第2話 伊和凪 沙耶のちから

 なぎさのいる世界に転移したからには必ず見つけ出してやる!


 かといっていきなり飛び出すのは愚の骨頂。今の世界に日本の常識が通じるとは限らない。それに転移してきた光を見るから魔法のある世界だろうと考えられる。


「ファイアーボール」

「アイスカッター」


 叫んでも何も起きない。むしろ騒がしさに周りから人が飛んでくるかもしれない。詠唱を試すのは危険を感じるので今いる洞窟を探索することにした。


 部屋を探っていくと、真ん中が四角く抜けている部屋があった。辺りに桶などが置かれている。


 ………クンクンと匂いを嗅ぐ


「キターー。なぎさ先輩の匂いだ。この下に階段が続いているけど…… いや、行くしかない!」 


 穴の底から下に伸びている階段を下りていくと小部屋があった。部屋の床に魔法陣が描かれているが力を失っている。しかし、奥の壁が崩れてキラッっと光る物が見えた。


「黄金のランプ…… ランプって事はこすったら何か出てきたりして」


 指で袖先をつかんで引き寄せ、布面をあてるようにランプをこすった。


 ……ランプの先から真っ白な煙が辺りを包んで視界を奪った。


「ほ、本当にランプの精が出てくるのか…… 願い事を叶えてくれるのか…」


 真っ白な煙が徐々に薄くなり視界が回復してくる。


 辺りは砂漠が広がっていた。奥には美しいオアシス。その先に立派な宮殿が見える。


 そして…… 目の前にはランプから出ている煙の先と同化するように青い色をした上半身だけの人? がいた。


『呼ばれて飛び出た青魔人~』


『何の御用ですかご主人様。あなたは300年振りに私を呼んでくださいました。 お礼に願いを3つ叶えてあげましょう』


「えっ!?願いですか。私の願いはただ一つ! なぎさ先輩の元に行くことです!」


『ん~。それはムリなのね~。私は既にあなたの願いをランプの外から聞いていまーす。それ以上は、また100年後にお呼びください』


「一体、どんな願いが叶ったんですか」


『あなたの願いは…… えっと、この部分ですね』


<……

1つ目は、大好きななぎさ先輩を知るための行動力と探求心。

2つ目は、なぎさ先輩と出会うまで良く行っていたキャンプ能力。

3つ目MMORPGだ。今はなぎさ先輩の情報収集でプレイしていないが、いかに相手の能力を下げて効率よく倒すか見極める力は、どんな強敵が出ても負け知らずだ。

……>


『と、いうことで、『なぐさ先輩を探す能力』『キャンプ能力』『相手の能力を下げる能力』。この3つを大幅にパワーアップさせてもらいました』


「こ、これは願いというより私の強みとして言った事では?」


『こっちの方が心がこもっていたので細かい話は知りませーん。叶えてしまったものは戻せないので最後にバックと回復薬を100本プレゼントしまーす』


 手には小さなポーチが握られていた。中はどうなっているのか分からないがポーションが100本。


『それは、オアシスに自生している貴重な霊芝草で作ったポーションでーす。暇だから作ってましたー。回復に使ってねー。それとポーチはいっぱい入るよー』


 そう言い残して青魔人はランプに吸い込まれるように消えていった。同時に私の周りには真っ白な煙が広がって視界を奪われた。


 ……視界が回復するとランプのあった部屋に戻されていた。夢でなかったことを証明するように手にはポーチが握られている。中にはハイポーション99本と金のポーションが1本入っていた。


 一本だけある金のポーションが気になって取り出すと気になることが書かれていた。


 ──好きな生き物にかけてお使いください


 ……キャップを開けて瓶をのぞき込むと甘いお茶のような匂いが鼻を刺激した。ここに来てから飲み物を飲んでおらず乾いた喉から手でも出てきそうなほど体が水分を欲していた。


「まっ回復薬100本って言ってたから大丈夫でしょ」


 あまりの口渇に情熱的なキスをするように吸い付いて一気に飲み干した。あまーい香りが鼻を突き抜け体が清められたかのように体中に染み渡る。


 ドクン


 体の中にもう一人の人間が重なっているような感覚を覚える。ドッドッドッド…… 心臓の音が高鳴る……

 くっ……苦しい…… 膝をついて胸を強く押さえながら──



 ──意識を失っていたのだろうか…… んっ? 宙に…… 浮いている!? えっえっ!? 空を飛んでいる…… すーいすーいって現実逃避をしている場合ではない。


 !?


 床には私が倒れている!? わ、私は死んだのか!? 今ならきっと戻れる。3秒ルールだ。 体を本体に重ねると、元の体に戻れたようで自由に手足を動かすことができた。すると頭の中に響くような声が聞こえた。


《沙那の心と体が連結されました》


「あなたは誰?」


《わたしはあなたです。さっき飲んだポーションは生き物にかけることで従属化するものだったのです。それをあなたが直接飲んでしまったので、肉体と精神と感応がこの次元に引き寄せられてしまったようです》


《わたしはあなたの感応。ポーションを飲んだことで知識がいくらか収集されたようです。空を飛んでいたのもあなた、今動いているのもあなたです》 


 試しに空を飛ぶイメージをすると、自分から何かが抜け出したような感覚と共に地面が遠ざかっていく。 不思議な事に、立っている自分と飛んでいる自分の意識が連結しているように、同時に思いのまま動かすことが出来た。


《どうやら、沙那自身は青魔人の力でデバフに特化した能力となっているようです。空を飛んでいる意識体にそこに落ちているナイフを持たせてみてください》

 

 沙那*(空を飛ぶ沙那には便宜上佐那アスターとする)はナイフを拾った。試しに斬り払ったり薙ぎ払ったり突いたりして感触を確かめた。


《沙那がデパフで相手の能力を奪い、沙那*が攻撃するスタイルが良いですね》


「戦闘することが前提のアドバイスになっているけど、ここにモンスターみたいなものはいるの?」


《はい、ここは島であり獣や魔獣が居ます。この島に住む人間は全て敵です。幸いこの洞窟は結界に護られているので安全なようです》


 沙那は洞窟の入口まで戻って外の様子をうかがった。辺りに際立った生き物はいないようで、恐る恐る近辺を探索した。


 結界を出て少し歩くと、尻尾が七匹あるオオカミがいた。


《ナナオオオカミです。魔獣の中では弱い部類ですが、一般の人間程度だったら簡単に殺すことが出来ます》


「さらっと怖いこと言わないでよ。私はなぎさ先輩に会うまで死ねないんだから」


《分かりました。沙那のデパフで動きを止めて、沙那*の攻撃で倒してみてはいかがでしょうか》


 (一応、乙女だから戦うとかしたことないんですけど…… MMORPGを実体験する感じで頑張る! だってなぎさ先輩に会いたいんだもん)


「スピードダウン」 


 ナナオオオカミは声に気づき、こちらに向かってくる。……しかし、走るような動作をしているが歩くほどのスピードしか出ていなかった。

 その隙に、沙那*がナイフをもって斬りまくる。傷はつけられるがダメージになるようなものはなく、ペーパーナイフで指を切った程度の傷だった。


「防御力ダウン」


 グワー。沙那*の連続攻撃がナナオオオカミの致命傷となった。魔獣は目の光を失い倒れた。


《沙那。動物を解体して肉にしておきましょう。食事が必要ですからね》


「……本当にやらないとダメかな……でも…うん。なぎさ先輩に逢うためだ!がんばる」


 沙那は目を塞ぎ、沙那*に解体をやらせるが結局はリンクしているので無意味であった……。キャンプスキルの恩恵なのか初解体は問題なくきれいに肉と素材を分けることができた。


 洞窟に戻って食事の準備をする。洞窟で見つけたフライパンと鍋が使える。キャンプ能力のせいなのか燃料があれば着火が可能であった。

 その能力で薪に火をつけて獣肉を調理していく。この世界で初めて作った料理『ステーキ』を美味しくいただいた。


 ここから力を身につけた伊和凪沙耶のストーカーの旅が始まった





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デバフ使いのストーカー(ただのお風呂好きが異世界最強外伝)【本編に合わせ不定期連載】 ひより那 @irohas1116

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