自転車で隣町まで行って帰って来るだけの話。
山岡咲美
自転車で隣町まで行って帰って来るだけの話。
ある冬の日。
僕は隣町まで自転車で行く事を思い付く、いつもなら高校までバスで行く道のりだったが何となくそんな気持ちになったのだ、小学校の時 1度同じ事をしたのだが両親に「危ない」とスゴく怒られたのでそれ以来やってない。
「こんなんで良いかな?」
いつも着る黒のマウンテンパーカーに毛糸の手袋。
「コンビニでお茶でも買って行こうかな?イヤ甘いコーヒーの方が…」
重くなるし欲しくなってからでいいか?
「あ、買うならスポーツドリンクか?」
僕は家の玄関ホール、階段下に置いて有る白いクロスバイク(ロードバイクとママチャリの間の子みたいな自転車)を外へと引っ張り出した。
「スマホと財布があれば問題ないよね」
冬の空に高高度の雲が張り付いている。
***
漕ぎ出す。
まわりは何もない田んぼ道、橋向こうにコンビニとガソリンスタンドとがポツポツと有るだけ。
いつもならコンビニまでは歩いて行く、自転車だと信号を二つ跨がねばならないからだ、僕は左側通行を順守する。
コンビニの前で近所の人に挨拶、過去の怒られたトラウマから少しドキリとする「高校生だぞ僕…」ちょっと待てこれ短編だ。
「いろいろ省こう!」
***
大きな川沿いの道を隣町まで。
「この道コワっ!」
自転車で進んで行くと怒られた理由が良く解った。
「小さい時は気にしなかったけどアスファルトと側溝が少し段になってる」
2車線の道は左側が山で側溝に木の枝とか落ちていて更に危ない。
「これ落ちない様に車側に寄ると車メチャクチャ近いぞ!」
「……よくここ通ったな小学生」
***
分かれ道。
「この橋渡ると前よく行ってた本屋が在るな…」
あまり通らなくなった道だ。
「何だこの坂!?」
この道を通ってた時は母の車に乗る時だけだった、よく知っていた筈の道はよく知らない難所とかしていた。
「これは無理!押して行こう」
(なんだろう自転車上に押してるみたいだ)
「ここの溜め池結構大きいな…」
車では一瞬でも通りすぎた溜め池が結構デカイ事に気付く。
「ここずっと気になってたんだよな」
線路の下を括り抜ける道、水没注意のプレートが壁に貼ってある。
「ここ良く来てたな」
前は良く来ていた本屋だ…4車線の道の横に歩行者用の天井の低い通路が潜り込んでいる。
「ここ通るの初めてだ…」
いつもは車だったので用のない道だった…。
***
本の店。
「どこに停めれば?」
入口の横でいいんだよな、みんな停めてるし。
「一回り見て見るか?」
ここは専門書が多いが実際 何か買う予定はない、第一帰りが大変だ。
「ゲッ、1時間半もかかったの?」
ふと店の時計に目が行く。
「もう一個の本屋どうしょうか?」
別に行く必要もないのだが、こんな機会あんまりない…。
「あっちはCDとかBlu-rayとか売ってるし、行こうかな?」
***
4車線。
「失敗した、車恐い!」
今までの道とは交通量が違う!トラックとか通ると結構な危なさだ。
「僕がなれて無いせいか?」
自転車に車道通れって絶対無理がある、少なくとも僕には無理!
***
本とCDとBlu-rayの店。
「こっちはちゃんと駐輪場がある」
スッカスカの駐輪場に自転車を停める。
「カフェコーナーって僕 使ったこと無いな…」
CD/Blu-rayコーナーの前にカフェコーナーがある。
「サインだ」
某超有名アーティストのサインだ、かなり引くくらいの有名人だ。
「もういいかな…」
僕は最後にいつも行く図書館で休んでから帰る事にした。
***
城下町迷宮。
「信号渡って裏道行こ」
裏道は車あんまり通らんだろ、そう思った僕は浅はかでした。
「道狭い!車近い!歩行者にぶつかりそう!」
城下町なめてた城跡のある裏道ルートは人、自転車、車(軽自動車ばかり)、更には電柱が重なる様に利用していた、歩行者ならまだしも地元民でも無い自転車乗りが迷い込んで良い場所ではなかった。
***
シャッター商店街。
「本当に疲れた…でもここを抜けたら城まわりの狭い道を抜ける」
僕は自転車を押して信号渡りアーケードへと入っていく。
「パン屋が残ってるのは助かるな…」
自転車は押したまま、少し薄暗いアーケードの中を歩く。
「この2階にある白いカフェ、ずっと閉まってる」
そこには白い階段を登るおしゃれなカフェ?があったが僕が初めて見た時にはもう閉まったままだった。
「そう言えば某番組の地域密着型アイドルがこの町の出身でここの事 言ってたな」
こう考えると芸能人って近くに居るもんだなと僕は思った。
***
図書館ビル。
「アーケードの先がメインエントランスでいいのか?」
実はこの図書館、周辺の活性化も兼ねてデパートの4階に第三セクター方式でコンサートホールと一緒に作られ居たのだが…。
「あんまり活性化してないな」
僕は仕掛時計付きのパイオルガンのあるエントランスから半円形のエスカレーターを使い先ずは2階へと上がった。
「おしゃれ雑貨店あんま興味ないな」
交差したエスカレーターで3階へ。
「今度はかって知ったるいつもの本屋、本日3件目の本屋であります」
本屋のハシゴって意味あんのか?自問自答するも品揃えが違うのだと自分を納得させる。
「でもここ、前の2つより小さいんだよな、高校から近くて良いんだけど」
あっちの本屋はバスか電車に乗らないと行けない距離だった。
更にエスカレーターで4階へ、音がどんどん遠ざかり静かになっていく、4階には図書館と地域交流センターしかない。
僕は地域交流センターをすり抜け図書館へ。
「ここはいい」
僕は窓際のソファーに座り外を眺める、まわりにはここより高い建物が見えず空が広々だ、人はまばらにしか居ない。
「ウチ新聞とってないからなあ…新聞コーナーは…」
木製の斜め立ち読み机でぶ厚く束ねられた図書館新聞をペラペラ、新聞クリップに挟まれた大手新聞、地方紙を同じく木の斜め机と図書館共通の木の椅子(ひじ掛け付き)で何となく。
「雑誌のバックナンバーは…」
フィギア(プラモデル)雑誌とファッション雑誌となぜかある戦車と銃の雑誌をその場でパラパラ。
「ラノベは家にもあるけど…」
つい読んでしまう。
ソファーとは別方向にある窓にそった広い机、畳のコーナー、またソファーに戻って。
「あれ?なんか暗く成ってない?」
「あれ?」
ちょっとだけ血の気が引く。
僕は早足で下へ下へと向かって行く。
「不味い不味い不味い!」
僕はアーケードは通らず、ビルの反対側の川沿いで高校の横を抜けるルートを選択した。
***
帰りは川沿いが続く。
「こっちは道がいい感じだ」
川沿いの道はとても走り易かった。
僕は自転車レースのドキュメンタリーを思い出す、ロードレースでは安定した回転が重要らしい。
「平らな道はギアを3速にして登りと降りで微調整だ」
一応これも細いタイヤのクロスバイク、結構な速度が出る筈だ。
「ここどの辺りだっけ?」
同じような川沿いの光景が続く。
「夏に来た時はバンバン虫が当たったけど今冬だし大丈夫!」
小学生の時は胸ポケットにいっぱい小さな虫が入ってた事を思い出しゾッとする。
「まだ明るい、この分なら大丈夫そうだ」
家の近くの景色が見える。
***
橋向のコンビニ。
「コンビニどうしょうかな?」
疲れたしなんか甘い物でも買って帰ろうかと思ったが考え直す。
「図書館出る時、時間計ったんだよね…」
スマホのストップウォッチが進み続けている。
「コンビニはスルーで!」
帰り道はタイムアタックと化していた。
***
家。
「ゴール!!!!」
タイムは50分、行きから40分を削り取る事に成功した。
「水…アイス…」
僕は冷蔵庫の前でキンキンに冷えた水をガバカバと飲んだあと、家の外にある竹のベンチで冷凍庫の常備品 棒アイスを2つ食べた、バニラとチョコチップだ。
「車出して貰えてたのって、スゲー助かってたんだな…」
「…………」
僕は母に感謝した。
薄暗い冬の空がまだ見えている。
END
自転車で隣町まで行って帰って来るだけの話。 山岡咲美 @sakumi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます