一言言ったのだった。
夢の中で君に恋する @karura1211
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