第5話 出会うのは
社長相手にドキドキすると感じた数日間は、恥ずかしくて顔を見れなかった。
一度寝たから?
それとも、ミスをフォローしてくれたから?
知っているのは、社長の側にいたいという、恋心だけだ。
そして、その日の午後。
私の心を落ち込ませる出来事があった。
お昼休憩の時間、皆で何気なくニュースを見ていた。
その時だ。
有名なモデルの、熱愛が飛び込んできた。
そのお相手に指名されたのが、某有名デザイナーのT氏。
「これって、社長の事じゃないですか?」
誰かが、ポロッとこぼした。
「えっ、まさか。このモデル、超美人で有名だよ?」
「だって、聞けば聞く程、社長の事言ってませんか?」
それは、私も感じた。
まさか、彼女いたの?
次第に、自分がしでかしてしまった事の重大さに気づく。
なんて事してしまったんだろう。
そんな時、社長がお昼から戻ってきた。
「社長、ニュースに出てますよ。」
誰かがよせばいいのに、余計な事を言った。
「ああ……」
社長は、テレビをチラッと見て、自分のデスクに座った。
「それ、俺じゃないから。」
私達は、隣にいる人と目を合わせた。
「でも、これって明らかに社長の事を……」
「そいつ、ただの同級生だし。」
ただの同級生って……
社長の顔に、テレビのカラーが映る。
美人モデルと噂になるような人。
私には似合っていない。
奥歯を噛み締めた。
短い間の恋だったな。
私は小さくため息をついて、大きく鼻をすすった。
「今度の合コン、あったら誘って。」
同僚の子にそう言ったのは、次の日だった。
不思議と、泣けなかった。
短かったせいか、夢だったと思えば、納得できたから。
いつまでも、後ろを見てるだけじゃダメだ。
前を向かなきゃ。
そんな私に気を遣ってくれたのか、同僚の子が合コンに誘ってくれたのは、三日後だった。
「東村さん、彼氏欲しいんですか?」
私はわざと笑った。
「まあね。」
唇を直す私の顔は、同僚の子にどう映ったのだろう。
きっと、失恋を新しい恋で必死に打ち消そうとしているような、そんな顔に見えたかもしれない。
仕事も終わって、同僚の子と合コンの会場となるお店に行った。
お洒落なレストランで、雰囲気もいい。
こんな素敵な場所なら、相手も素敵な人だろう。
そして相手が来た時、また一人足らなかった。
「後から来るって言ってたから。」
男性陣が、その人をフォローしていた。
ああ、そう言えば。
この前の合コン、社長が来た時も一緒だったな。
そう思って頭を振った。
もう忘れよう。
忘れる為に、ここに来たんだから。
そして私は、斜め前に座った人に、サラダをわけた。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
お互い、微笑み合った時だ。
もう一人の男性陣が、私の目の前に座った。
「遅くなってすみません。」
「いいえ。」
微笑みながら顔を上げたら、そこには社長がいた。
「社……」
「東村。」
そう言って社長は、私の手を握りしめた。
周りは、『なになに?』と騒いでいる。
「不安な気持ちにさせてごめん。」
涙が出そうになった。
そんな事言われたら、忘れようと思っても、忘れられない。
「もういいんです。」
「何が?」
「もう新しい出会い見つけようって、思っていますから。」
涙声になった。
これじゃあ、説得力がない。
「だとしたら、東村。」
「はい?」
「おまえが出会うのは、いつでも俺だけだ。」
社長は私の手を取ると、手の甲にキスを落とした。
- End -
密会~合コン相手はドS社長~ 日下奈緒 @nao-kusaka
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