第1住人(?)発見

〇〇〇〇―――――〇〇〇〇


 時間をかけて、俺は何とかゲートの一部をレイブレードで溶断して切り抜くことができた。

 力いっぱい蹴とばして向こうへと切り抜かれた壁の一部を押し、溶断面に触れないよう注意しながら、穿たれた空間に潜り込む。


 さて、ようやく向こう側に到達することができた俺の目に飛び込んできたのは………


「―――う、撃て!」


 取り囲む、10人以上の武装した男。

 そのうちの一人が喚いた瞬間、一斉に光弾が俺に向かって撃ちだされた。

 レイブレードでは到底偏向しきれないその数。――――俺は、【光の支配者】スキルを発動し、迫るフォトンビームの弾を寸前で、食い止めた。


------------------------------------------------------


「光の支配者」

光属性魔法を極めた者に与えられるスキル。光魔法や光に関わる事象を支配し、制御することができる。フォトンビームなどのビーム兵器のベクトルを支配することも可能。


------------------------------------------------------


「な、なに!?」

「び、ビームの弾が………止まった?」

「怯むな! う、撃ち続けろッ!」


 浮足立っていた男たちが再び武器を構える。

 だがそれが再び発射される前に――――俺は、俺の眼前で静止状態にあったフォトンビームのべクトルを〝反転〟させた。


 発射されたビームは、まるで動画の逆再生のように一瞬で発射した男たちの方へと逆流し、刹那、男たちの大半が自分で撃ったフォトンビームによって吹っ飛ばされた。


「な………っ!?」


 残ったのはただ一人。すでに打ち倒された汚い身なりの男たちの中で、唯一小綺麗なスーツらしき服を着ている男。一瞬で形勢を逆転されてしまった状況に、唖然とした様子だ。


「き、貴様何者だっ!? こ、このジーシン・ヴォアを敵に回してただで済むと………」


 何かいかにも小物っぽいセリフだな………。

 などという感想はともかく、そのジーシンなる男はホルスターからフォトンガンを取り出して、俺に向かって構える。


 ちょっと興味があったので【鑑定】スキルで能力の程を図ってみると、


----------------------------------------

【ジーシン・ヴォア】

【Lv.21】


【HP:1420/1420】

【攻撃力:501 /501】

【防御力:120/120】

【精神力:320/441】

【俊敏力:158/158】

【幸運:1001/1001】


----------------------------------------

【武装一覧】


【TO-98 フォトンガン】


----------------------------------------


ブラック・シティを根城とする大規模ギャング団【ラガント・ラガイト】の首領。

街の危険ドラッグ売買やギャンブルを取り仕切ることで莫大な富を得ており、4大銀河級企業の一つ【ゲルリ・インダストリアル】社とのコネクションをも有する。


----------------------------------------


 低いステータスの割には結構な経歴の持ち主なんだな。

 てか、何でそんな大物がこんな所に? 見た所、辺りはスラムの一角のように小汚い建物が密集するばかりなのだが。


 そのジーシンなる男は、俺が一歩歩み寄るたびに二歩以上下がり、遂にフォトンガンの引き金を引き絞る。

 だがその光弾は、俺が素早く繰り出したレイブレードの一閃によって弾き返された。ジーシンはさらに「く、来るな!」と何発も撃ち放つが、それらはレイブレードの光の刀身に当たって明後日の方角へと偏向されるばかりで俺に直撃することはない。


 そうしているうちに俺はジーシンの眼前まで迫り、その手に持っていた小さなフォトンガンを切り飛ばした。


「ひ………っ!」


「悪いけどこれ以上騒ぎに巻き込まれるつもりはない。二度と俺に手を出さないと誓うならこの場は――――」


 ジーシンの視線が一瞬チラッと俺の背後に走る。

 俺はとうの昔に気付いていたが、後ろで倒れていた一人の男が撃たれた腹部を押さえながら起きあがり、俺に向かって片手でフォトンライフルの銃口を向けてくる。


 だが発射された光弾はやはり、レイブレードを俺の後ろにかざすことで跳ね返され、男は今度は心臓部に直撃を食らい、その男は胸のあたりを焼け焦がされて倒れ込んだ。


「――――この場は、見逃してやる」


 ジーシンの反応は素早かった。

 引きつった悲鳴を上げながら半分に切断されたフォトンガンを放り出して這う這うの体で逃走する。

 その姿がうらぶれた建物の角に消え、周囲に警戒すべき何者も存在しないことを確認すると、俺はレイブレードの光刃を消して腰に留め直した。


 と、そこで俺は、男たちに混じって一人、俺と同年代ぐらいの女の子が倒れていることに気が付いた。

 他の男たちの様子も見て回ったが、全員死んでいた。身を守るために仕方なかったとはいえ、あまり気分のいいことではない。

 ちなみに倒れた男の一人のステータスを覗いてみると、


----------------------------------------

【メゾス・グラン】

【Lv.18】


【HP:0/1420】

【攻撃力:0 /652】

【防御力:240/240】

【精神力:0/558】

【俊敏力:0/158】

【幸運:598/598】


----------------------------------------

【武装一覧】


【TRT-554 フォトンライフル】


----------------------------------------


【ラガント・ラガイト】の下っ端。

詐欺、殺人、暴行、児童虐待、超大手広告代理店及び老舗大手電機メーカーでの深刻なパワハラ行為、顧客としての立場を悪用したクレーム行為で15の星系で死刑を宣告され、廃惑星テラへと辿り着いた。


----------------------------------------


 パワハラとクレームのやり過ぎで死刑を宣告されてたのかこの男………。

 一体何したんだ。


 まあ、それはさておき。………問題はまだ息のある少女の方だ。


 少女のジャケットにはいくつか焦げ跡が残っているが、どうやら低出力のフォトンビームを受けたらしく、致命傷ではないようだ。

 とりあえず抱きかかえて、あまり汚くない、小型のコンテナの上に少女を横たえる。だがすぐに目覚める様子はない。

 俺は、【鑑定】スキルを使って彼女のステータス一覧を覗き見た。分かるのはせいぜい、名前とレベルとステータス、簡単な概要ぐらいだからな。


----------------------------------------

【エアル】

【Lv.27】


【HP:1957/2252】

【攻撃力:879 /879】

【防御力:305/305】

【精神力:690/775】

【俊敏力:298/298】

【幸運:1059/1059】


----------------------------------------

【武装一覧】

REW-T-98(C)改造フォトンガン


----------------------------------------


個人密輸屋の少女。

武装貨物宇宙船〈グリー・ヴァディス〉の船長で、主に銀河級企業から流通を制限されている違法武器の密輸を生業としている。しかし企業軍の追撃によって船が廃惑星テラに墜落。船を動かすのに必要なリアクターが損傷した結果、テラで立ち往生することとなった。

現在では廃墟区画での遺物探索により生計を立て、船を復旧させる方法を模索している。しかしギャング団【ラガント・ラガイト】に借金した結果、その返済を巡り目をつけられている。


----------------------------------------


 へぇ。

 宇宙船乗りなのか。なら、協力しておけばこの星から脱出するきっかけになるかもしれないな。

 そう考えを巡らせていると「ん………」と少女、いやエアルが意識を取り戻した。


「お。目が覚めたか?」

「――――ッ!」


 傍らで佇んでいた俺目がけ、エアルはすかさずホルスターからフォトンガンを………

 だが残念なことに、今のエアルは丸腰だった。俺が軽く見回すと、さっきエアルが倒れていた辺りにフォトンガンが一丁転がっていた。


 武器がないと分かるが早いか、エアルは素早く飛び上がり、俺から距離を取る。


「………何のつもり?」

「ご挨拶だな。連中から助けてやったのに」


 周りには男たちの死体が転がっている。

 連中とどういう関係かは分からないが、低出力のフォトンビームで撃たれたことやステータスの概要の通りなら、友好的な関係にはないのだろう。

 果たして、エアルは少しだけ警戒を解いた。


「助けてくれたのは感謝するわ。だけどこれで、あんたも【ラガント・ラガイト】に付け狙われることになるのよ?」


「なら、すぐにでもこの星から離れないとな。どこかに腕のいい宇宙船乗りでもいてくれたらいいんだけどな」


 十分に含みを持たせてそう言ってやると、「ふーん」とエアルはコンテナに腰を下ろし、軽くニッと笑って見せた。


「そうね。いないこともないわ。前金で2万ダリア。行先に応じて5万ダリアから受け付けてるわ」


「悪いが金は持ってないんだ。金になりそうなものは幾つかあるが、どれだけの価値になるのかは分からない」


「そうよね。そんなボロい身なりなら誰もあなたが大金を持ってるなんて思わないでしょうね」


 それなら、とエアルは続ける。


「ちょうど腕のいい用心棒と三等航海士見習いが欲しかった所なの。私も宇宙船乗りよ。まあ、肝心の船が壊れて立ち往生してる所だけど」

「俺は船についてはからっきしだけど、用心棒の端くれにはなると思うぞ。腕前は周りを見ての通りだけど」


 そう言って、倒された男たちが散らばる周囲を見るよう促してやる。エアルにはこれで十分だろう。

 それと彼女に手を差し出す。


「レイトって呼んでくれ」

「エアルよ。よろしく。とりあえず一杯奢るわ」



 これがエアルとの最初の出会いだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

廃惑星の勇者伝説 ~命と引き換えに剣と魔法の世界を救ったら、 次はSF世界に飛ばされた……~ 琴猫 @kotoneko112

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ