一つ屋根の下、男二人だけど家族が増えました。

球磨川飛鳥

第1話 一悶着

 俺の名前は園田明希そのだあき、22歳の無職だ。この歳は本来就職しているか大学生かのどちらかだが俺は大学に進学せずこの家で無職を満喫している。

 両親は俺が高2の時に事故で死んだ。両親は俺にだいぶ金をかけて伸び伸びと生きさせてくれたから葬式では涙が止まらなかった。失意の中大学進学する気は全く起きなかったが、最終学歴が中卒はまずいと思い高校は卒業まで通学した。

 ただ今俺がいるのは両親の住んでいた家ではなく、小学生から高校生まで付き合いがあった友人の家に居候させてもらっている。友人の名前は堂子奏多どうじかなた。同じ22歳だがこいつは大手玩具メーカーに就職している。つまり俺は働いている友人のところに転がり込んですねをかじっているわけだ。働かない代わりに俺はこの家の家事全般をこなしている。幸い中学の時に両親から炊事洗濯は叩き込まれていたから難なくこなせる。

 生活費は遺産と少しのアルバイトで賄っている。時間だけは有り余っているからな。

 さて、俺の身の上話はこれくらいにしてあるなんでもない日に俺に起こった異常な出来事を話していこう。

 俺は毎週火曜と金曜に買い物に出る。異常は金曜日に起こった。行きつけのスーパーの駐車場で女性の怒鳴り声が聞こえた。別にそれだけならスルーするのだが、その女性は自分の娘に暴言を吐き挙句娘の頬にキッツイビンタを喰らわせていた。

 俺はいわゆる「正義マン」のケがあるのでそういった事実を目にしてしまっては首を突っ込まずにはいられなかった。先に警察に連絡を済ませてから俺は女性に話しかけた。

「おい、その娘、あんたの娘だろ。何があったか知らないが流石にこんな所でビンタはちょっとやりすぎじゃないか?」

「あなたには関係ないでしょ。他人の家庭に口出さないで。」

 女性はそういった直後にまた娘に暴言を吐き始めた。女性の振り上げた手を掴んで静止すると、

「ちょっと!やめてくださいよ!警察を呼びますよ!」

「呼ぶのは構わないが多分取り押さえられるのは俺じゃなくてあんたの方だぞ、一回落ち着けよ」

 前もって警察を呼んでしまった手前、この女性を逃すわけにはいかない。なんとかして着くまで時間を稼がないと…

 そんなことを考えていたら目の前の女性が俺に襲われているから助けてくれと叫び始めた。

 これはまずいぞ…この状況だけ見られると確かに俺が襲ってるように見られてもおかしくない。

 クソッ、時間も稼がないといけないのに周りの目も気にしないといけないなんて考えることが多くて頭がパンクしそうだ!

 すると、母親の怒りの矛先が俺に向いたのに気付いて娘が俺の後ろに回った。それに気づいた女性がまた激昂した。

「おい!そんな知らない男の後ろに隠れてどういうつもりだ!お前覚悟しろよ!」

 化けの皮が剥がれたな、女性の口調とは思えんような暴言だ。


 やっと警察が到着した。幸いギャラリーはいなかったらしく俺が襲っていると言った人は一人もいなかった。母親は警察に連れられて一旦連行された。

 娘の方はなぜか俺の足にしがみついて離れない。警察の方にも娘さんを保護したいから引き渡してくれと頼まれたがどうにも離れてくれない。結局どうすることもできず警察の方からは1日そちら側で保護してくれと頼まれた。

 え?俺が?

 困惑した。1日だけとはいえ年下の女の子と接しなければならないのだ。俺に兄はいるが妹はいない。対応がわからない。しかし買った物もあるし外にいる時間が予定よりだいぶ長くなってしまったから確かに帰宅したい思いも強かった。

 女の子に俺の家でいいのかと尋ねた所、大きく2回頷かれた。意思が強いな。

 帰宅してから女の子の名前を聞いていないことを思い出した。騒動の最中は名前どころではなかったからな。

「君、名前はなんていうの?」

 風里ふうりちゃんというらしい。最近の名前にしては無理のない読み方で助かる。

 現在は午後4時を少し回った所だ。ちょうど小腹が空く時間帯だな…何か食べるかと尋ねたら買い物袋にはいっていたぬれ煎餅を指さした。渋いな。まあ俺も同じものを食べて色々聞いていこう。

 警察の方が次の日の午前10時に来ると言っていたからそれまでの付き合いだが気分を悪くして帰られるのも申し訳ないという思いもあり沢山話をした。あまり口が回る子ではなさそうだがこちらの問いに対してはちゃんと俺の期待していた答えを出してくれるから話しやすかった。

 話し込んでいたら1時間も経っていた。奏多が帰ってくるのは7時過ぎだからそろそろ飯の支度をしておこう。

 

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一つ屋根の下、男二人だけど家族が増えました。 球磨川飛鳥 @wakiyano

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