ピンチに駆けつけるのが勇者の仕事ですから
〇〇〇〇―――――〇〇〇〇
「………やっと、追い詰めたぞ! エアル!」
動きやすい軽装に、ややブカブカのジャケットを着た、赤い髪が特徴的な少女―――エアルは、遂に前後と側面を武装した男たちに包囲されてしまった。エアルはすかさずフォトンガンを構えるが、既に十以上のフォトンライフルの銃口がエアルただ一人に向けられている。
連中………ブラック・シティで幅を利かせるギャング団。そしてそれを束ねる男、ジーシン・ヴォアが一歩進み出た。
「追いかけっこもこれで終わりだな、エアル。だが………俺たちの要求は至極まっとうで単純なものだ。借りたものを返す。それだけなんだ。例えば、ある飛ばない宇宙船を持つ密輸屋が交換用のリアクターを仕入れるために借りた10万ダリアとか」
「………ちゃんとしたモノが手に入ればちゃんと返すわよ! 私のやり方でね。でもこんな星じゃまともなリアクターなんて手に入る訳ないじゃない! 肝心のリアクターを運んできた船は撃墜されるし………」
おくびも見せずにエアルは言い返す。その10万ダリアをギャング団から借りた宇宙密輸屋こそ、エアル当人なのだが………。
ジーシンは「そっちの事情は関係ないね」とハエでも払うかのように手を振り、
「俺たちとしては借りたものは返してもらう。それだけだ。まずはお前のあのポンコツ船を差し押さえさせてもらう。そして次はエアル、お前自身も」
「………奴隷にでもしようっての?」
「あのポンコツなら、そうだな………1万5000ダリアぐらいで売れるだろう。残り8万5000と35%の利子は、お前の身体で払ってもらうことになる。なに、こんな惑星でもお前と一夜を共にするために大金を払う奴はごまんといる。10年も耐えれば自由の身になれるだろうさ。毎日欠かさず変態どもの相手をすれば、な」
男たちの不愉快で下卑た笑い声が否応なくエアルの耳に飛び込んでくる。
「………そんな目に遭うぐらいなら、今ここで死んだほうがマシよ」
「なら、試してみるか?」
ジーシンがそう挑発した瞬間、エアルは素早く行動した。
銃口を向けていた男の一人にフォトンガンを向け、放たれたフォトンビームは一瞬で男の心臓部を焼いてその命を奪う。
さらに早撃ちで隣の二人目も同様の運命を辿る。
だが、それで終わりだった。
次の瞬間、四方八方から放たれた低出力のフォトンビームがエアル目がけて撃ち込まれる。麻痺モードで放たれたビームは容赦なくエアルの感覚を奪い取り、エアルはその場で無防備に倒れ伏すことを余儀なくされた。
「く………っ!」
「ああ、何てことだ。二人分の賠償金も追加しなければな。借金を返す期間が長くなるぞ」
言い返したかったが、わずかに唇を震わせるのが精一杯で、言葉らしい言葉を発することができない。
ジーシン、それに男たちはエアルを間近で取り囲むと、
「どうします、兄貴? ここでちょっと味見を」
「よせ。手が付けられてない方が最初は高い値段を設定できる。イタズラするなよ?」
「バカな女だぜ。俺たちに盾突くとは」
聞こえてくる下品な会話や罵声の数々。
もう舌を噛み切る力もなく、エアルはぼんやりとした意識の中でこれから待ち受ける運命を受け入れるしか………
だがその時、エアルを取り囲んでいた男たちが何やら騒ぎ始めた。
「おい!? あ、あれは何だ!?」
「か、壁が焼き切られる! 向こうから………?」
「向こうには廃墟区画しかないはずだぞ! まさかバトルボットが!?」
「か、壁が………。来るぞ!?」
エアルが麻痺した感覚を無理やり働かせて、視線を向こう側に向けた時………ブラック・シティと廃墟区画を隔てている分厚い分離壁の一部が、信じられないことに溶けて切断され始めていた。
そして、溶断の軌跡は円を描いて一周し、その数秒後に向こう側から壁の一部がくり抜かれる。
そして、そこから入って来たのは………
「う、撃て!」
ジーシンが半狂乱で命じた瞬間、一斉にフォトンライフルが火を噴く。
放たれた十数の光弾。だがそれは――――目標に直撃する寸前で〝静止〟した。
くり抜かれた壁の向こう側から出てきた、一人の少年によって。
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