寒波に乾杯

白川津 中々

人待ちの中虚無に漂う。

先までいた百貨店のベンチに座っていた方が幾らか楽であったが、どうにも尻を落ち着けるには賑やかすぎた為駅の待合室に逃げ込んだ。


外は寒く凍える。

手袋をしていない指がかじかみ、ここに来るまでにとても惨めな思いをした。今日は鍋だからといって酒など買うのではなかった。袋をぶら下げている右手が痛い。


早く帰って酒を飲みたい。鍋をつついて暖まりたい。そう願っても待人からの連絡は一向になく、廃れた箱の中で項垂れるばかり。足元に置いた一升瓶が悩ましく、垂涎堪らぬ。


こうも長いと置いてきた鍋が心配だ。杞憂とは分かっていても腐らぬかとか鼠や虫が入りやしないかと胸が騒つく。心配性のきらいは昔からあり、いつまで経っても安堵ができない質であるから生き苦しいといったらない。死ぬまで無用な悩みを抱えねばならないと思うと溜息がよく出る。そういえば部屋を出る時に鍵を掛けてきただろうか。あぁ、駄目だ。不安だ。


チラリと横を見ると売店がある。そこにはもちろん、ビールとかウィスキーとか。

足元の一升瓶を見る。鍋をつつき、煽る姿を浮かべる。我慢した方が賢明だろう。


だが、もしかしたら鍋は腐っており鼠と虫が喰い荒らしているかもしれないし、部屋には鍵がかかっておらず荒らされているかもしれない。もしそうなら酒どころの話でなくなる。身も心も憔悴しきった俺はきっと死んでしまうだろう。そうに違いない。


で、あれば、今ここで酒を飲むのが正義ではなかろうか。いいやそうだ。そうに決まっている。俺はここで酒を飲まねばならんのだ。


立ち上がり、酒を買いに待合室の外に出る。相変わらず寒いが、飲めば何とかなるだろう。苦痛と頭の中で蠢く不快感は酒で誤魔化すに限る。さぁ、飲もう飲もう。


あ、酒を持っていかねば。


一寸忘却していた酒の存在。そこから連想される負のたられば。施錠。元栓。火事。借金。入水……


いかんいかん。早く飲もう。

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