第18話 束の間の準備

領主メルトの館から(面倒だったので自力で)冒険者ギルドまで戻ってきた俺は直接ファングの元まで行き、一連の騒動を説明した。するとファングは額に手を当て考え込む…ふりをする。


「ポーズだけだろ?」


「チッ、バレたか」


「それは考え込むふりをしたことか。それとも国王と一芝居打ったことか?」


「どっちもだ。考え込むふりのところはいい。それよりシルヴェスター・エルン・ヴェールヴァルト公爵の押しかけのことだろう?先に行っとくがこれを計画したのは国王のほうだぞ」


それは薄々感じていたし、何か手を打つだろうとは思っていた。だがやり方は正直気に食わないな。人の悩みすらも計画のうちに入れ込むのはいただけない。だがこの苛立ちすらもあいつの想定内、むしろ誘導されている気すらする。


「細かい言い訳はこの際国王にまとめて聞く。それよりおそらくこの後国王のとこにいろいろ報告することになってるんだろう?」


そう聞くとファングが如何にも図星をつかれたような顔をする。やっぱりか。俺に対する一連の策が結末を迎えたタイミングで直接会う手筈になっていたんだろう。


「どうやってどんな連絡手段を利用していたのか知らんが、一連の計画が終わったところでの連絡がそっけないもののはずはない。あいつはまず間違いなく直接話を聞きたがるだろう。それに俺もついていく」


「ここから国王のいる王都まで片道半日はかかるんだぞ。一週間はここにギルドマスターである俺と、解体を一手に担うお前さんがいなくなるとギルドの運営に大きく支障をきたす」


ファングの言葉にはたしかに筋が通っているように思える。だが……


「嘘つけ。計画が俺にばれた時点でこうなるのは予測してただろう。てことはそのために事前準備しててもおかしくはない」


国王の計画では俺が国王のところに直接乗り込むことを算段に入れている、つまりまだあいつの計画は終わっちゃいないだろう。ここであえて国王の思惑から外れたほうが一泡吹かせられそうだが、残念ながらすでにバール君に伝言を頼んでしまっている。これを無視してしまうとさすがにこちらが不義理だといわれてしまう。するとそこをついて国王が半ば強制的に呼びつける可能性も出てくるのだ。それだけは避けたい。


「そんなわけで行くぞ。こんな面倒ごとはさっさと終わらせて早くグータラしたいんだ」


ファングによる諸々の制止を無視しながら王都へと乗り込むべく準備をするのだった。




 ◇ ◇ ◇




エドモンドたちの住む町、ヴァライズを持つ国、アルバニア王国。そんな国を治める国王が鎮座する王都エクスにはまるで町全体を見渡すかのように王城が聳え立つ。本来明るく見栄えの良いものが好まれる王城にしては珍しく全体が黒く染まっている。


極夜城とも呼ばれる文字通り異色の城はアルバニア王国の代名詞とされ、この城を一目見ようと訪れる人は後を絶たない。セキュリティの都合上関係者以外は城周辺の敷地に立ち入ることすらできない。


そんな誇り高い城の主ともいうべき国王は現在、限られた信頼する人間しか入ることの許されない零細の間という場所で彼が信頼する右腕でこの国の宰相であるケランとあることについて話し合っていた。


「では今から数日もしないうちにあの方がここまで突っ込んでくる、そういうことですか?」


「おそらくファングさんの首根っこ掴んだ状態で来るんじゃないかな。いやー、どうやって現れるか楽しみだね」


宰相の焦り交じりの詰め寄りにもまるで動じず、むしろ何が起こるのかわくわくする国王。自分が仕掛けた半ばいたずら染みた計画を知ってそこからどんな仕返しが来るのかを楽しみにしているのだ。これがアルバニア王国におけるトップ、その実態である。天才的な頭脳とカリスマ性を持ち合わせていながらもその能力をいたずらに使うという優れているのかどうかもわからないような男がアルバニア王国国王、ベイナルト・ウィル・アルバニアである。しかもいたずらの中で国の利益を確保するものだから注意するに仕切れない厄介っぷりである。


「さて、二人が来る前にこっちも準備しちゃおうか。ケラン、みんなに召集かけて。多分明日くらいには来ちゃうと思うから半日で来られる人だけでいいから。場所は、そうだな。鷲獅子の間でいいかな」


まるで悪びれる様子もなく話を先に進める。宰相ケランもこれ以上は何を言っても無駄だと判断し、準備を進めるために部屋を出る。


「ジャックさん、いや今はエドモンドさんだっけか、とにかくまたあなたと会えるのが楽しみですよ。この国のため、また力を貸してもらいますよ」

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解体職人のおっさん、実は最強の解体屋 荒場荒荒(あらばこうこう) @JrKosakku

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