第14話 束の間の克服

俺のちょっとした昔話を聞いた二人は沈痛そうな面持ちをしていた。


「別に同情を買いたくて話したわけじゃない。ただこの話の中にスキル暴走を止めるカギがあるから話したんだ」


そういっても気持ちが切り替えられないのか、二人の雰囲気は沈んだままだ。これだから話したくなかったんだよな。


「とにかく今からミナがスキル暴走を止める方法を教える。とはいってもこれからやるのはいわゆる心理療法だ。制御するのも暴走を悪化させるのもすべては君次第だ。ただ一つ。自分を信じ、自分の持つものを信じろ」


スキル暴走の原因は矛先が定まっていないことにある。仮にスキルを包丁に例えるならば、包丁を無差別に振り回している状態がスキル暴走だといえる。ここで方向性を示すことができれば、包丁で食材だけを切れる、つまりスキルを使いこなせるようになるというわけだ。


「道具には役割がある。しかし君の道具はまだ役割を知らない。なら示してやればいい。君の道具スキル、『活性』は何を為せばいい。君は『活性』スキルで何をする?」


改めてミナの顔をまっすぐと見て問いかける。その横ではメルトが娘を不安そうに見つめる。一方でミナの顔はどこか不安に押しつぶされそうな顔をしている。というよりは考え込みすぎているような感じがするな。


「別に難しく考えなくていい。『活性』スキルが細胞の動きを活発にする能力なら、一本の苗木を大きな木に育てるとかでもいいんだ。スキルが求めるのは大儀じゃなく矛先。スキルを使う相手が明確ならば理由なんてどうだっていい。自分の価値は、自分が持つ者の価値は自分で決めろ。周りの評価を聞くのはそれからだ」


その一言で多少は気が楽になったのか、ミナの全身の力が抜けたように見えた。


「私は…。この力は私と周りとの関係を引きはがす呪いでしたかなった。でもこの力が私を助けてくれるなら。私は人とも動物とも植物とも触れ合える場所を作りたい。誰からも拒絶されない憩いの場所を!」


スキル暴走からおよそ七年。父以外とはほとんど会うこともできなかったミナ。別に命に手をかけるようなスキル暴走じゃない。ただ人足を遠のかせる。そのせいで彼女の母であり、メルトの妻女は家を出た。「あなたを生んだことは私の人生における汚点だ」とまで言われた。


それからは自分の価値がわからなくなった。もし父にも見捨てられていれば今頃この世にはいなかっただろう。日々虚無に沈んでいく自分のために、あらゆる手を尽くして暴走を止めようとしてくれた。


いろんな人が来てくれたが見ているのは自分じゃなく自分のスキルばかり。そういう系統のスキルはどういったことをすれば治まるようになるといったことばかり。まるで病人扱いだ。『暴走したスキル=病気』という外からの知識が自分の力を巨悪へと膨れ上がらせた。


そんななか今日来てくれた人、エドモンドさんが、私の外付けの価値観を変えてくれた。自分と自分の力に方向を示してくれた。


「エドモンドさんが私に進む先を教えてくれたように、今度は私が『活性』スキルあなたの進む先を教えてあげる。だからお願い。私とともに歩んでください」

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