第15話 束の間の訪問
「ひとまずこれで大丈夫そうだな」
目を閉じながらスキル暴走の力が減少していく様子を見て、スキル制御は何とかなりそうだということを悟る。ここからは自分が見られているという意識が生じるだけで集中が乱れる可能性があるので、俺とメルトはあえて見ないようにする。
「ありがとうエドモンド。君のおかげで『娘との一日旅行』という夢が叶いそうだよ」
「別に礼を言われることじゃないさ。俺は極上の寝床を得られるならそれで十分だ。それにまだ完遂したわけじゃないしな」
事実目の前ではまだ制御しようとしている最中だからな。…それに過去の自分を見せられているみたいで嫌だったし。
「それでもだ。一度は諦めた夢が叶いそうになればお礼の一つも言いたくなる」
「わかったわかった。だからもう礼を言うのはやめろ。それよりも聞きたいことがある。今までどんな奴にスキル暴走の制御についての依頼を出していたんだ?」
「基本的には医者だ。それも貴族としての最大限の伝手であらゆる方面から集めた」
なるほど。そりゃ制御できないわけだ。スキル暴走は自分という存在を認められるようになるのが最低条件。にもかかわらず医者が治しに来るというのは自身が周りより劣っているという意識を助長する。
「あとは我が国アルバニア王国の北部地方を治める貴族たちをまとめあげるヴェールヴァルト家の現当主であるシルヴェスター・エルン・ヴェールヴァルト公爵がわざわざ直接ここに治療という名目で訪れてきていたくらいか」
なんて話をしているとどうやら完全に制御できたらしく、ミナは深く深呼吸した後こちらのほうを見る。
「完全に制御できている。これで早々暴走することはないだろう。だがスキル自体は定期的に使えよ」
俺の一言で安心した親子は抱きしめあいながら泣き出す。いろいろ苦労もあったんだろうし仕方ないか。ただ金属扉の前に誰かの気配が感じられるな。一応空気を読んでいるのか。いやただ単に開けられないだけか。感動しあっている親子のハグに水を差すのも悪いし代わりで出てやろう。そう考え扉を開ける。外からはメルトしか開けられないが、逆は俺でも開けられるみたいでよかった。
「メルト伯爵、やっと気づい……ん?誰だ貴様」
扉が開いた先には腰に金色の鞘に収まったレイピアを差した、いかにもロイヤリティー高そうな金髪美青年がきょとん顔で立っていた。俺はてっきりこの屋敷の執事とかが出てくるものだと思い、つい焦ってしまう。
「え、エリー・マフィンです」
やべ、ここ数話まじめな話が続いちゃったせいでつい反射的にボケちゃった。しかも無駄にコンプラ気にしたせいで伝わらんボケだし。
「どこの馬の骨とも知れないエ〇ィー・マー〇ィーとやらがなぜここにいる」
「こっちがいろいろ気にして言えなかったのにいろいろすっ飛ばして言うんじゃねーよ!」
いくら初対面でもこれはツッコんでいいよな。なんて自分の中で言い訳していると、メルトとミナの二人がこちらに気づいたらしい。こちらに近づいてくると二人は目の前の美青年に対してお辞儀をする。
「これはこれはヴェールヴァルト公爵。お出迎えできず申し訳ありません」
「う、うむ。今はそのことはいい。それよりミナ。スキル暴走のほうは?」
「ここにいらっしゃるエドモンド様のおかげで制御できるようになりました」
すると目の前のヴェール…なんだっけ?まあいいや。バール君で。語感いいし。そのバール君が突然泣き出した。
「よかったなあ、制御できるようになって。これで俺と出かけられるぞ」
泣きながらの笑顔で嬉しいのは伝わってくるが、ミナの顔が見事に引き攣っている。というかミナさん?なぜ俺の影に隠れるのかね?そこは父の背中を頼りなさいよ。ほら、君のお父さん泣きそうだよ。
あとバール君。君も顔真っ赤にしてプルプルしないの。腰に刺してあるレイピアの持ち手に手がかかりかけてるよ。ここからのテンプレ展開はおっさんも遠慮したいからさ。
「おいエ〇ィー・マー〇ィーとやら!貴様に決闘を申し込む!」
ほら来たテンプレ展開。こういうのは無自覚ハーレム野郎が吹っ掛けられて初めて成立するのに。
「あの、エドモンド様?エ〇ィー・マー〇ィーというのはなんのことでしょうか?」
ミナさん?その質問は後にしてください。できれば忘れてください。心が痛いので。
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