282 お風呂
※※この話で完結です。ありがとうございました!※※
祭壇を壊した俺たちは、その部屋をあとにした。
地上への階段を上がりながら、俺は尋ねた。
「イジェ、スキルをくれる神の名前を知っているのか?」
「ワカラナイ。とうちゃんたちは、カミとヨンデタ」
「そっか。単に神か」
つまりイジェの一族にとって、神といえば、スキルを授ける神のことなのだ。
それだけ、一族にとって大事な神ということだ。
「うーむ」
悪魔たちは祭壇を使ってスキルを得ようとしていた。
だが、俺たちのスキルの神は悪魔を生物と認めていない。
もしかしたら、俺たちのスキルの神とイジェたちの「カミ」は別の神なのかもしれない。
「まあ、考えてもわからないか」
わかるのはイジェたちの「カミ」はイジェたちが大好きだということだ。
恐らく「カミ」はイジェたちが一番必要なスキルを選んで授けている。
だからこそ、イジェたちの村はスキル頼りで生きていけたのだ。
あのときイジェは祭壇を壊すか悩んで決めることができなかった。
だから「カミ」はイジェに祭壇を作ることのできるスキルを授けたのかもしれない。
もしかしたら「カミ」はイジェと同族の存在を知っているのかもしれない。
もし、同族がいれば、イジェは最後の一人ではない。
将来、イジェの子供が生まれる可能性だってある。
イジェが一族を再興するのならば祭壇は必要になるだろう。
「そういうことなのか?」
「なにが?」
「いや、何でもない」
最後の一人ではないかも知れないなどと、根拠の無いことは言わない方がいい。
それは俺の勘にすぎない。そして俺の勘は良く外れるのだ。
「……イジェたちの神さまはイジェたちのことが好きなんだろうな、と思って」
「それは、たぶんそうだろうね!」
「お、神に愛されし勇者たるジゼラもそうおもうか?」
「うん。まあ、ぼくを勇者にした神とイジェの神さまは違う神だとは思うけど」
ジゼラがそう思ったことに、根拠はきっとない。ただの勘だ。
だが、ジゼラがそう思ったのなら、それは多分正解だ。
階段を上がり、ほこらから出ると太陽が大分昇っていた。
日の光が暖かい。だが、けして暑くはなかった。
「飛竜、お待たせ」
「がう~」
「うん。無事解決したよ、詳しくはあとで話すよ」
「がお」
それからジゼラとイジェは飛竜に乗って、俺とピイは大きくなったヒッポリアスの背に乗って拠点へと戻った。
拠点に戻るとボアボアの家の近くにフィオやケリー、シロと子魔狼たち、ヴィクトル、アーリャもいた。
「どうでしたか? ジゼラさんが急にイジェさんを連れて行って、騒ぎになったんですよ」
「戦闘ではないよね?」
「戦闘ではないよ、実は……」
俺はほこらの中で起こったことを皆に説明した。
「ほれほれ~」
「ぶぶい」「べむ~~」
その間、ジゼラはボアボア、ボエボエ、ベムベムたち陸ザメと遊んでいた。
「めえ~~」「ちゅう」「ほっほう」
「ミンナ、ジュンバンね」
そして、イジェはヤギやカヤネズミ、そしてフクロウたちに囲まれている。
「そんなことが」
「スキルの神の祭壇か……ふむう」
「魔族の国にもなかった」
ヴィクトル、ケリーとアーリャが俺の説明を真剣に聞いている間、
「めええ~めええ~」
子ヤギのミミは、俺の足に頭突きし続けていた。
どうやら、ミミは到着と同時にヒッポリアスが小さくなったのが気に入らないらしい。
「ミミはでかいヒッポリアスが好きなのか?」
「めえ~~」
背中に登るのがたまらなく面白いらしい。
だが、今のヒッポリアスは俺に抱っこされて、ご満悦だ。
「あとで、ヒッポリアスの気が向いたらな」
「ておさん! たべながら、はなそ! あさごはんたべよ!」
「おお、フィオ、ありがとう。ご飯を持ってきてくれたのか」
「もてきた!」
どうやら、こっちで話し合いをするというところまで、フィオは読んでいたらしい。
「フィオたちは食べたのか?」
「たべた!」
「わふわふ!」
『あそぼ』「ぁぅ」『たべた!』
どうやら、フィオ、シロ、子魔狼たちは朝ご飯を食べたようだ。
クロはとにかく遊びたいらしい。
俺の足に頭突きするミミにじゃれつきに行って、頭突きされて楽しそうに「わふわふ」はしゃいでいる。
そんな騒がしい中、俺はイジェが出発前に作り、フィオが持ってきてくれていた朝ご飯を食べる。
イジェが作ったご飯は冷めても美味しかった。
「ちなみに被害はどうだった?」
「拠点の被害は廊下の窓硝子だけですね」
「それなら、すぐ直せるな」
ボアボアの家とヤギたちの家の被害は無いことは確認している。
「イジェさん、魔道具の製作はどのくらい掛かるのですか?」
「ンー。ブヒンがアレバスグ。ナクテモ、ツクレルけどジカンがカカル」
メエメエに顔をベロベロ舐められながらイジェが答える。
「その部品を俺が作れるようなら、いつでも作るよ」
「アリガト。テオさんナラツクレルよ。ブヒンはマホウとカンケイないから」
「それなら任せてくれ」
「魔道具スキル持ちが増えたら、安泰ですねえ」
「ああ、そうだな。冬は越せそうだ」
俺は朝ご飯を食べ終わる。
「イジェ。美味しかった。ありがとう」
「ヨカッタ」
そして、俺は魔法の鞄から悪魔の死骸を取り出した。
「ケリー、見たいかと思って。ジゼラが倒した悪魔の死骸だ」
「ほう? ほう?」
早速ケリーが食いついた。
「これは金属じゃないか。魔法生物みたいなものか?」
「多分な。生物ではないが。ちなみにそれはオリハルコンだ」
「ほ~う」
「ア、コレ、マドウグのブヒンにナリソウ」
イジェまで悪魔の死骸を見て目を輝かせていた。
ヴィクトルはそんな二人を見て、微笑んで言った。
「テオさん。お疲れでしょう」
「そうだな」
「どうです? これからひとっ風呂あびませんか?」
「朝から風呂か」
「お嫌いですか?」
「大好きだ」
俺とヴィクトルはボアボアの家とヤギたちの家の間にある浴場に向かった。
ボアボアの家で服を脱ぎ、湯船の中に入る。
少し熱めのお湯が気持ちがいい。
「久々に体を動かしましたから、疲れましたねー」
「俺も疲れた。久々の徹夜だったしな」
湯船に浸かりながらそんなことをおっさん二人で話していると、「きゅおきゅお」いいながらヒッポリアスが泳いでいく。
「おお、テオさん、実は私も徹夜です」
「二十歳の頃に比べて、徹夜あとがしんどくなったなぁ」
「私は五十を超えて急にきつくなりました」
「ドワーフはやっぱり衰えるのが遅いんだなぁ」
泳ぐヒッポリアスをミミが「めえ~」と鳴きながら追いかけている。
「ヤギも風呂が好きなんだなあ」
「普通のヤギは知りませんが、魔ヤギですからね」
「わふ~」
『あそぼ』「ぁぅ」『だっこ』
シロは大人しく子供たちを見守っている。
そして子魔狼たちは犬かきして、俺にじゃれついてくる。
ピイは俺の近くでぷかぷか浮いている。
「ぶぶい!」「べむ~」
ボエボエとベムベムは少し離れたところを、元気に泳ぐ。
ヒレがある分、ベムベムの方がボエボエより泳ぐのが上手なようだ。
「気持ちよすぎて、このまま寝てしまいそうですなぁ」
「たしかに。それにしてもどういう風の吹き回しだ?」
「風呂に誘ったことですか? ねぎらいの意味もありますが、単に私が入りたかったんですよ。それに」
「それに?」
「私もテオさんも今日は休暇でいいでしょう」
「たしかに」
ヴィクトルはふうーっと大きく息を吐いて伸びをした。
「昨日、テオさんのおかげで暖炉の準備はできました」
「そうだな、これで凍えなくて済む」
「そして、冬服の直しも終わりました」
「おお、終わったのか? 昨日はまだ途中に見えたが」
「みな、宿舎の中で交替で寝ずの番をしてましたから」
「なるほど」
起きている間、手持ち無沙汰で裁縫仕事がはかどったのだろう。
「赤い石のおかげで、薪を大急ぎで集める必要もなくなりました。あとは食料でしょうか」
「食料も、まあ、余裕はなくとも、ギリギリ足りる量はあるな」
「はい、燕麦が大きいです。それでね、テオさん」
「ん?」
「冬の備えが一段落しました。ありがとうございます」
「なるほど。それでお風呂で慰労会か」
「そんなところです」
しばらくお風呂に入っていると、フィオが入ってきた。
二つのコップを持ってきている。
「テオさん。ヴィクトル。のんで!」
「おお、これは?」
「ぼあぼあのみるく! おいしかた!」
「おお、例の」
先日、ボアボアに乳を分けて欲しいとお願いしていたのだ。
俺は一口飲んでみる。
「おお。何というか、独特の風味があるな。コクがある」
「そうですね。美味しいです。私は牛より好きですね」
好みの分れる味だが、美味しかった。
『のむ!』「ぁぅ」『のみたい』
「のみたいの? こちきて」
「わふー」
フィオにそう言われて、子魔狼たちとヒッポリアスが風呂を出てついて行く。
余程飲みたかったらしい。
フィオと子魔狼たち、ヒッポリアスと入れ替わる形で、イジェとケリーがきた。
「テオ、ヴィクトル、酒だ。呑むといい」
そういって、ケリーはお盆に乗せた酒を差し出してくれる。
「ですが、いざというときに酒を呑んでいては……」
「その時はジゼラとアーリャがいるだろう。それにヴィクトルはそう簡単には酔わないだろう」
「それは、そうですね。テオさん、折角ですしいただきますか」
ヴィクトルが嬉しそうに言う。
ヴィクトルは誰よりもお酒が好きなのだ。
「ハイ、テオさん、ヴィクトル。おツマミ」
「あ、これは鮭の卵か」
「ソウ。シャケのタマゴのセウユヅケ」
「ほほう」
俺は一口食べてみた。
「あ、うまい」
「どれどれ……美味しいですね! 酒に合います!」
「クチにアッタナラ、ヨカッタ」
そういってイジェは微笑んだ。
俺とヴィクトルは鮭の卵のセウユ漬けをつまみに酒を呑む。
イジェが去る際、ヤギの家に繋がる扉を開けたままにしてくれた。
涼しい風が入ってくる。
体は温かく、顔は涼しい。その差がたまら無く心地が良かった。
「……冬も気持ちよさそうですね」
「たしかに」
「すこしだけ、冬が楽しみになりました」
ヴィクトルはそういってお酒を飲んで、ぷはーっと息を吐いた。
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