第2話それは、 絶対に 起こらない奇跡

街の喧騒の通り、夏子もありきたりでせわしない毎日が続いている。

何も変わらない

それは自分だけ?

いや、何もかも、変わっていく

この街は、特に目まぐるしく。

自分は、何かを失いかけているようで、

もがいているようで

それも

変化なのだと

本当は気づいている。


仕事の延長線。

とはいえ、今の夏子にとっては、

自分磨きのちょっとしたプラスにもなる。

そう思って引き受けた。

ダメなものは、

面白おかしく書けばいい。

仕事だもの。


興味がわけば、

自分目線で思いっきり世の中に

訴えればいい。


そう考えながらも、今日も退屈なランチにするかとふらふら歩いているとふと、

また変化する街に

新参者を見つけた。


ビル群の間で、こじんまりとして

清潔感のある店に、緑のクレヨンのような字体。


トウフドーナツ?今更?

「あのー。。」

夏子が店の中に声をかけると、

まだあどけなさの残る青年が驚いて出てきた。

「あ!はい!あ、あのいらっしゃい!」

新緑の爽やかな風が吹くような笑顔だった。

純粋ってこういう事なのか。


「ここって豆腐のドーナツ屋さんですか?」

「あ、はい!豆乳じゃなくて、豆腐でドーナツ作ってます。フワッとした食感にしたくて。えと、女性にはこの、お茶のドーナツが人気ですよ!」

「じゃあ、プレーンとお茶、にしようかな」

「ありがとうございます!」


小さなレジ台に目をやると、まるで釣り人が使う浮きのようなカラフルなペン立てが数個並んでいた。

「これ、…石ですか?」

「あ、はい!そうです!これも、これも、祖母の住んでる田舎の特産です!」

夏子が買ったお茶のドーナツとペン立てを指差し、青年は微笑む。

「祖母の田舎の特産で、高瀬のお茶と、庵治石です」

「タカセと、アジ…」

夏子は魚のサバが思い浮かんだ。

「きっと都会の人はあんまり知らないだろうけど、四国にある香川県てところです」

「…あ!」

夏子の頭のサバ、吹っ飛んだ瞬間叫んだ。

「瀬戸内国際芸術祭!」

「お姉さん、よく知ってますね!行きました?」

「あ、いやちょうど、今度取材で行くことになってて、香川県て君が言うから頭の中のサバが吹っ飛んじゃった!」

「サバ??あ、アジって言ったから?なんだそれ!」

顔をくしゃくしゃにして青年は笑う。

「お姉さん、仕事で行くからなんだろうけど、でも香川県て言ったら1番最初に言われるの、やっぱうどん屋さんて言う人多いのに、いきなり瀬戸芸の事言う人いないから、びっくりしましたよ!」

そしてまた、思い出したかのように青年が笑う。


「あ、ドーナツ…」

「え?」

「うどんのドーナツ出したら?」

「うどんの?…あははははは!分かりました、考えときます」


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