第一章 魔王城不便すぎませんか?

1話 さぁたんと外出方法

「魔王様がこの魔王城を出た瞬間、魔王様は絶命します。」


「はい?」


ヒーシァの口からでた言葉はさぁたんにとって衝撃的なものだった。

「どういうこと?説明してほしいわ。」

「はい、実は前魔王様よりいくつか伝言を預かっております。魔法で意志だけを留めておけるのは時間に限りがあるようで、必要最低限は魔王様が先程お目覚めになったときに前魔王様の声を聞いているはずです。その他お伝えしなくてはいけないことは私の口から伝えさせていただきます。」

「ああ、起きたときのお父様の声は魔法で意志を留めていたのね。

で、さっそく内容を教えて頂戴。」

「かしこまりました。まず魔王様、ご自身の魔力がほとんど残っていないのはお気付きでしょうか?正直今の魔王様はクソ雑魚ナメクジです。」

「ナメクジ…。相変わらずなんかたまにボロがでるわねヒーシァ。」

「恐れ入ります。それで体調はいかがでしょうか魔王様」

「寝起きだからと思ってたけどこれだけ時間が経っても確かにまだ力が入らない感じがするわね」

さぁたんは手を握ってみるが力が思うように入らない。

「前魔王様は勇者の魔力感知から魔王様が見つからないように、魔力だけ別の場所に保管しております。そしてその場所から魔王様の魔力はこの魔王城の現状維持の為、少量ずつ消費されており、現在これだけ損傷した魔王城を崩落させないように使われています。」

外壁は崩れ、天井に大穴が空いているような魔王城であったが、これは100年前の戦闘によって破損したものであり、その時から時間が止まったように維持されているのはさぁたんの魔力によるものであった。

「なるほど、だいたい理解したわ。私の魔力を勝手にこんな城に使われるのはなんかムカつくけど、目覚めた瞬間ホームレスよりはマシね。」

「ええ、更に魔王様の魔力の大部分によってこの魔王城には結界が張ってあり、結界の外側から見るとこの魔王城は崩落しているよう見えているはずです。これで勇者は当分魔王様に気がつかずここに来ることはないでしょう。」

「もし、私が魔力を取り戻したら?」

「目くらましの結界が消え、さらに勇者の魔力感知により攻め込まれるでしょう。配下もいない今、私達だけで勇者を退けることは困難です。勇者の持つ退魔の武器、その特性により前魔王様も実力を出しきれず敗北しています。まず今は戦力拡大が先決です。」

「で、さっきの私が城を出ると死ぬってのは?」

「魔王様は現在、魔力を生み出すコアごと空っぽの状態です。」

「この城のどこかに、私のコアが城の状態維持と結界の為にあるのよね。」

「はい。ですので魔王様は魔王城側から魔力供給を受けて活動していることになります。魔力供給を受けられない結界の外に出てしまうと、すぐに魔力がからになってしまい、魔力が生命の源である魔族である魔王様はすぐに亡くなってしまうわけです。」

「まさか、こんな城に私が生かされているとは…」

さぁたんは現状を理解するとともに絶望した。

「それじゃあ、城から出られないってことはうどんが食べられないってことじゃない…。お父様がいるときは外出を禁じられていたし、やっと一人になったというのに街へ行けないなんて…。」

さぁたんは力が抜けたようにぐったりとしてしまった。


以前配下が話しているのをたまたま耳にしてしまったうどん。

異世界から持ち込まれた最初の味うどん。

ああ食べたい!


「なにか……なにか方法はないのかしら…」

「それが、あるにはあるのですが…」

「あるんかい!」

まさか方法があるとは思ってもみなかったさぁたんだが、ヒーシァはどこか浮かない表情をしている。

「方法って何!?早く教えなさい!」

「はい、お教えしますがこれを本当に実行するかの判断は魔王様におまかせしますね…。」

「お城から出られるのなら何でもするにきまってるでしょう!さあ、教えて!」

「わかりました。怒らなでくださいね。」

「怒らない怒らない」

さぁたんの熱意に押されてヒーシァは話し始める。

「あそこに花が咲いていますよね。」

ヒーシァが指を指した先には城壁が崩れ、瓦礫が積み重なった場所。その頂上に紫色の花がいくつか咲いていた。

「……あの花の種をお尻にいれます」

一瞬時間が止まった気がした。

「ふざけるなあああああああああ!!」

「怒らないっていったじゃないですかああああああああああ!!」

「正気の沙汰じゃないわよヒーシァ!あなたの趣味についてどうこういうつもりはないけれど、私も一緒にしないでほしいわ!」

「私そんな趣味ありませんから!理由を聞いてくださいー!」

「100年間寂しくて欲求不満だったのね…。これは私の責任でもあるわ…。」

「だから言いたくなかったんです!もう、勝手に説明始めますね…」

変な趣味ができてしまって可愛そうに、と背伸びしてよしよしと頭を撫でるさぁたん。ヒーシァはそんなんじゃありません~と時折反論しつつ説明を始める。 

「あの花、この魔王城に流れる魔王様の魔力を吸って育っているようなんです。私がはじめに気がついた時、あの花は1つだけ種子を実らせていました。驚いたことにその種の中にかなりの量の魔力が貯められているのです。恐る恐るその種を口にしたところ、それはもう力が漲る漲る!濃厚な魔王様の魔力が体中から溢れ出し、その晩私は一睡もできず滾ってしまいました。」

「で、一人でナニをしたのかな?」

「そこは察しくださると助かります。」

「ということはその種を食べれば、私が城から出ても魔力を維持できるという理由のようね。やっぱりお尻はヒーシァの趣味で…」

「違います!!説明を続けますね…。確かに種で魔力は得られましたが、それは長くは続きませんでした。得られた魔力は体内に保持することは出来ないらしく、おそらく種が胃で消化されてしまい、早く魔力を放出してしまったのではないかと私は考えたのです。そこで…」

「お尻に種を入れたと」

「はい…。確かにそこだけ聞くと私変態ですね。」

「ようやく気がついたか」

「だから違います!直腸で種の魔力がゆっくり吸収されれば効果が長持ちすると思ったんです!」

「そこに考えが至るのが怖いわ…」

ヒーシァ曰く、その後の実験によりこの方法をとることで魔力の放出を15時間まで持続させることができることがわかったらしく、魔族であるさぁたんはヒーシァより身体の素の機能が高いだろうということで12時間は安全であろうと聞かされた。

つまりヒーシァの方法とは、魔力を溜め込んだ種をお尻にいれることで12時間は魔力切れにならずに城から離れることができるという、理にかなっているような、いないような、なんともぶっ飛んだ方法であった。

「まあ、方法はさておき、全く外へでられない訳ではないとう事がわかって良かったわ。で、その種はどれくらいで実るものなの?」

「種を見つけてからおよそ50年経過しておりますが、種の実る期間は完全に不定期で、何十年も実らないこともありました。実験に使ったものを差し引くと残りはこれだけです。」

ヒーシァが取り出した小瓶には人差し指の先ほどの、花の種というには大きな種が5つ入っていた。

「花の種だというからもっと細かいのを想像していたわ」

「魔力を吸ってどんどん膨らんでいくみたいなんです。でもこれ以上は大きくはならないようです」

「これを入れるって結構ガチなやつじゃない。やっぱりヒーシァあなた…」

「もうご勘弁を~~」


さぁたんはひとまず種の入った小瓶をヒーシァから受け取った。

「魔王様にさきほど説明した方法をさせるわけにはいきませんので、私ができる限り街へ行かせていただきます。なんなりとご命令ください!」

ヒーシァはさぁたんの前に改めて跪く。

「だから、それがずるいっていってるの!私も街へ行きたい!!それに他の配下みたいに戻ってこない可能性もあるじゃない!それにお留守番だなんて、あなたは私を一人にさせる気?」

「いえ、私は魔王様をおいて街から戻らないことなどありません…!しかし、魔王様が街へ行くとなるとその方法が…」


「方法がなによ!私はぜっっったいにどんな手段を使ってでもうどんを食べるってもう決めているの!お尻がなによ!種の10個や20個いれてやるわよ!」

「1個でいいです魔王様!それ以上だとお腹を壊します!」


「例えよ例え!さあ、ヒーシァ外出の準備にかかりなさい」


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