2話 さぁたんと魔王城脱出

「さあ、準備できたわ!いくわよ!」

「魔王様、もうちょっと躊躇いとかないんですか!?」

「これも全てうどんの為よ!」

ヒーシァの発見した方法により、魔力を一時的に魔力を取り込むことに成功したさぁたん。その場で下着に手を入れ始めた時にはヒーシァは焦って止めに入ったが、邪魔しないで!と迫力ある声に見守ることしか出来ないのであった。


「ちょっとお尻がむずむずするのは気になるけど、まぁ、上出来よ」

「種は残り4つです。くれぐれも計画的に・・・」

「わかってる。この種1つで決めてくるわ!他にもやりたい事があるから残りの種は置いていくわね。さあ、城門へ急ぐわよ!」

目にも留まらぬスピードで廊下の奥へ消えるさぁたんをヒーシァも負けずと全力で追いかける。

「魔王様!廊下は走らない!その全速力にも魔力使ってますからね!」

「そういうことは早く言いなさい!!」

少しだけ速度を緩めたさぁたんと、それを追うヒーシァ。

2人はあっという間に城門へ到達した。


「で、これはどういうことヒーシァ?」

さぁたんの目の前には、城門から先に一面の雲海が広がっていた。足元を見ると遥か下に山の頂上らしきものが顔をのぞかせている。左右を見渡しても城壁から先の地面は削られたように完全に無くなっている。魔王城はまさに空の孤島状態であった。

「私の記憶が正しければこの城は山の山頂に建てられていたはずだけど…」

「実は、前魔王様が勇者到達までの時間を稼いで戦力を拡大するために、魔王城ごと空へ浮かべました」

「なにしてくれとんじゃああああああああああ!!!」

「え、魔王様、かっこよくないですか?天空城ですよ?天空城!」

「これじゃあ出前とやらが取れないでしょうが!」

「デマエ?なんですかそれ」

「うどんや他の食べ物を住居まで運んでくれるサービスがあるって聞いたわ!それが出前よ! これじゃあ勇者以外この城まで来れないじゃない!」

「今の代の勇者がうどん屋を開業することに期待してみてはどうでしょう?」

「そこまで待てるか!」

さぁたんは、う~んと俯いて考え込んでいる。

「問題はもう一つあるわ。」

「なんでしょう?」

「いくら私の体が丈夫でも、この高さから飛べば流石に無事では済まないわね。無策に飛び降りるのは避けておきたいわ。」

「しょうがないのでここだけ魔法を使ってはいかがでしょうか?」

「う~ん、飛行魔法で降りるか、防御魔法で着地の衝撃を和らげるか、重力魔法でふわっと降りるか。 方法は色々あるけど魔力が惜しいわね。」

「どの方法でもおよそ4分の1の魔王様の魔力を消費する計算です。もうここは仕方がないのでは?」

「こんなところでそんなにも魔力を使ってられないわ。なにか他に方法を考えるわよ!」

「いや、しかし方法なんて思いつきますかね?」

「あなたも考えるのよヒーシァ。なんせあなたは、あのお尻を使った方法を思いついたんだから!」

「それは言わないでください!」


城門で考えること30分。会話も特にないまま、時間だけが過ぎていく。


「魔王様、まだ城内にいるにも関わらず種の魔力が消費されています。一度取り出してからお考えになっては?」

「城の周りがこんなことになっているなんて、知っていればあの場で入れてなかったわよ。それに一度ここから種をだしたらそれはもう、う◯こよ。」

「まだ30分しか経ってないですよ?う◯こでも入れ直せばきっと大丈夫です!」

「やっぱりヒーシァあなたって…。 うどんの為とはいえ、流石にそこまで堕ちたくはないわ!わたし悪魔族だけど!」

「また私が変人みたいに言わないでください!」

「いや、変態ね!」

「ふへぇ~ん!」


2人が言い合う間にさらに30分が過ぎた。


「ところで変態王ヒーシァ、あなたは魔力を失っていないのよね?」

「勝手に称号を付けないでください! …魔法は少しブランクはありますが、それなりに使えるとおもいます。」

「なにか降りるのに使えそうな魔法は無いかしら?」

「えぇと、基本的には闇と風属性の魔法が使えますが…」

「たった2属性?だらしないわね!」

「全属性使える魔王様が異常なんです!!普通は1属性ですからね!?2属性の私だって本当は凄いんですから!」

「変態行為の属性は全種類揃ってそうね」

「ぎゃふん!」


その時、さぁたんはなにか思いついたようにヒーシァをキラキラした目で見つめた。

「あ、確か闇属性に重力操作の魔法があったじゃない!それを私に掛けて頂戴。それか風属性の魔法で上昇気流を…」

「それが…魔王様…」

さぁたんの思いつきにもヒーシァは浮かない表情であった。会心のアイデアだと思っていたさぁたんも不安そうにヒーシァを見つめる。

「魔王様の着衣には全て全魔法反射が付与されております。重力魔法はかかりませんし、風魔法の上昇気流もかき消されます。」

「なんてもん着せてんじゃああああああ!」

「これも魔王様を守るためだったのです!落ち着いてください!」

「着替える!」

急いで私室へ向かおうとするさぁたんをヒーシァはすぐに呼び止めた。

「魔王様!魔王様の衣類には全て魔法反射を含む優れた能力が付与されています!おそらくこの魔王城にある魔王様の衣類全てに…。」

「もう嫌だこの城!!!」



魔法反射の件からさらに30分。城門の先、地面が残る部分の崖っぷちに座り、虚空を見つめるさぁたんの姿があった。

その少し後ろには同じく虚空をみつめるヒーシァ。


「ねぇ、ヒーシァ。私下に降りる方法を思いついたのだけれど」

「奇遇ですね魔王様。私もです。」

何故か遠くの一点を見つめながら、何かを達観したように話す二人。

「おそらくこれは唯一の方法であり、それと同時に最悪な方法よ。」

「これまた奇遇ですね。私の方法も同じような方法です。」

「私はうどんが食べたい。」

「ええ。存じております」

「そのためにはどんな手段でも使うわ。」

「しかし…この方法はあまりに危険すぎます。」

「いい?ヒーシァ。人生には必ず思い切った決断をしなくてはいけないときがあるわ。」

「ええ。」


「それが今よ!!!!!」


そういうとさぁたんは急に立ち上がり自分の身につけている衣類を脱ぎ始めた。


「魔王様!こんなところで裸体を晒すなんて!」

「見なさいヒーシァ」

さぁたんは下着以外を脱ぎ終わるとヒーシァの前に仁王立ちになった。

「さあ何が見える?」

「ぱ、ぱんつ1枚の魔王様が見えます」

「確かに危険なことは分かってる。無事には戻れないかもしれない。分かってる」

「では…」

「でもね、私もそろそろ一歩踏み出さないといけないのよ。魔王城で引きこもり?勇者を倒して世界征服?そんなことクソくらえよ!

私はうどんが食べたい!ただそれだけ…!私は前に進まないといけないのよ!!!」

「魔王様……」


「よく見てなさい!これが私の覚悟よ!」


さぁたんは下着の両端に手をかけると、すこし恥ずかしそうに俯きながら一気に下に下ろした。

「ヒーシァ!必ず戻る! それまでよろしく!!」

さぁたんは脱いだ下着を後ろに放り投げると、全裸で勢いよく空中へと飛び出す。

「魔王様!!!必ず戻ってきてください!!魔力は残り10時間ほどしかありません!」

「わかってる!それじゃあ魔法よろしく!」

崖から飛び降り空中へと飛び出したさぁたんは、惑星の重力に引かれ、生まれたままの姿で雲海へと真っ逆さまに落下していった。


「闇魔法:グラビティ!」


小さくなっていくさぁたんの裸体が紫色に輝いた。




2人が思いついた方法はこうだ。

魔法反射の効果を受けない方法、それは装備を外すことであった。

下着にも魔法反射がついていることを知ったさぁたんは軽く暴れたが、夏場に下着姿で寝ていることの多いさぁたんが寝込みに襲撃があってもいいように備えられた前魔王の優しさであるとヒーシァに説明を受けて渋々納得したようであった。

つまり全裸で天空の城と化した魔王城から飛び降りるしか方法がなかったのである。

これにより落下中のさぁたんに重力魔法をかける事によって、着地のダメージを軽減することができるようになる。


また、2人共魔王城から降りてしまうと、再び戻る方法がなくなる事も問題であった。重力魔法も風魔法も、落下の勢いを殺せるくらいの力はあるが、地上から空中まで浮かび上がらせるほどの力は無く、さぁたんの使える魔法の中にも2人が天空城まで戻るために使えそうな魔法は思いつかなかった。

その問題を解決するために2人が考えた方法は、ヒーシァが城に残るという方法である。さぁたんの使える闇魔法に影移動というものがあり、これは知っている魔力を持つ人物の影に一瞬で移動できるというものである。多少魔力は使うが、これにより地上から天空城のヒーシァの元まで一瞬で戻ることができるのである。


さぁたんを危険な目に合わせるわけにわいかないヒーシァであったが、生まれてから一度も城の外へ出たことがないこと、うどんへの異常な熱意に、ついに負けてしまったのであった。



「魔王様は強い子です…! 必ず無事に戻ってきてください!」


ヒーシァの叫びは、さぁたんがすでに見えなくなった雲海へと吸い込まれていった。



『魔力の種残り10時間』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔王にうどんは届かない 八重 充希 @yae-mitsuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ