第36話

というわけで後日談だ。どうせまたあの面倒くさい語り部が面倒くさいことを言って締めくくるのだろう。もうあきたよ。と思った人は安心してほしい。


これの語り部はごみ宮君ではなく私、佳華真音だ。私のことが好きな人は喜んでいいわ。反対に嫌いな人は残念がりなさい。ざまーみろ。


 とまあ、どうでもいい自己紹介はさっさと終わらせてこの話の続きを話しましょう。

あの後地上に戻った私の目の前に現れたのは神ノ原さんだった。あの人いやあの神様は私の記憶を書き換えようとしたのだけど寸前でやめた。なんでも


「俺はあいつが嫌いだ。だから言うことを聞いてやることはない」


とのことだった。


 私の過去の経歴に関してはあの神様のおかげでなんとかなった。それには感謝してもし足りない。そして今はある仕事を引き継いでやっている。胡散臭く、不倫調査が主な仕事の探偵だ。鳴宮探偵事務所。私はここを引き継いだ。あの男は存外腕利きだったらしく依頼は山のように押し寄せた。そして私はもっと優秀だったため更に多くの依頼が押し寄せた。鳴宮探偵事務所は大盛況だ。そのおかげで多少気がまぎれた。


 あの男と別れてもうすぐ二年だ。それを思い出すたびに歯がゆくて寂しい。いっそのこと忘れてしまいたいと思う時もある。でも忘れたらいけないことなのだ。そのことがこちらの立場になって分かった。確かに忘れられるのは辛いことだ。でも忘れる方もそれと同じぐらい辛い。


 私はそのことを知り過去の過ちを反省した。もしかしたら奴はそれを知らしめるためにわざとこうしたのかもしれない。神ノ原さんが私の記憶を書き換えないこともすべて読んだうえで。でもそう考えると全部あの男の思い通りに物事が運んだことになり面白くないのでそう考えないことにした。それに全部思い通りならそろそろ帰って来てもいいころだ……。なんて、こんなことを言っても仕方がない。仕事だ。こんなことばかり考える女々しい女になりたくなかったので仕事の成功を祈るべく神社に行くことにした。真摯に仕事達成を願うために。いつものように賽銭箱にお金を入れようとすると


「えっ」


おもわず声を出してしまうほど驚いてしまった。


 賽銭を入れるごときで驚くことなんてないだろうと思う人もいるだろうがこれを見て驚かない人はいない。


 札束だ。札ではなく札束だ。つまり百万円だ。百万円が賽銭箱に入っていた。


 これを入れた人にはどうしても叶えたい願いでもあったのだろうか?それにしても百万円も賽銭箱に入れるだろうか?


 私はそれが疑問に思えて仕方なかった。だがその疑問は解消されることになる。なぜなら数十秒後百万円を入れた人物を知ることになったからだ。 


 その人が言うには恋人をデートに誘うという大仕事の成功を祈って百万円を投げたらしい。それを聞いて私は一言


「馬鹿ね」


と言った。


 あの事務所を引き継いでから休みをとったことはなかったが今日ぐらいはオフにしてもいいかもしれない。

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彼女と彼女の想いとぶれない僕の想い @kanekosinzi

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