聴こえてくるレクイエム
また素敵な作品に出会えました。またまたタイトルで一目惚れです。
この世界の美しさ、儚さ。私達人間はそれを感じ想像することができるのに、同時に破壊することも出来てしまう…。登場する龍をはじめとした様々な幻想的神秘的存在は、あなたの頭の中ではどんな姿をしているんでしょう。
題名:今日も電波塔で龍が死んでいる
作者:ふとんねこ
https://kakuyomu.jp/works/16817139557391421133
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「夏の轟くような蝉の声、白い入道雲を背に、一頭の龍が死んでいた。」
文明が進み、かつて当たり前に在った自然の神秘たちが失われていく。「私」は、これらの悲劇を憂い、抗いたいがためにファンタジーを書き綴るのだが…というあらすじです。
私も「私」と一緒に、物語の世界から、失われていく幻想を憂いて少し語りたいと思います。
私達が何気なく溶け込んでいる都会の夏に、置き去りにされたような龍や鬼、座敷童子、八咫烏といった存在。メタ的要素が強く色々考えさせられるのですが、作者さんの描写が素晴らしく、日々着実に死んでいく幻想の、虫の息の音が聞こえてきます。
私はどちらかといえば、自然の中には太古の昔から神様や精霊みたいな存在がいることを信じている方なので、美しい空や山、海も全て、解明したり何もかも手に入れた気になっている人間の驕りみたいなものを、生きていると感じます。
例えば、環境破壊や資源の搾取によって絶滅危惧種となった動物を、今さら今度は絶やさないよう保護するというのも、人間って勝手だな、と思う。この物語での龍は、人間が今までに簡単に捨ててきた人間以外のモノたちの象徴でもあるように感じました。
龍の生き残りが死んでいった龍を悼んで雨を降らす、とか、罪深い人間を憎むこともせず静かに消えていく神秘たちの姿は本当に儚く美しいです。
この物語で興味深いことは、「私」が幻想を現実世界に繋ぎ止めておきたくて日々キーボードで幻想物語を書き綴る行為そのものが、彼等の首を絞めることだというのです。
『そうしてまた、私たちの書くものが「ファンタジー」という墓標を、「ないもの」という印を、彼らに深く深く、刻み付けていくのだ。』
ーーー本文より抜粋。
ああ、なるほど…と唸りました。
全然見当違いなことを言うかもしれませんが、今更ながら嵌った「ゴールデンカムイ」で、かつて自然とともに生きてきたアイヌの人々は文字を持たず、神秘や伝承を口伝えで残してきた、というような話がありました。そのときに神秘的な存在や事象は、書くことでその神秘が薄れるということがあるのかもなぁ…と感じたので、本作の「ファンタジーという墓標」という表現が、個人的にかなり刺さりました。書くごとに「幻想」は文字通り幻想になっていく、ということですよね。なるほど…。すごい。
短編作品でも、まだまだ語れる本作ですが今日はここまで^ ^
儚く美しいレクイエム。
カクヨムで発見した一等星 小鳥 薊 @k_azami
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