281 イジェのスキル
「キョウリョクだ、ユエにアクマにネラワレタ。アクマたちもスキルがホシイノダ」
悪魔と俺たちの神は違う。
それなのに悪魔はこの祭壇でスキルを得ることができるのだろうか。
「アクマにスキルをサズケナイタメニ、イチゾクイガイニ、スキルをアタエナイヨウ、イロイロナボウギョサクはトッテアルガ……ゼッタイデハない」
そして、元王を名乗る絵は言った。
「サイゴに。オサナキモノよ。そなたがイチゾクサイゴのヒトリならば、アクマにワタスワケニハイカヌ。スキルをエタアト、コノマドウグはムヨウのモノダ。カノウナラバ、サイダンをコワシテホシイ。タノンダゾ」
そして、最後にスキルのもらい方の説明をしてから、動く絵は消えた。
「壊して欲しい、か。入り口を塞いでもらおうと思って、テオさんにはついてきてもらったんだけど」
「まあ、入り口を防いでも、絶対では無いからな」
「テオさん、ジゼラ」
「どうした?」「なに?」
「アクマはコノマドウグをネラッテイルノカナ?」
「恐らくそうだ」
「ミンナが、アクマにコロサレタのも、このマドウグがメアテだったノカナ?」
「……それはわからない」
だが、可能性はあると思う。
過去には国まで滅ぼしたぐらいだ。悪魔にとって、この祭壇は非常に重要なのだろう。
悪魔同士の勢力争いのために祭壇を必要としているのかも知れない。
悪魔の国があり、どこかに攻め込むために必要なのかも知れない。
もしかしたら、悪魔の間で、伝説の財宝のように、祭壇が伝わっているのかも知れない。
どちらにしろ、悪魔はろくなものでは無いのだ。
悪魔が皆、スキルを得れば、大変なことになる。
「イジェ、どうしたい?」
ジゼラが笑顔で尋ねる。
「ドウしたらイインダロウ?」
「これはイジェの物だよ。だからイジェが決めるしかない。ね、テオさんもそうおもうでしょう?」
「……そうだな」
この魔道具は一族の物だ。
そして、一族はイジェしか居ないのだ。
「ドウしよう」
イジェは困っている。
それも当然だ。今まで存在を知らされてすらいなかったのだ。
「イジェ。ゆっくり考えてもいいよ」
「デモ、テオさん、アクマがクルカモ」
「その可能性もある。だが来ない可能性もある」
「ウーン」
「もし、時間が欲しいなら、俺が入り口に頑丈な壁を作って塞ごう。そうすれば多少はましになろうだろう」
「デモ……ウーン」
いくら石や金属で封をしても、悪魔が本気になれば壊せるだろう。
そして、この場所を知っている悪魔がどれだけいるかはわからないのだ。
最悪の場合、悪魔の国があって、昨晩倒した悪魔はただの尖兵である可能性だってある。
「とりあえずさ、スキルもらったらいいよ」
「そうだな。それがいいだろう」
「オトナじゃないけど、イイノ?」
「いいんじゃないか? 俺がスキルを得たのはイジェとあまり変わらない年だったし。フィオはもうスキルを持っているし」
「ソッカ」
きっとスキルを貰うときに、名も無き王という初代村長の絵から色々教わるのだろう。
それを理解できて、かつ村の他の子供に対して秘密にできる年齢という意味もあるに違いない。
「名も無き王もスキルを得たあとに壊してくれって言ってたし、スキルを得るのは構わないんじゃ無いか?」
「ソッカ。ジャア、スキルモラウ」
俺とジゼラ、ヒッポリアスとピイが見守る中、イジェはスキルをもらうために動き出す。
名も無き王の動く絵が言うには、祭壇の決められた場所を決められた順番で触れて、神に感謝の言葉を述べるらしい。
「…………」
イジェは黙々と決められた場所を触っていく。
「カミよ。ヨワキワタシに、イキルためのチカラを」
そういって、儀式が終わる。
「イジェ、スキルは貰えたのか?」
「モラエタとオモウ。……ウン、モラエタ」
「そっか、よかったな」
ちなみにどんなスキルをもらえたのか、尋ねようとしたのだが、
「テオさん。ジゼラ、コノサイダンをコワシテ」
イジェははっきりと言った。
その表情は、迷いを完全にふっきったすがすがしいものだった。
「ゆっくり考えなくて、いいのか?」
「ウン。ダイジョウブ、アリガトウ」
「わかった、壊そう」
俺がそういうとジゼラが剣を抜く。
「ちょっと待て。まずは俺が壊す」
「いいけど」
俺は鑑定スキルを発動した。そして魔道具の情報を頭に入れる。
頭に入れるといっても、わかるのは素材や形だけ。
魔道具を魔道具たらしめる魔法の力がどのように作用しているかは、俺には理解できないのだ。
「魔道具は俺には作れないが、素材がわかれば……」
製作スキルで魔道具の中心部にある金属素材を使ってインゴットを作る。
そうすれば、魔道具の中心部が空洞になり、作動しなくなる。
「壊せはしたが……まだ直せるかもしれない」
「じゃあ、あとはまかせて」
ジゼラが剣で祭壇を切り刻んだ。
石と金属で作られているが、ジゼラにとっては問題にならなかった。
あっというまに瓦礫の山になる。
「テオさん、ジゼラ、アリガト」
「気にするな、だけど良かったのか?」
「ウン、ダイジョウブ。ヒツヨウにナッタラツクレバいいだけ」
「……ん? まさか」
「ソウ。イジェがモラッタのは、マドウグをツクったりナオシタリするスキル」
「お、おお、それは凄い」
旧大陸でもあまり聞いたことのないスキルだ。
「イジェ、ミンナのヤクにタテルかな?」
「そりゃあもう、今以上に大活躍だよ」
「ヨカッタ」
嬉しそうにイジェは微笑んだ。
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