第34話 王宮で晩餐会

 王宮の一番大きな棟の最上階にあるバルコニーに面した広間で、晩餐会の準備が整えられ、後は客人を待つのみ。広間の隣の控室では、おバカな奴らがいつも通りな感じでいる。

「おい、そんなに眉毛を整える必要があんのか? いつもと一緒だろうが」すぺるん。

「野蛮人め。私くらいのイケメンになると、眉毛が1ミリ違うだけで大きく印象が変わってしまうのだ」ハリー。

「もしお前がイケメンだったらの話だろ」

「何だと、命の恩人に向かって。やるのか?」拳銃を向けるハリー。

「そういう行為は野蛮じゃねえのか!」

「ひいいいいいいいいい!」

「あはははははははははっ」大笑いのマジョリンヌ。

「すぺるんさん、少しデリカシーに欠けるんじゃないですか。最愛の人とのご対面なのですよ」かおりん。

「ふーん」すぺるん。

 いつも通りの会話である。

 コンコン、と扉をノックする音が聞こえ、アインとカベルが入って来る。

「ドロシーさんをお連れしました」アイン。

「ゴータマ神殿の大神官によって呪いは完全に解かれています。ご安心を」カベル。

「さあ、入って」かおりん。

 少し緊張したドロシーがみんなの顔を見回しながらそろりと部屋へ入って来た。

「あの、私を救ってくださったハリーさんは?」

 みんな、「えっ?」とか「は?」と思わず漏らした。ハリーがめっちゃカッコつけながら振り返る。

「ドロシー、私が爽やかイケメンの魔法使い、ハリーだ」

「初めまして、ドロシーです。私の命を救っていただいてなんとお礼を言えばいいのか――」

 ほぼ全員、一瞬思考が止まった。アホ雉もツッコむことができなかった。

「あれ、いや、初めましてって」アホ雉。

「おいこら、ハリー。どういうこった。何で初めましてなんだ?」すぺるん。

「彼女にとって初めましてでも、私にとっては初めましてではない」ハリー。

 マゲ髪がズッコケた。アホ雉もズッコケた。

「意味わからんわ」すぺるん。

「私はずっと、彼女のことを遠くから見守ってきた。誤解のないように言っておくが、これは決して一方的な愛ではない。彼女は私のまなざしに気づいていたはずだ。私たち二人は導かれ合う運命だったのだ」堂々と言い切るハリー。

「面白い方ですね、ハリーさんって」ドロシー。

「世間一般的には、ストーカーて言うんちゃうか」アホ雉。

「彼女も若干天然だな」すぺるん。

「私のドロシーを野蛮な目で見るな。筋肉バカが」

「何だと!」すぺるん。

 ホントいつも通りの会話である。

 そこへ、金がやって来る。和服ではなくて、ローブを着た金が。

「よう、金さん」マゲ髪。

「おう、五人目のお出ましか。金さんがもう少し来るのが遅かったら、俺らパーティー、全滅してたかもな」すぺるん。

「あたしとマゲ髪がいたんだ。全滅なんかしてねえさ」マジョリンヌ。

「私もいたからな」自信満々のハリー。

「お前、役に立ってねえだろ」すぺるん。

「命の恩人に無礼な口を叩きよって」銃を構えるハリー。

「私が五人目だったことを、皆に黙っていてすまなかった」金。

 金が頭を下げた。

「われわれがご説明いたします。金さんは、ゴータマ神殿のメイジ大神官の甥であらせられます。一族の中で最高の頭脳を持つお方なのです。金さんは、長年放埓ほうらつな生活を送られてました。しかし、勇者の剣を扱える者が現れたことを知り、心を入れ替えて、賢者になることを選ばれたのです」アイン。

「何でコニタンが勇者の剣を使えるすごい奴だとわかったんだ?」すぺるん。

「メイジ大神官の夢に出てきたのです。背が低くて、髪が薄くて、不細工な顔をして、親父狩りに遭いそうなたたずまいを持つ人物が勇者の剣をふるう姿が、夢の中に出てきたのです」カベル。

「いや、悪口?」アホ雉。

「その勇者の名はコニタン。大神官の夢は現実だったのです」アイン。

「ふーん」納得するすぺるん。

 兵士がみんなを呼びに来た。コニタンたちは皆、晩餐会場へ向かう。


 コニタンたちは特等席に着いた。豪華な料理がテーブルに並んでいる。各村や街の代表が来賓として招かれている。人が多すぎて緊張しまくりで叫びまくりのコニタン。客席の女性たちをエロい目で観察しまくるすぺるん。お前ら、場所柄をわきまえろ。

 しばらくして国王と大臣が来た。かおりんがマイクを使って宣言する。

「では皆様、これより晩餐会を開始します。私、妖精のかおりんが司会を務めます。よろしくお願いいたします。まずは国王様よりお言葉を賜りたいと存じます」

「勇者コニタン一行よ、よくぞ無事に帰還した。そなたらの活躍により、ナウマン教は滅んだ。これで世界に平和が訪れるであろう。そなたらに褒美を与える。なんなりと申すがよい」国王。

 いの一番にすぺるんが手を上げる。

「おう、褒美か。そうだな、俺は自分専用の格闘場が欲しい。三階建てで、合コンができるようにお洒落なレストランもつけてくれよ」

「許可しよう」大臣。

 え、許可すんのかよ。次にハリーが手を上げる。

「私はドロシーと平和に暮らしたい。豊かな生活を送るための生活費をちゃんと頂きたいです」

「うむ、よろしい」大臣。

 コニタンは何か言いたそうだが、ビクビクして、言えないでいる。震えながらコニタンが手を上げようとしたら、先に金が手を上げる。

「私は聖職者ゆえ、褒美を辞退したい」金。

「うむ」大臣。

 そして、次こそは自分の番だとコニタンが手を上げて言う。

「アイドルになりたい!」

「絶対無理!!!」国王が間髪入れずにツッコんだ。

「何でえええええええええ!」やかましいコニタン。

「国王様、せめてやんわりと、もっと優しい言葉で言いましょう」大臣。

 笑っていいのかどうか、会場にはものすごく気まずい空気が漂う。

 コニタンのことを完全無視して、国王が言う。

「マゲ髪、マジョリンヌ、アホ雉よ。そなたらにも褒美を与える。何なりと申せ」

「俺は、少しいい暮らしができればと思う」マゲ髪。

「わかった」大臣。

「あたしも少し贅沢できればそれでいいよ」マジョリンヌ。

「うむ、わかった」大臣。

「……」アホ雉。

 アホ雉は無言だ。下を向いて何か考え事をしている。

「どうしたアホ雉よ、遠慮せずに申せ。ナウマン教の元幹部とはいえ、お主がいなければナウマン教を倒すことはできなかった。褒美をもらうに十分値する活躍をしたのだ」大臣。

 少し間があって、アホ雉は広間にいる全員に聞こえるような声で言う。

「……そやな、風の谷のために何かしてくれへんやろか。風の谷を、もっと住みやすい場所にしたいねん。そのために灌漑用水路をつくったり、橋をつくったり、集落の周りに防護壁をつくったりとか。ナウマン教ができてから大分ましになったんやけど、今でも孤児がたくさんおるねん……。そやから、風の谷のために、力を貸してくれへんか。……できれば、いろんな国の人に風の谷を訪れてもろて、谷の人らと交流してほしい。そしたら、みんな仲良くなれるやろうしな……」

「うむ。国王様、よろしいですか?」大臣。

「もちろんじゃ。よくぞ申したアホ雉よ。そなたの願い、しかと聞いた。ジャポニカン王国の国王ノダオブナガが責任を持って、そなたの望みをかなえようぞ」国王。

「皆の者、外をご覧あれ。大陸中から勇者一行を見ようと大勢の人が集まっておる」大臣。

 バルコニーから城の外を見ると、幾千万の人々が王宮の外に集まっている。


 オオオオオオオオオオオオーーーーー!!!


 空が割れそうなくらいの、轟然ごうぜんとした歓声だ。

「では、皆の者、祝杯をあげる!」国王がグラスを掲げる。

 ファンファーレが鳴り響く。

 全員がほくほく顔でグラスを掲げる。

「乾杯~!!」

「えええええええええええええ! 俺の褒美はああああああああああ!」

 コニタンの叫びは、皆の楽しそうな声にかき消されて誰にも聞こえない。

 すぺるんは片っ端から女性に声をかけて回り、ハリーはドロシーとイチャイチャし、金は聖職者のくせに羽目を外して盛り上がり、かおりんは酒を注いでまわり、皆楽しんでいる。

 マゲ髪とマジョリンヌはモミアゲとエンドーのことをしのびながら飲んでいる。アインとカベルはすぺるんに邪魔されながら、無作法な金を止めている。

 国王ノダオブナガはガツガツ飲み食いし、サンドロ大臣は完全に酔っぱらっている。こいつら昔から変わっておらん。ていうか、サンドロ、お前、コニタンたちに風邪薬を渡すのを忘れただろ。

 ビクターはこの時、私と一緒に神殿でわびしく食事をしていた。

 ナウマン象が実はアフリカ象だったという衝撃の展開。ずっと引っぱってきて、ナウマン象じゃなかったという。何じゃそりゃ。『風の谷のナウマン象』はこれでおしまい。この物語はゴータマ神殿の大神官メイジがお送りした。

 アディオス!

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風の谷のナウマン象 真山砂糖 @199X

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