マッシュアップ(真夢)
雪希に頼まれてインストールしたゲームだったがスッカリはまっていた。
恋敵は雪希以外を登録しなければいけなかった。
友達でも良かったのだがすぐに始めたかったので、適当に誤魔化して母親の携帯を登録した。
始めに強請られるのは他愛もない物だった。
ミルクを頂戴とかジュースを頂戴とか何処で見ているのか知らないが強請られた物を持って来ないとポイントは付かなかった。
試しにジュースを強請られた時に種類を変えてみると、其の都度満足度が違った、如何やら真夢の子はオレンジがお好みで林檎はおきに召さないようだ。
ゲームは巧妙に作成されており顔認識アルゴリズムからユーザーの微妙な表情の違いを読取り得点としていた、つまりはゲームで与えられるポイントはユーザーの満足度を反映させているに過ぎなかった。
尤もユーザーにとってポイントが意味を持つのは最初だけでよりゲームに引き込む為のエッセンスに過ぎなかった。
「でもこれって持ってきた物をどうやって見てるんだろう、カメラの画像から判断しているのかな、でも人の顔と違って食べ物や飲み物なんて形状がまちまちだしジュースの種類まで分かるとは思えないんだけど、解析ロジックって如何なってるんだろう」
ぬれた髪を拭きながら電話の向こうの雪希に聞いた
「わかんない、そんな事如何でも良いじゃん」
確かに今では如何でも良い。
真夢も話の流れから聞いただけで本当は如何でもよかった。
それより雪希とは恋敵の登録をしているので成長度合いの方が気になった。
「ゆきちゃんの子は何処まで育ったの」
「5歳に成ったよ、まだジュース、ジュースって言ってるけどね」
始めたのは殆ど同時だから、差はついていなかった。
「へぇー何ジュースが好きなの?」
「うちのはバナナ」
「また面倒なのが好きだね、うちのはオレンジだよ、簡単でいいでしょ。ポイントは、うちは20ポイント付くけど」
「へぇー好きな物でポイント違うんだ、うちは30ポイント付くよ」
2時間ほど話して電話を切った、最近は無料通話サービスが有るので長電話をしていても親に邪魔される事はない。話はゲームの事で終始した、しかし2人とも一番オカシナことに気が付いていない、持ってきた飲み物は何処に行ったのか。
気が付けば無くなっている、その事を全くオカシイと思っていないのだ、無くなっているから片付けるそれだけだ。傍から見れば不思議な事はない自分で飲んでいるだけなのだが本人たちは全く気づいていない。
自分で飲んでいる事に気付いていない、なのに無くなっている事を不思議に思わない。つまり二重にオカシかった。
1週間が過ぎた頃おねだりの内容が飲み物から食べ物になった、ゲームマスターは既に二人の脳を侵食し始めていた。
同時にゲームマスターはプログラマーが意図していた本来の守護者としての機能を作動させた。
「(淳)おはよう、今日は何が欲しいのかな?」
既に名前も付けて自分の子供のように扱っていた。
「大好きなシュークリームをあげようね」 真夢のゲームマスターはシュークリームが好きだった、実際は真夢が食べているので真夢の好物だったのだが。
真夢が学校を休んでいる事を口実に浩二が電話をしてきた。
「如何した、何処か具合でも悪いのか」
「別に何処も悪くないよ、学校に行くのが面倒なだけ」
「また何時もの病気か」
「構わないでよ、彼氏でもないのに」
「そんな事言うなよ、そう言えば雪希も休んでるけど何か知ってる」
雪希の事が目当てなのは見え々だった。
「知らないわよ、電話でもメールでもしてみればいいじゃない」
身内以外で雪希の番号とアドレスを知っているのは紗枝と真夢だけなのは知っていたが意地悪く言った。
「雪希が教えてくれないんだよ」
「まぁあんたみたいなチャライのは雪希が一番嫌いなタイプだからね」
「真夢教えてくれよ」
「嫌よ、雪希が教えないものを私が教える訳無いでしょ」
「お前らって変に結束固いよな、女の友情なんて流行んねぇぞ」
「流行ってるか如何かなんて知らないわよ、世の中映画だって小説だって男の友情を有難がってるけど、女から見ればそんなの子供同士のお遊びよ、女には友情なんて言葉が陳腐に思えるほど深い繋がりがあるの、ただ男みたいにお喋りじゃないだけ」
「大体女同士の友情なんてさぁ、どうせ男次第だろ」
「頭の悪いアンタらしい台詞ね、男は直ぐ男同士の友情を美化するけど、友情に男女の違いなんて無いわ、有るとすれば言葉にしてしまうと陳腐になってしまう事を女は知っているだけ」
「何だよ其れ、じゃあ友達がやられたら如何すんだよ、仲間の為に体はれんのかよ」
「大切なものを守る為に命を懸けるのは男の専売特許じゃないわ、ただ女は男みたいに見栄の為に命の安売りはしないの、だからその言葉を女が使うときは本気よ男の安っぽい親友ごっことは違うの、其れとね雪希のことは甘く見ない方がいいわよ」
「如何言う事だよ」
「止めましょ、いくら話しても分からない事は分からないから」
「何だよこ難しい事言い出したのはそっちだろ、まあ良いや其れより頼むよ友達だろ」
「あんたと私が、馬鹿言わないでよ幼馴染なだけよ」
「幼馴染って友達じゃないのかよ」
「そうなの知らなかったわ」
「冷たい事言うなよ」
「まぁ可哀想だからそういう事にしといてあげる」
「分かったよ、雪希の事は良いよ、本人に気に入られるまでアタックするさ」
「ストーカーみたいな事しないでよ、まあそんなことやれば痛い目に合うのはアンタだけどね」
「馬鹿言うなよ、俺がそんな事しないのは真夢だって知ってるだろ」
「如何だかね、そう言う奴が一番危ないんじゃないの、まぁ今の所は信じてあげる」
「其れより俺も学校休んで暇なんだよ、近くまで行くから出てこないか、何処かで会おうよ」
普段なら絶対に誘いには乗らない真夢だったが今日は何故か行っても良いような気になった。
「別に良いけど」
「なんだよ珍しいじゃん何時も絶対に来ないくせに、そうだな真夢の家の近くにファミレス有ったよな、そこで二時半で如何」
「良いよ」
彼は雪希の事を話題にするべきでは無かった。
雪希の話題は守護者のガードプログラムを発動した。
「コウジキライイラナイ」
「分かった、ないないしようね」
既に守護者の言葉は真夢にとって雪希を守ると言う絶対的な目的の為の重要な命令に成って居た。
正常な時から強い絆で結ばれている真夢にとってその命令を実行する事が何よりも喜びとなった。
「何か言った、誰かそばに居るのか」
「誰も居ないよテレビじゃないの、それより会うんだったら一つ頼みが有るんだけど、最近プログラミングの勉強を始めたんだけど練習に作ったスマートフォンのアプリが有るのね、テストしたいからインストールしてくれない」
「へぇ頭のいい人はやっぱり違うね」
「嫌味言わないで手伝ってよ」
「良いけど何のアプリだよ」
「通話アプリなんだけどさ友達同士で無料で通話ができるの」
「スゲーじゃん」
「そしたらアドレス言うからそこからダウンロードして」
「良いよ」
まだ約束の時間までは間が有る、ファミレスまで真夢の足でゆっくり歩いても15分程で着く、真夢は慎重に手順を考える事にした。
紗枝には黙っていたが簡単なハッキングなら出来る程度の技術は既に身に付けていたし、実際に経験もしていた、黙っていたのは紗枝を巻き込みたくなかったからだった。
紗枝のアルバイトの事は知っていたし父親がセキュリティー関係の会社に勤めている事も知っていた。
絶対に捕まらない自信は有ったが、自分がしている事の違法性は十分に理解していた、その事を紗枝が知れば彼女を困らせる事に成るのは分かって居た、だから全てを話さない事に決めた。
練習の為にこの辺一帯の監視カメラは既にハッキングして何時でも侵入出来るようにしてあったが、まさかこんな時に役に立つとは思っても見なかった。
何ヶ所かはネットワークに接続されていないカメラも有ったがファミレスまでの道沿いにあるカメラは都合よく全てがネットに接続されていた。
一台だけ警備会社のクラウドサーバーにデータを転送している端末が有った、此方の画像を弄る事は危険が有ったので該当のカメラは避けて歩くことにした。
先ずは依然接続したポートがまだ開いているか確認した、案の定全てのPCの管理者は侵入された事に気付いていなかった、そもそも専属の管理者自体が居なかった、次に万が一後で再侵入が果たせなかった場合の為に所定時刻までに再侵入しなければ全てのファイルを完全に削除する様にウィルスを仕込んだ、但しこのウィルスが発動すれば当然警察はハードディスクの復元を試みるだろう真夢はその辺も抜かりがなかった、復元が出来ない様に単なる削除では無く全てのトラックにNULLコードを書き込むようにウィルスを作成した。
但しこのプログラムが発動するときは之から行く現場で現行犯で捕まるか真夢の身に何かが起こった時だ、その時は自分でけりをつけると決めていた。
全ての端末に仕掛け終わるとパソコンをシャットダウンした。
「あとは戻ってからね」
ここまでの作業を30分で終わらせてしまった。
セキュリティーの甘い商店街の監視カメラとはいえ専門的なプログラム開発を覚え始めて間の無い人間に出来る芸当では無かった、潜在的な能力に限れば紗枝を遥かに凌駕していたし、実質的な能力も紗枝のそれを超えようとしていた。
「まだ時間は有るわね、どうやろうかな彼奴身長あるからな」
少し考えて父親の道具箱を取りに行った、中からワイヤーソーを取り出すとドアの上の縁にかけてぶら下がってみた。
「少し指が痛いな」
今度は革製のベルトを探したが自分の持ち物の中には丁度良い太さの物が無かった。
「良いのないなぁ、そうだあれが良いや」
以前、犬の虎鉄の為に買って使わなくなったリードが取って有る事を思い出し、机の引き出しからリードを探し出すと半分に切りワイヤーソーのリングに通すと手首が入る位の大きさの所で輪にして結んだ、もう一度ドアにぶら下がると今度は納得したように微笑んだ。
「何着て行こうかな」
なるべく男の子の様に見える服装を選び髪をアップにしてキャップをかぶる。
「私ってば可愛すぎる、何てね、まあ大丈夫でしょ」
確かにマニッシュな感じが余計に真夢の可愛さを際立たせてしまったが人の目なんていい加減だ、時間帯を考えればこの恰好で身長の低い真夢なら学校帰りの発育の良い小学生の男の子に見えない事もない。
「さてとソロソロ行こうかな」
ワイヤーソーとビニール袋をジーンズのポケットに入れると思い出したように犬用のおやつを2つ袋から出すと一つは反対のポケットに入れもう一つを手に持って庭に出た、案の定虎鉄が吠えそうになったが手に持ったおやつをみつけると大人しくお座りをして待った、普段から静かにして居ればおやつを貰えると躾けていた事が功をそうした、虎鉄が静かにして居る事を確認すると近所に気付かれない様にそっと裏通りに出た。
丁度ファミレスの裏に人通りが少ない都合の良い場所が有った、お誂え向きに簡単に登る事の出来る塀も有った。
周りに誰も居ない事を確認すると塀の上に立ってみた。
「これなら高さも幅も丁度いいわ」
塀の反対側に降りるとさっきインストールさせた通話アプリで浩二に電話を掛けた。
「今どこに居るの」
「もう着くけど」
もう一度塀に登ると丁度浩二がやって来るのが見えた、塀の上の真夢には気付いて居ない様だった。
「ねぇ左の方見て」
「なんだよ」
まだ気づかない、改めて此奴やっぱり馬鹿だなと思いながら塀の上から手を振ってやった。
「馬鹿じゃねえの、なに塀の上なんか登ってるんだよ」
電話を切りながら「馬鹿はアンタよ」心では思ったが口には出さなかった。
浩二に気付かれない様にポケットの中からワイヤーソーを出し虎鉄のリードで細工した輪を両手首にかけた。
塀の下まで浩二が来ると笑いかけた。
「へへ、ねぇ降りるから肩車して」
「何だよ自分で登ったんだから自分で降りろよ、面倒くせぇ奴だな」
文句を言いながらも満更でなさそうに真夢に背中をむけた。
このド助平アンタに乙女の大事な所を担がせる訳ないでしょ、と思いながらワイヤーソーを輪の形にして浩二の首に掛けると両足を支点にして後ろに倒れ込みながらワイヤーソーに体重をかけた。
真夢の体は浩二の首を支えに塀の上の方で丁度塀の側面にしゃがむような形で止まった。
浩二の息がまだ有る事が分かると勢いを付け其のままの向きで一気に塀を飛び降りた。
「よっこらしょっと、浩二くん彼方がイケないのよ雪希においたしようとしたから、一寸お仕置き」
思ったより手が痛く無かったので其のまま塀にぶら下がる形で左右の手を交互にして浩二の首を一気に引いた。
浩二の首は勢いよく引かれる様に縮められたワイヤーソー輪に耐える事が出来なかった、頸椎を残して一瞬で切り裂かれた。
大量の血が流れたが計算通り塀の反対側に居る真夢には全くかからなかった。
其のままワイヤーソーを引き抜くと血が付かない様に気を付けながら用意したビニール袋に仕舞い込みポケットに戻した。
浩二が絶命して居る事は手ごたえで確信が持てたのであえて確認しなかった、確認して居る所を誰かに目撃されるのも嫌だったし、たいして好意を持っていない相手でも一応は幼馴染だった男の死体を見たくもなかった。
「別に死んじゃえば物だし」
ふと心に過った焦燥感を拭う様に呟きながら、塀を離れ浩二の死体が有る場所とは反対側の道路に出た。
家に戻った真夢はまずPCから浩二のスマホに侵入した。
通話アプリにはリモートアクセスサーバーの機能も実装して有った。
真夢はまず携帯のルート権限を奪い3時間前の通話記録を改竄して真夢の通話記録を別の物にした、アプリをインストールした痕跡も消し、行き掛けの駄賃にアドレス帳のデータをダウンロードした頃には、さっき感じた焦燥感もすっかり消えていた、今は雪希の事を守ったと言う満足感だけが残っていた。
アプリはログアウト後にタイマーでアンインストールされる様になっているので真夢が作業を終了すれば全ての痕跡が消える。
キャリアの通話記録はあえて消さないでおいた、今の真夢には難しい事では無かったが、何故か其の方が良い様な気がした。
警察が携帯の通話記録だけで納得するとは思えないが、守護者にとっては重要な駒の真夢を失う事に成ったとしても今後の為に警察がどの程度まで情報の整合性を確認するのか知っておきたかった、果たしてスマホの記録だけで満足せずにキャリアの通話記録も調べ、真夢に辿り着くのだろうか。
「次は監視カメラね」
再び監視カメラに接続されたPCをハッキングすると該当する動画ファイルをタイムコードのズレがない様に日付と時刻を改ざんした別の動画に差し替えた。
予め差し替え用のソフトを作成しておいたので作業はパラメータの指定だけで数十秒で終了した。
全ての動画を差し替えるとPCをシャットダウンしてベットに横に成った。
遠くからパトカーのサイレンが響いて来た頃には深い眠りの底についていた。
PORT80 ゴルゴーン姉妹の憂鬱 赤兎 @jijiiusagi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。PORT80 ゴルゴーン姉妹の憂鬱の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます