第4話 過ちだったのか
目が覚めると、朝になっていた。
「うーん……」
起き上がると、私、裸になっていた。
急いで胸を隠した。
「えっ、なぜに裸?」
恐る恐る隣を見ると、社長が寝ている。
「あちゃー。」
やってしまった。
社長と寝るなんて。
昨日の私は、間違いだったんだ。
人前に泣いてるし、社長と手を繋いでるし、しかも社長と寝るだなんて!
「……冬佳?」
「は、はい!」
慌てて返事をしたけれど、社長はまだまどろんでいる。
今だ。
ここを脱出しよう。
私はベッドを出て、急いで服を着た。
「冬佳ぁ。もう一回……」
「ごめんなさい!」
走るように廊下を駆け抜け、社長の家を飛び出した。
「はぁ……焦った。」
私は額の嫌な汗を拭った。
最悪なのは、今日も仕事がある事だ。
もちろん一旦家に帰って、洋服を着替えた。
社長と顔合わせたら、何て言えばいいの?
って言うよりも、顔合わせられるの?
ため息をつきながら、会社に行くと、既に社長が出社していた。
「お、おはようございます。」
「おはよう、東村。」
分かってますよ。
一度寝たぐらいで、彼女にはなれないくらい。
でも、朝は”冬佳”って言ってたじゃん。
なんだか悶々としながら、社長の前に立った。
「昨日は、お世話様でした。」
「ぶはっ!」
社長は、ヒーヒー言いながら、笑っている。
「おまえ、いいよいいよ。」
「はぁ……」
何がいいんだか分からないうちに、他の社員も出社して、私は自分の席に座った。
社長は、何もなかったかのように、デスクで資料を見ている。
昨日の夜の事は、なんだったんだろう。
社長の家に着いて、泣きながらご飯食べて、泣き止んだらキスされて、それで……
「ああああ!」
頭をぐしゃぐしゃに、かき混ぜた。
「東村。」
当然社長の目に止まる。
「うるさい。」
うるさいって、誰のおかげでこうなってるのよ。
そして私は、ふと自分のパソコンのメールを開いた。
今日の新規のメールは……あった。
取引先の泉さんからのメールだ。
《この前依頼したデザイン、本日までとなっておりましたが、如何でしょうか。》
この前依頼したデザイン?
私は急いで、以前のメールを探した。
こ、これだ!
『畏まりました。』で終わってる!!
その後、連絡も取っていない!!
「どうしよう。」
「何かあったか?東村。」
私は慌てて、社長のデスクに向かった。
「取引先の泉さんに頼まれていたデザイン、まだ出来上がっていなくて。」
「リテイクがまだなのか?」
「いえ。まだラフ画も提案していないんです。今日が締切なのに。」
周りから、『ええ?』というため息が漏れる。
「とりあえず、先方に謝りに行こう。」
社長は立ち上がって、上着を羽織った。
「申し訳ありません。」
この時が本当に、泣きたい時だよ。
でもここで泣いちゃいけない。
デスクに戻って、カバンを取ってきた。
「何かあったら、携帯鳴らして。」
そう言って私と社長は、会社を出た。
「泉さんって、この前東村のデザインを気に入ってくれた人だろう?それで、発注してくれたのか。」
「はい。まだイメージも聞いていなくて。どうしよう、私……」
「申し訳ないと思うなら、誠心誠意謝る事だ。」
「はい。」
そうして15分後。
泉さんのオフィスに着いた。
「申し訳ありませんでした!」
二人で、頭を下げたけれど、返って来たのはため息だった。
「おかしいと思ったんですよね。何も連絡がないから。」
「私の管理不足です。何てお詫びしたらよいか。」
社長は、頭を下げっぱなしだ。
「どうしようなぁ。今度の新商品のパッケージにしようと思っていたのに。」
「そんな大事なお仕事を、私に?」
胸が痛んだ。
そんな大事な仕事、私に任せてくれたのに。
「あの、もう少しお時間頂けないでしょうか。」
社長がなんとか、提案している。
「いいですよ。東村さんのデザインが気に入ったから、依頼したんだし。」
「ありがとうございます。」
なんとか、時間を下さる事で話がまとまり、私達は泉さんのオフィスを出て来た。
「寿命が縮むかと思った。」
「本当に申し訳ありません。」
私は社長の顔を見れずに、ただただ謝った。
「そんなに謝るな。」
「えっ?」
「俺も悪かったんだ。おまえのデザイン、散々蹴散らして。ああやって気に入って発注してくれる人もいるのにな。」
なんだか、嬉しい。
社長、こんどこそ認めてくれた?
「二人で、あっと言わせるようなデザインを作ろう。確か、パッケージに使いたいって仰ってたな。」
「はい。」
なんだろう。
この温かい気持ちは。
社長がいてくれてよかった。
社長が……
社長が!?
私は、顔を真っ赤にした。
「どうした?」
「いえ……何でもないです。」
まさか、社長相手にドキドキするなんて。
それこそ、どうしよう……
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