第16話 束の間の決闘

「いいよ、その代わり勝ったら最高品質の枕ちょうだい」


それがバール君からの宣戦布告に対する返答である。ここでごねても長引くだけなんで合法的に殴って合法的に寝具周りを強化することにした。決闘場所はここ、メルトん家の広い庭だ。普段持ち歩く武器を互いにメルトに預け、模擬戦用の武器(二人とも木剣)を借りてやることになった。スキル使用は自由。てかバール君もスキル使えたんだね。まあそれじゃなきゃミナのスキル暴走解決のためという名目が使えないのかな。


「いいか。私が勝ったら貴様は二度とミナの前に姿を見せるな。もし万が一貴様が勝てば最高級の枕を用意する…でいいんだよな?」


「おいおい、決闘吹っ掛けたほうが疑問を持つんじゃないよ。こっちとしちゃ宝くじ当たってラッキーくらいの感覚だから問題ないんだしさ」


ちなみに公平性を欠かないために互いのスキルのことは知らない。そのうえで余裕だと踏んでいる。でもバール君はそれが気に入らなかったらしく、


「余裕でいられるのも今の内だ!」


とわかりやすくおかんむりだ。てか彼はテンプレセリフを言わなきゃいけない病気にでもかかっているのかな。


決闘直前とは思えないほどのんきなことを考えていると、今回の決闘の審判をしてくれるメルトが俺とバール君の間に立つ。


「これより、エドモンドとシルヴェスター・エルン・ヴェールヴァルト公爵の決闘を執り行います。ルールを破った場合はその時点で負けとします。それでは、開始」


合図とともに前に出た瞬間、呼吸ができなくなる。


「私が冷静さを欠いて前に飛び出すとでも思ったか。私はシルヴェスター・エルン・ヴェールヴァルト公爵。武によってこの国の北部をまとめ上げる生粋の戦闘貴族だ。戦いで冷静でいることの重要性など身に染みてわかっている」


先ほどまで顔を真っ赤にしていた人と同一人物とは思えないほど理性を感じさせた。左の手のひらをこちらに向け、まったく隙を見せない。戦闘機族とやらを豪語するだけはあるみたいだな。なんか戦闘貴族って超と書いてスーパーと読む人たちが浮かぶからやだなあ。なんかの拍子に金髪になったりしないよね?


「呼吸困難で気絶する前に教えておいてやろう。俺のスキルは『空転』。空気中の気体の物質構成を自在に操作することができる。今貴様の顔周りの空気はすべて二酸化炭素へとなっている」


これはもっと毒性の強い気体をチョイスしないでくれてありがとうとでもいうべきなのか。まあいい。


右手の親指と中指を重ね合わせて、パチンと指を弾く。すると顔周りの二酸化炭素は一瞬で散る。


「な!?貴様何をした?」


「何やら親切に説明してくれたから、俺のほうも簡単に説明させてもらおう。俺のスキルは『解体』。本来はあらゆるものを物理的にバラバラにする能力だが、これがスキルにも応用できる。早い話、スキルの無効化ができるってわけだ」


いやー。我ながらチートだとは思う。条件付きとはいえスキルを無効化できるのだから。


「さて仕切り直して今度こそ仕掛けさせてもらいますか」


そういって再び突っ込む。しかし動きはあえて変則的にした。おそらく予測、座標指定しないと仕掛けられないと踏んでのことだ。そしてその予想は的中する。


「くそ。もう対応してくるか」


バール君の口調は荒々しいが、口角は吊り上がっている。どうやらこの模擬戦を楽しみだしてるみたいだな。あまり嬉しくないけど。しかも同じ手が効かないと割り切った途端、手に持つ武器を構え始めた。


基本的にはバール君の周りを囲うように動きながら攻撃を仕掛けていく。こちらの攻撃についていくので必死なのか、守勢に回っている。だが……。


「思ったより攻めきれないな…」


思わず呟いてしまった。がバール君はそれに反応する余裕もないみたいだ。このまま体力勝負に持ち込んでもいいが、それだと無駄に時間がかかってしまう。ということである作戦を決行する。


「うおっ!いったいなんだ!?」


バール君が大きく隙を作ってしまった原因は彼の足元にあった。彼の右足の置かれた地面を『解体』スキルで崩したのである。右足が沈めば重心は自然と右に傾く。それに合わせて下がった木剣の剣先を左足で踏み、自分の武器を首元に突きつける形で模擬戦は決着するのだった。


「そこまで。勝者はエドモンド」


メルトによる宣言によって模擬戦は終わりとなるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る