第16話  生きるって大変だったんだなぁ


ほんとにどうしてこうなったんだろう。

何回も何回も何回も考えたけど、理由は全然わからない。


私は、殿下の婚約者のお嬢様に殺害予告を出した犯人を捕まえるべく、ドレスアップして会場入りした。

目立たないようにと、紫色を選び、事前に渡されていた仮面をつけて、入口付近をうろうろしていた。

リノさんも、仕事ならばと結構ノリノリで、一緒に犯人探しをしていたんだけど。

全員が会場入りしたと思われる辺りで、メイン会場であるホールの壁の花になりながら、主催者たちの行動を見ていた。

リノさんは、ホール裏手に入り込み、不審な人や物はないかを確認した後、私と合流して、文字通り、人ごみの中を物理的にすり抜けながら犯人探しをしていた。

そうして、何を勘違いしたか、どこかのお坊ちゃんに話しかけられたのだ。

飲み物を渡されて、一口だけならと口をつけて、それから。

あれ?

それからの記憶が一切ない。

で、気付いたらこの状況だった。


「(相変わらず、どんくさいな。あんな、子供じみた罠に引っかかるほど馬鹿だとは思わなかったぞ)」


口には布を噛ませられ、言葉にならない。

さるぐつわって言うんだっけ。

息がしづらい。

言い返せないのが腹立たしい。


「(縄抜けの練習も必要だったか)」


そう言って、目の前で縄抜けの仕方をレクチャーし始めた。

いきなりそんなこと言われても、できるわけないだろ!


「んー!んーー!」


後ろ手にがっちり拘束されて、どうやって抜け出せというのか。

口も使えず、足もがっちりと縛られて、腕も抜けない。

最悪だ。

このまま殺されるのだろうか。

助けは来るだろうか。

疑問がたくさん浮かぶ。


「(お前、本当に不器用だな)」

「んんーー!」


悪かったな、この野郎!

練習なしで。いきなり本番とか、絶対無理があると思わないのか!

思い切りじたばたと暴れたら、頭の髪飾りがぽとりと落ちてきた。


「(やったな。これで縄を切れるぞ)」


髪飾りの先は、尖っている。

これで縄を切れということらしい。

関節を外して縄抜けしろと言われるよりは、数百倍ましに思えた。

ただし、上手くいけばの話だけど。


間違えて、何度か腕を刺して痛い思いをしたが、なんとか頑張って手首の縄を切って拘束を解き、足の結び目に取りかかる。

まずは、ここから抜け出すのが先だ。


「(外の様子を見てくる)」


私の様子を見て、大丈夫だと判断したのか、鉄仮面はするりと部屋を出ていった。

まじか。

こういうとき、お化けは便利だなぁー。

しかし、こんなところに一人残されるとは思っていなかった。

すごく不安だ。

心細いけど、仕方ないか。

今の自分にできることを頑張ろう。

縄の結び目は、もう少しでほどけそうだ。

昔から、こういうのは得意だったんだ。

毛糸の絡まったところを解くのは、いつだって、孫の私の仕事だったから。

編み物をしていたおばあちゃんのことを思い出しながら格闘すること数十秒。

やっと結び目がほどけた。

と、思ったら、誰かが入ってきた。

まずい!見られた。

私の様子を見て、すぐに察したらしく、彼は後ろ手に扉を閉める。


「人払いをしておけ」


扉の向こうで、誰かの返事が聞こえ、ばたばたと去っていく足音が聞こえた。


「何をしている?」

「んー!」


さるぐつわをしたままだったので、返事ができなかった。

男の腕が伸びてきたので、思わず身構えた。

せっかく抜け出たのに、また捕まるのか。

殴られたくなかったので、目をつぶって身を固くしていたら、その手はなぜか、口の布を解きにかかる。


「そんなに体を固くしなくても大丈夫ですよ」


その声に聞き覚えがあって顔を上げると、男は、いたく真面目な顔をする。


「ここって、意外と野蛮な人が多いんですねぇ」

「あひああ!」


神様、と言おうとしたが、きちんと言葉にならなかった。

よく見たら、神様だ。

なんでこんなところに!


「こんなことになっているのならば、もう少し早めに言ってほしかったですねぇ」

「(すまない)」


神様の隣には、いつのまにか鉄仮面が座っていた。

ちょっと待て。

鉄仮面と神様って、ぐるだったの?

疑問は尽きないが、見知った人が来てくれて、嬉しくて、安心して、涙が溢れてきた。


「はい、取れましたよ。泣くほど嬉しかったとは来てよかった。さぁ、逃げましょうか」

「逃げましょうって、どうやって?」

「こうやってです」


そうして、神様はパチンと指を鳴らす。

すると、次の瞬間、私は真っ暗な道の真ん中にいた。

神様も、リノさんもいない。

完全にひとりぼっちだった。


「うそでしょ……」


上を見上げると、満天の星が見える。

目が慣れてくると、ここは整備された道らしく、足元はレンガ敷きになっていることに気付いた。

どこかの街道なのだろうか。

展開が速すぎるため、理解することは放棄した。

とにかく、命は助かったが、自分がどこにいるのかもわからないのでは、お話にならない。


「どこ、ここ?」


靴もはいてないし、現在地も不明。

頼みの綱の鉄仮面ちゃんも不在。

どうしろと?


「リノさん?かみさま?」


ぐるぐると周りを見渡して見たけれど、人っ子一人いない。

まじか。

たった一人、こんなところに放り出されて、これからどうしろって言うんだ。

安心できたと思ったらこれだ。

落差が激しすぎる。

ものすごく不安になる。

靴も履いてないし、直接地面だから、足が痛い。

着ているドレスは重いばかりで肌寒く、防寒着の役に立ちそうにもない。


「どうしよう。どっちに行けばいいの?」


右を向いても、左を向いても、街の明かりは見えない。

脱出できたのはいいけれど、ここから先はどうしろと?

せめて、鉄仮面ちゃんだけでもいてくれたら!

途方にくれたいたら、馬車の音が遠くから聞こえてきた。

御者台の明かりだろうか。

ゆらゆらと揺れる明かりは、だんだんこちらに近づいてくる。

助けを求めるべき?

それとも、隠れるべき?

迷って迷って、とりあえず、かかしのように、道のわきに立っておくことにした。

お化けと間違えられそうだけど、見つけてくれたのなら、それはそれで好都合だ。

近くの町まで乗せていってもらおう。

それからのことは、後で考えればいいか。

いい人だといいな。

そう思って、近付いてくる馬車をじっと待った。

馬車が通り過ぎる瞬間、御者台の人と目があった。

間違いなく目があった。

私と目があった人は、悲鳴を上げ、それに驚いたために手綱を引いたのか、馬が驚いたのかは分からないけれど、そのまま勢いをつけて走り去ってしまった。

そりゃそうだよね。

こんなとこで、ドロドロのドレス姿の女なんて、私だって怖いもん。

しかし、なぜか馬車はUターンして戻ってきた。

なぜに戻ってくる?

もしかして、お化けと間違えられて悪霊退散するためとか?

銀の弾丸でもぶち込まれるんだろうか。

びくびくしながら見ていたら、私から少し距離を取りつつも、馬車は止まった。

そうして、そこから降りてきた女性は、エクソシストでも退魔師でもなかった。


「あなた!なぜこのような場所にいらっしゃるの?!」


あぁ、助かった。

殿下の婚約者のお嬢様だったのだ。

安心したら、思いっきり肩の力が抜け、その場に座り込んでしまった。


「質問に答えなさい!」


彼女が厳しい口調なのは、本当に心配してくれたからだろう。

王子様の婚約者が、偶然にも、通りかかってくれた。

たまたまだろうが、よくぞ通りかかってくれたと、心の中では小躍りしていた。


「助かりました!ありがとうございます。私自身、どうしてここにいるのか、よく分からないのです」

「あなたが無事で良かった。あぁ、酷い怪我ね。ともかく馬車に乗って頂戴。今すぐ屋敷に引き返しなさい」


婚約者様は、私の手を取り、馬車に乗せてくれた。

明るい場所で見ると、確かに、私は怪我をしていたようだ。

縄を斬るときに、自分の肉に刺してしまった所からは血が滲み、縛られていた場所は、赤く擦り切れている。

しかし、全体的には、そんなに重症ではない。

心配することはないと言ったのだが、彼女は傷口をみて、眉をひそめた。

それから、馬車の中で、色々と話を聞かされた。

パーティ会場だったお屋敷は、焼け落ちたのだという。

あっという間の出来事だったそうだ。

幸運にも、パーティが終わった後、深夜の出来事だったため、被害者は、片付けのために残っていた使用人だけだったらしいが、焼け跡から、なぜか大量の子どもの骨が出てきたために、大事になった。

犯人はわからず、屋敷の持ち主である辺境伯が犯人というわけでもないらしく、捜査は難航しているらしく、犯人はまだ捕まってはいない。

緘口令が敷かれているらしいが、人の口に戸は立てられぬ。

噂が噂を呼び、無実の辺境伯が、実は小児愛好家だったのではないかという噂が立っているらしい。


……なんか、色々盛りすぎじゃない?


「あなたが戻らないので心配していたんです。死んでしまったものとばかり」

「すみません。ご心配をおかけいたしました」


なぜか、私が監禁されてから、二日ほど経っていた。

相変わらず、神様のやることは、どこか抜けている。

私がここに来たのだって、担当した新人のせいじゃなくて、神様のせいなんじゃないかと半分疑いはじめている。


汝、神を欺くことなかれ。

汝、神を疑うことなかれ。

汝、神を敬うたもうべし。



「あの、それで、犯人は見つかったのですか?」

「えぇ。全く単純な推理でしたの。私もまだまだ未熟で、困ってしまいます」


犯人は、暇に出された使用人の仕業だった。

暇に出したはずなのに、なぜか会場に姿を見せ、捕まえて問いただしてみたら、自分が犯人だと自白したらしい。

……それって、脅したの間違いじゃ?

なんて聞くこともできずに、見つかってよかったですねと、適当に返事をしておいた。



鉄仮面ちゃんは、私が消えた後、途方に暮れたらしい。

ついでに、神様も一緒に消えたものだから、一瞬、頭が真っ白になったそうだ。

そりゃそうだ。

状況が状況とはいえ、自分の体を持ち逃げされたようなものだ。

しかし、慌てたところで何もならないと早々に頭を切り替えて、ここに戻ってきたと言っていた。

辺境伯のお屋敷にたどり着くまでの二日間は、心配するどころか、むしろ、自由を謳歌していたらしい。

幽霊の知り合いができたんだって。

なんだそれ。


「さすが死神メイドだな」


そうして、わけもわからずに、生きて戻ってきたことで、死神メイドから、不死鳥に昇格していた。

炎の中から生還した事になっているのだから、不死鳥になったとかなんとか。

今度は想像上の生き物なので、降格なのかもしれない。

まぁ、どっちでもいい。

とにかく、私の雇い主である殿下は、私のことを面白がっているようだ。

死んだと思われた人間が生きて戻ってきたのだ。

ネタに事欠かず、すいませんね。

しかも、今回は変態侯爵の屋敷から軌跡の生還ともてはやされ、不正を暴きたければ、こいつを頼れという馬鹿げた噂まで広まってしまうことになるなんて、予想していなかった。

勘弁してくれ。


「有能な使用人を持てて嬉しいよ。これからも宜しく頼む」


いい年して、土にまみれた裸足の女中など、どこを探してもいないだろう。

さっそく、メイド長に雷を落とされ、身綺麗にするようにと怒られた。

私だって、好き好んでこんな恰好をしているわけじゃないのに。

贅沢にもメイド長より入浴を指示され、ゆっくりくつろいでいたら、さっさとしろと怒られて、今日は休みだから部屋から出るなと言い遣った。

お局様(メイド長)なりの心遣いなのだろうが、いかんせん、分かりづらい。



そして、その晩。

兄が、人目を忍ぶように部屋にやってきた。

正直、まだちょっと、いや、かなり怖い。

けれど、勝手に部屋に入ってきて、後ろ手に鍵をかけてしまった。

鉄仮面は助けてくれない。

助けてほしいと目で訴えたけれど、なにもアドバイスをくれなかった。


「本日はどのような要向きでいらしたのでしょうか?このような時間に女性の部屋に入るなど、変な噂を立てられたら困るのではないでしょうか?」


適当な言葉を並べて、さっさと出て行けをアピールした。

しかし、彼はめげなかった。

鉄仮面の兄は、鉄の心を持っていた。


「無事でよかった。お前が死んだら、俺の生きている意味はない」


そう言って、彼は距離を詰めてくる。

私は、後ろに下がるが、なにぶん、狭い部屋だ。

すぐに壁際に追い詰められてしまった。


「少々、おおげさなのでは?」

「おおげさなものか。お前は、俺の大事な妹だぞ?」


ぐっと腕を掴まれて、手首についた縄の後をさらさらと撫で、痛ましいとでもいうように、顔を歪めた。

触られた。

このまま、腕をへし折られるのだろうか?

それとも、腰に下げた剣で、切られてしまうのだろうか。

動くことができずに固まっていたのを逆手に取られて、くそ兄貴は、勝手に盛り上がってくれた。


「お前に何があったのかは知らない。しかし、どんな姿になろうとも、俺の心は変わらない」

「わ、わかりました!わかりましたから、きょ、今日のところはお引き取り下さい」


声が震えてしまったが、ちゃんと言えた。

ちゃんと嫌だと、伝えることができた。

しかし、そんなことで彼は引き下がらなかった。

抱きしめ、そのままベッドに押し倒された。

なんだ、この展開。

鉄仮面ちゃんは、兄のことを兄としか見ていないと言っていたよな?

天井付近でぷかぷか浮いているリノさんに、視線で訴える。


「(すまない。兄はいつも過剰なんだ)」


ホントは付き合ってるんじゃないの?

視線で訴えてみた。


「(兄に対して、好意を抱いたことはないから安心してくれ)」


うっそだろ、お前!

これ見ても、同じことが言えるのか?

明らかに向こうは好意丸だしだぞ?

好きです。愛していますって、恋愛対象として見られてるぞ!たぶん。

と、視線で訴える。


「(兄とまぐわうくらいなら、潔く死を選ぶ)」


やっべ。

鉄仮面ちゃんと、視線で会話できるようになってたわ。

というか、私、このままどうなるの?

死ぬの?

殺されるの?


「(というわけで、死んでくれるか?)」


待って!なんでそうなる!

まだ何もしてないんですが!


「(はたから見れば、こう見えるのだな。過剰というよりも、我が兄は変態だったか。兄を兄として見られなくなったら終わりだ。死ぬしかない)」


なぜそんなに極端なんだ、鉄仮面ちゃん!

早まるな!


「(それは私の体だ。お前は、その体を清いまま、私に返す義務がある)」


確かにそうですよ!

そうですけど!

私だって、こんなのは絶対にいやだ!

というか、無理!

あまりの恐怖に、心の中で叫んでいると、更に訪ね人がいらっしゃった。

こんこんと、控え目なノックに返事を出来ずにいたら、どんどんどんと、ノックの回数と強さが増えていく。


「いますか?いますよね?いなかったら、罰を与えますが宜しいですか?」

「いますいますいますいまーす!」


天の助けとばかりに大声で叫ぶように返事をすると、兄は信じられないとでも言いたげに、こちらを見ている。

助かった!

兄の隙をついて、ベッドから飛び出して扉を開けようとしたが、がちゃがちゃとなかなか開かない。


「た、助けて!」


どんどんと手で思い切り扉を叩くと、リノさんが鍵を開けてくれた。

思い切りドアを開けると、メイド長が立っていた。


「た、助けてください!」


縋るように抱き付くと、兄の姿を見て状況を察したのか、彼女は部屋の中に入ってきた。

その手には、お茶とお菓子を携えて。


「いつからですか?」


言葉の意味が理解できずに、ぽかんとしてしまった。

私のあまりのアホ面に、メイド長はお怒りのようだ。


「いつからそういう関係なのかと聞いています」

「物心ついた時からはすでに」

「待ってください!何もありません!なんでもありませんから!」


バカかー!

この人、頭おかしいんじゃないの?

何言ってくれちゃってんのよー!

メイド長を盾にして、兄に文句という名の抗議をする。

壁になってくれる人がいるって、こんなに力強いことだったとは知らなかった。


「帰ってください!」

「嫌だ」

「なぜに拒否!帰れっつってんだろ!」

「俺はここに残る権利がある」

「そんな権利はない!」

「兄が妹を心配して何が悪い」

「きもい!うざい!きもい!」


兄は、純粋に兄として妹のことを心配したらしい。

心配の仕方が過剰なだけだとか。

んな馬鹿な。

どう見たって、家族愛を拗らせすぎだ。

それは、自分の恋人を大事に想う感情に似ていると思うのは、私だけだろうか?

それとも、それがこの世界の人たちにとっては普通なのかな?


「もしかして、こっちじゃ兄妹で抱き合うのは普通なの?それとも頭おかしい人定期?」


がっ、と頭を掴まれた。


「おおおおお……。じっ、地味に痛いんですけど」

「痛くしているんだ」

「相変わらず、仲がよろしいようで結構ですが、噂になっていますので謹んでくださいね」

「(すまん。メイド長も里の関係者だ。そして、私の憧れの人だ)」

「どんだけ関係者送りこんでるんですか!」


思わず、大声で突っ込んでしまった。

あ、と思った時には遅かった。

リノさんの姿は、二人には見えていないのを、すっかり忘れていた。


「いたたたた!痛いですいたいいたいいたいー!」

「お前の最近の奇行は目に余る。頭の点検をしてもらうといい」

「頭の中ってことですか?だだだ大丈夫です。間に合ってますから離してください。平和的に話し合いましょう。まじで痛いぃぃ」


ひいひいと悲鳴を上げ、たくさん謝って、離してくれと懇願し、ようやく頭を解放してくれた。

たぶん、脳の半分の細胞が死んだね。

意図せず、脳みその細胞が新しくなったことだろう。

兄は、私の頭を掴んでいた手の匂いを嗅いでいる。

変態だ。

こいつは、やっぱり変態だった。

見た目はイケメンだけど、中身はだいぶキモい。

最悪だ。


「大丈夫ですか?」

「そこの変態のせいで頭が割れるかと思いました」

「ちゃんと加減はしていたが?」

「いいえっ!配慮という名の手加減はされませんでした!」

「配慮すればいいのか?」

「すみませんでしたっ!」


全力のジャンピング土下座である。

膝をしたたかに打ったが、構ってなどいられない。


「聞いてない、メイド長が関係者だなんて聞いてない。憧れの人だなんて初めて知った」

「(そうだったか?)」


この鉄仮面は!!!

そんな大事なことを黙っているなんて、信じられない!

しかし、今はリノさんに構っているひまはない。

メイド長のひややかな目にも耐えられそうになかった。

その彼女は、私の肩にそっと手を置いた。


「私は、あなたを慮っているのです。あなたは最近、いい意味で変わってきていましたから」


リノさんは、ただただ天井に座り、こちらの様子を見降ろしている。

そんなところで傍観してないで、この変態兄貴の対処法を教えてくださいませんか?

鉄仮面ちゃんも、空気を読むことに関しては、兄に負けず劣らずのポンコツだった。

ふわふわと下に降りてきて、メイド長の隣にちょこんと佇む鉄仮面ちゃんに恨みがましく視線を送ったが、彼女は私のことなんか見ていなかった。

彼女の視界に映らないことを逆手にとって、正面からメイド長の顔ばかり眺めている。

え?もしかして、リノさんって、そういう嗜好の持ち主だったんですか?

憧れって、そういう意味の憧れ?

なんだ、この泥沼。

私が行方不明になっていた二日の間に、何があったんだ?

皆さんにどんな心境の変化が?

やばい。

全然分かんない。




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嫌われメイドは暗殺者?!人殺しはいやなので、愛で殺したいと思います 雪森まろん @snow-snow

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