第17話 束の間の真相暴露

模擬戦が終わった。勝者は俺。これで最高級枕もーらい。内心では喜んでいたが、いい年こいたおっさんがおもちゃを買ってもらった子供みたいにはしゃぐのはみっともないので平静を装う。


そんな興奮を抑えている俺の後ろからメルトの娘であるミナが抱き着いてくる。


「エドモンド様…。かっこよかったです」


「はは、ありがとう。…でもとりあえず離れてもらっていいかい?」


「あ、す、すみません!」


そこまで近づけれると加齢臭がしないか気になっちゃうし。あとバール君が模擬戦で負けたこと以上に悔しそうだから。…まさか血涙を流すとは思わなかったけど。


そんな血涙を流すバール君だが何か気になったことがあったのか、こちらへと近づいてきて疑問をぶつけてくる。


「貴様、いやあなたはいったい何者だ?立場上この国、そして大陸中の強者の存在は把握している。しかしエ〇ィー「エドモンドだ」エドモンドという名前は聞いたこともない」


「…そうか。」


「しかしかつて『解体』スキルを用いて並みいる強敵を打ち破り、この世界を未曽有の混乱から救った英雄なら知っています。…あなたのことですよね、『解体バラシ屋』、ジャック・ホライズン」


その一言でメルトとミナが息をのんだのが分かった。


「俺はメルト伯爵の許可をもらい、いつでもここを訪ねることができる。そのためにいろいろ画策して半ば強引に進めさせてもらった」


いきなり身の上話をしだすかと思えば、なにやってんだよこいつ。メルトも案外苦労してるんだな。


「しかし今日は本来ここを訪ねる予定はなかったのだ。だが国王様が今日ここを訪れることを勧めてきた。それが不思議だったが、あなたがここを訪れることを知っていたなら辻褄は合う」


ここで国王が、あいつの存在が出てくるか。てか話を聞く限り国王とファングのやつもグルだな。


「おそらく国王様は俺ならばあなたの正体に気づくだろうと踏んで勧めてきたのだろう」


駄目だ。確信してしまってる。当時喧伝していた『解体バラシ屋』という呼称を知っているだけならまだしも、俺が冒険者ギルドに登録していたジャック・ホライズンの名すらも知っている点から、下手したら俺以上に俺のしてきたことに詳しいかもしれない。


「はあ、ここまできたら隠すのも馬鹿らしいな。…そうだ。俺が『解体バラシ屋』だったエドモンドだ。ちなみにそのジャック・ホライゾンという名は偽名」


「やっぱりそうですか!…って、え!?ジャック・ホライゾンって偽名なんですか?」


あの時の俺は両親からもらった宝物なまえを穢してしまうことをおそれて偽名を使った。今思えばあの時の判断は想像以上に英断だったように思う。


「てかバール君、すっかり敬語になってるね。それがむずがゆくて仕方ないよ」


「稀代の英雄であり、戦いに身を置く者たちすべての畏敬の対象です。そりゃあ敬語にもなりますよ」


「何やらただならぬ思いがあるみたいだけど、俺はあの時の俺が世界一嫌いなんだ。できればもう少しフランクにしてくれ」


「わかっ…た。善処しませう」


こりゃ無理そうだ。諦めよう。とにかくすべて終わったんだ。早く帰ろう。もう寝たい。


「用は済んだし帰るわ。枕の件、頼むよバール君。あと国王に伝言頼む。『首と、ついでに足も洗って待っとけ。お礼参りにはファングのやつも引きずってくる。』とな」


そういってメルトの屋敷を後にするのだった。

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