「化け猫ほうむる」について

 作品ページ: https://kakuyomu.jp/works/16816927860682417668


 レッツ、ほうむる!


 みなさんこんにちは。レッツの後は動詞の原型、ほたてい です。


 化け猫シリーズ第5作「化け猫ほうむる」を無事書き終えることができました。やったね。

「まつり」「おちる」「をまつ」はそれぞれプライベートコンテストへの出品作でしたが、こちらは第1作「ユエ」以来の、素の投稿となりました。

 

 昨年夏に「をまつ」を投稿してからまとまったものを書けない時期が続いており、羨望と嫉妬で周囲を眺めておりましたが、何でまた急にやる気になったのかよくわかりません。帆多のやる気スイッチ、どこにあったの?

 いやはやいやはやTherefore Therefore.


「論じるつもりはないものの」にエントリが増えるのもいつぶりでしょうか。やってみようやっていこう。



ネタバレとメタ視点に対して何一つ配慮していませんので、本編未読の方はご注意ください。




【発想】


 化け猫シリーズの続きを書こう、とともかく思い立ちまして、しばらくはエバーノート相手に思い付いたことを書いていきました。

 時折作中で言及していた「磁白シーイー」の一地方を舞台にした話と、「西」を舞台にした話の二つが候補にありまして、当初は磁白国が第5作、西を舞台にした話を第6作とするつもりでおりました。しかし、ある日とつぜん「こっちを第5作とした方がいいかも」と思いつきました。

 なんで?

 の所をノートに書いてないので、永遠に謎です。



 ノートにあった記載で「ほうむる」の核になった部分はこちら。


〝話のテーマとして、以前に遠藤さんの書評企画で出てきた「生まれ変わり、死に変わる」を置く(※1)。

 「このわたしは生きている。そのわたしはもういない」というのをユエが実感し、リールーが再確認する。

 ユエの「気分だけが感じられる」現象は、ユエがなくしたものの残り香のようなもので、「なくしてしまった=死んでしまった」わたし自身と言える。そういうことにする〟



【舞台について】

 さて、西を舞台にするお話だ。産まれ故郷だ。

 はるばる帰ってきたユエを戦争で荒廃した街が出迎えるのだった。


 却下。


 いえ、ほんとうに「戻ってきたら全員死んでました」みたいな展開も考えていました。これはこれで「運命哀しい」みたいな話にはなったのかもしれませんが、全員死亡エンドは「せんべい缶(※2)」で十分です。 


 産まれた街はユエと全然関係なくガンガン発展してましたって話の方がいいなと思いました。

 読んだ方にはわかっていただけると思うのですが、ユエ(になる前のアマリラ)が魔女の魂に手を出して得られたものは、何一つありません。


 同時期に考えたのが「なぜアマリラは魔女の魂に手を出したのか」で、これが今後の展開を決定づけます。


 まず真っ先に「弟の病気を治すため」というのが浮かびました。はい、ここで弟が産まれます。


 一度は「ベタだな」と却下しようとしましたが、拾いました。

 魔女の魂に手を出したのは愚行として書いてきましたので、ベタな理由のほうがいいです。(現実における弟の病気を『ベタ』と言うつもりはありません。あくまで物語に使用する展開としてベタ、という意味です)


 ただ、病気だとせっかく生えて来た弟があんまり動いてくれなさそうだ。そうすると、身体的な障害とか、そういうの……ゲーム・オブ・スローンズのブラン・スターク? いや、アウトランダーにも脚に障害のある領主様が出てたな、と調べます。


 ”アウトランダー 海外ドラマ 領主 脚” → ロートレック症候群。


 ロートレック → 19世紀後半から20世紀初頭のフランスの画家、アンリ・ド・トゥールーズ・ロートレック。


 アマゾンさん、なにかロートレックについてよろしく!

 →書籍「もっと知りたい ロートレック」

 →Prime Video「赤い風車」


 ここからウェランの方向性や、大都市「シュダパヒ」の雰囲気、そして登場するガジェット類が組みあがっていきます。

 シュダパヒのモデルはパリです。名前はParisの発音と、「パリシテ」から。別作品(※3)に出てくるシュダマヒカと似た発想で命名しました。

 

 シュダパヒ大社殿はノートルダム大聖堂ですし、遊劇場キャブレグリューはムーラン・ルージュを意識しました。遊劇場キャブレは造語です。キャバレーという単語をそのまま使うと思ったイメージに誘導できないと感じたので、それっぽいイメージの漢字に「キャバレー」っぽい音のルビを振って押し通しました。

飲み干せグリュー! 飲み干せグリュー! 飲み干せグリュー!」にも元ネタがありますが、長くなるので割愛。



【人物について】



ウェラン

 魔法使いの家に生まれた、脚に発育障害をもつ画家。ロートレックを意識して造形します。ただ、作中で54歳ですので、性格はかなりマイルドになりました。一度は結婚もしてますし、娘もいます。

 髭や瞳の色はユエに寄せました。西は稲がマイナーなので麦藁です。

 脚の成長については、作中の技術ではどうにもできませんでした。しかし、それとは関係なく、自らの腕で生計を立てています。アマリラは元の名と右目、使い魔の身体を無為に失いました。

 設定のほぼすべてを作中に出せていると思います。出せなかったのは、料理上手で良く客を招いていたこと。あと、セレーランが医者になろうとするのを後押ししていた、という設定があります。

 惜しむらくは、本家のロートレックにまつわるエピソードが魅力的過ぎたことで、これを全部なぞろうとすると映画を一本作る事になってしまいます。映画(赤い風車)はもうある。Amazon Prime Videoで観られます。



リールー

 好きです。リールーが自分の骨を見る場面は、地下室を考えた時からどうにかして入れたかったので満足です。



ユエ

 主役です。これまで「亜熱帯怪奇譚」としてやってきたのですが、今回は温帯です。とりあえず寒がらせてみよう→くしゃみをさせよう、という安直な発想から、始まりと終わりの台詞がきまりました。じぶち!

 西の言葉がうまく出ないため、ウェランやセレーラン相手に話すときは片言っぽくなります。

 ちょいちょい唄ったり、リールーに向かって「すき」「だいすき」ってさらっと言うようになりました。

 肉体の見た目が15歳のままなのですが、東にいたころは17歳ぐらいだとみられてました。西側では、15歳ぐらいと見られています。実年齢は55歳です。


「ほうむる」を書くにあたって、元の名前を出すかどうかを実は悩んだのですが、葬る相手に名前がないのもおかしいよな、ということで元の名が決まりました。



アマリラ

 「春が由来の名前だ」と第1作の時点で明かしてしまっているので、春が由来でなければなりませんが「春子」や「春美」にするわけにもいきません。ウェランの名前がウェラノに由来していますが、この流れだと春はプリマウェラで、こう、悪くはないんですが、が良くない。どうするよ。

 → 桜子って、春由来だよな。花、使える 

  →「フランス 花 春」で検索。ミモザがヒット。

   →ミモザも悪くはないけど、言いづらい。

という経過をたどり、黄色にたどり着きます。じゃあ、アマレロをもじってアマリラ。よし!  ただ、ストレートに「黄色ちゃん」と呼ばれている設定なのもアレなので、魔女の歌に入れ込んだり、絵の具の色の名前にしたりして、特別感を出します。ラテン語的な、ちょっと凝った名詞なのよ、きっと。グリーンじゃなくて、ビリジアンみたいな。


 なお、魔女に名乗った偽名のアズレアは「青」からの派生です。 



セレーラン

 今回の舞台が「都市」であることはできるだけ強調するようにしてまして、その一端を彼女が担っています。モデルが「進撃の巨人」のハンジなので、朴路美さんの声でしゃべっています。

 ウェランとは20歳差なので、アマリラの事は話でしか知りません。女性で医者になる、というのを実家から反対されたけれど、ウェランが後押ししたという裏設定があります。


 セレーランは姓で、ユベニーが名前なのですが、ユエと文字の形が被るのでセレーラン表記としました。

 ちなみにロートレック(ウェランのモデル)の従弟の姓がタピエ・ド・セレイランでして、そこから名付けています。子宮の魔女が月明かりを喰う場面を書くまで、セレーランはユエにる予定でした。



エーラ

 魔女を呼ぼうとしてひどい目にあった女の子。名前は「彼女エラ」および「過ちエラー」の音から。ごめんね。

 スカートが白くて瞼が厚ぼったくて、髪と目の色が若い頃の月明かりの魔女と同じ。

 死なせるかどうか迷いましたし、ユエに平手打ちさせるかどうかも迷いましたが、都市機能とユエが水際で奮闘した結果の死者ゼロで、この子も生き延びました。



プルイ

 ウェランの娘。タイミングの悪い時に居合わせた。怪異や不思議が大好きで、大樹の小屋も公開前に下見に来てた。事務職で働いてる、しっかり者。

 公園での場面を書いてる時に名前を決めました。



おばば(月明かりの魔女)

 月明かりは老いて死を待つばかりだった。と過去作で名言してるのでそこは曲げられません。また、全盛期のパワアを与えると、子宮の魔女に勝ちかねないので、デバフにデバフを重ねて幽霊のようなものとなりました。

 大樹の小屋が文化遺産的な扱いではなく、民間の信仰拠点のような物になっていたら、ほんとうに復活していた可能性もあります。その辺は、魔法のロジックが市政に利用されている感じですね。後付け。

 シュダパヒは土地神パヒスースの勢力圏なのでそうやすやすと神にはなれない、というデバフ要素も実はありました。

 自らが分け与えた魂と、それを取り込んだ娘の魂が統合して新たな魔女となるので、中に複数の魂を抱えた「ユエ / 子宮の魔女」を一つのかたまりとして「あやし子」と呼んでいます。




子宮の魔女

 今回はちょっと出番が長めでした。あのあたりの流れは書きながら決めました。記念公園にあんな塔を立てたら、ぜったい月明かりの魔女くるでしょ、と。

 結果、月明かりは喰われる流れとなり、なんかうまいこと葬った感じになり、さらに「ユエがなくすのは、月明かりの魔女」と思いつきました。

 上手いこと転がって、ユエの記憶でアマリラとオーバーラップしていた部分が消えます。たぶん地下室への入り方もなくしてる。


 子宮の魔女はけっこう気に入ってるんですが、この子も孤独な子ですよね、っていつも思う。




チェム・カタ女史

 魔法協会の代表として名前だけ出てましたが、たぶん正しい読みはチェム・カタではないです。だれなんでしょうね。というメタ的な遊びの人物です。使い魔はたぶん、黒くてでかい王族猫。



環力魔法フィジコの使い手

 有能なモブキャラ。どこの誰なんでしょうね。たぶん魔法協会の代表とは縁が深いです。エーラにいろいろ教えたおじさんでもあるようです。



ジャヌ・デアブリュー

 遊劇場キャブレグリューのダンサー。実在したムーラン・ルージュのダンサー、ジャヌ・アヴリルから命名。本家の踊る様が「狂乱した蘭のよう」と言われていたらしいので、そこから「狂乱胡蝶蘭」とあだ名をつけました。



複製の老婆と猿

 人物、と言うわけではありませんが。ロートレックのポスターが石版画リトグラフで刷られていたから、という所から出て来た大量の老婆です。

 当初のアイデアでは「複製の魔女」としてました。しかし、作中で描かれた姿は知性のかけらもない人型でしたし、それを「魔女」と言いたくありませんでした。

 切られたり焼かれたり喰われたりしていて、現実の高齢女性の皆様には本当に申し訳ないなと思いながら書きました。


 猿は頭がないんですが、もう記載は猿でいいやと。「婆猿ばばざる」という名前も考えてあったのですが、「婆猿」「婆猿」と連続するといちいち読みづらいので、もう「猿」とか「猿型」でいいやと。えいやと。

 どう考えても子宮の魔女に合わせた好みで作られているのは、作ったのが月明かりの魔女だからですね。

 ウェランの書いた油絵が「エーラをモデルにして下地を作り、老婆を重ねた」という描き方でしたので、猿はエーラを核とします。



【小道具について】

 

雷精管

 カメラのフラッシュに連動する部品。雷精は雷(静電気)のモノとして設定されています。この「雷精」をツールに組み込む技術ができて、軽銀アルミニウムが作れるようになったみたいです。閃光玉フラッシュにも軽銀アルミニウム霊銀エーテルが使われていますね。

 インフラとしての電力供給はまだ始まってないみたいです。



写真機

 フィルムカメラ。たしか、ギリギリありで行けるんじゃないかって判断した覚えがあります。根拠を書いとくの忘れた。まあいいです。車もあるみたいだし。(ガソリン動力とは言ってない)



魔力壜ガラッファ

 配達方式ですが、魔力を家庭や工場で活用する方法があるようです。魔力がちょっと扱える、程度の素養でも、充填役としての雇用が生まれるようになった、という想定です。



雷弧灯アークライト

 雷精は魔法で指示ができるので、なにかコンソールボードのとこから魔法使いが指示出してたら面白そう、という発想で作りました。



永久とこしえかがみ

 「化け猫ユエ」のラストでも使った鏡です。あの頃はこんな大層な鏡だとは思いもしませんでした。

 「ほうむる」の設定を作り出す前に「日本の先史時代」という本をたまたま読みまして、そこに銅鏡が出てたんですね。金属鏡って、そもそもどれぐらい映せたんだろうとyoutube調べたら、しっかり鏡として機能していて。

「じゃぁ、めちゃめちゃ硬い金属で鏡をつくった半永久的につかえるんじゃね?」と設定したのが、この鏡です。加工が鬼なのでめちゃめちゃ高価。

 アマリラの遺品として両親のお墓においておく、またはエスタシオの血を引く娘ということでプルイに渡す、と考えましたが、ウェランがユエに再び贈ったのは作中に書いたとおりです。

 小道具で一番活躍してくれました。

 



【雑記】


・当初のタイトル案は「化け猫はさる」(去る)でした。故郷や過去は戻らないことを示して訣別するイメージだったんですが「生まれ変わり死に変わる」のフレーズに行き着いて「ほうむる」に変わりました。

 訣別についても、最終話での鏡の扱いに伴って「新しい関係性の構築」に変化しました。



・「ウェラン」を公開したあとで、エピソードに人名を使うときは、エスタシオ家と血縁関係がある人にしよう。と思い付きました。「ジュールとニュイ」というのもやりたかったんですが、うまくいかず「エスタシオ」となりました。



・魔法「遅々ラルゴ」は使い道が沢山ありそうでお気に入りです。理屈の上では、鏡で録画できるはず。



・ぶるぶるして水気をきる魔法、気に入ってます。せーの!



・使い魔召還ガチャ SR王族猫ケトリール



・ラストシーンで髪を燃やそうと思い立ち、ユエの髪が伸びます。



・「飲み干せグリュー! 飲み干せグリュー! 飲み干せグリュー!」の元ネタは、ムーラン・ルージュの売れっ子ダンサー、ラ・グーリュから取りました。彼女は馴染みの客を見つけては酒をもらい、飲んでは踊り、踊っては飲んでいたそうです。

 第2話でユエが見ていたポスターは、ロートレックが実際に描いたポスターをベースにして描写しています。

 あのポスターもウェランの仕事でしたが、特に言及することができませんでした。



・最終話のフレーズ「春は、黄色だ」を「春は、黄色だアマリラ」にしようとしましたが、突然の枕草子で何もかも台無しになる予感がしてやめました。こんなところに小ネタを入れるな。



・滋白国のネタ用に調べたり考えたりした事もそれなりの数があるので、こちらは今後お届けできるように頑張ります。乳扇とか。青パパイヤとか。壺酒もやりたい。


以上です。

あー、すっきりしました。

またなにか追記したいことがあったら足していきますわね。



お付き合いいただきありがとうございました!


※1 2020年にいただいた、こちらの書評。https://kakuyomu.jp/works/1177354054886092666/episodes/1177354054898077994

※2 「せんべい缶にジップロックで」https://kakuyomu.jp/works/1177354055363974205 帆多の作品。世界は滅びるし全員死ぬ。

※3 「ヨゾラとひとつの空ゆけば」 https://kakuyomu.jp/works/1177354054885031700 魔法の設定などが化け猫シリーズと共通している。



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