第2話 坂田金時、旅に出る

 

 神殿のなか、むすっとした表情の神官の少女が、怒り心頭とばかりに、体育座りしてわめき散らす大男を見下ろす。


「ぐっそぉー! なんという横暴、理不尽、不当、不正でありますかー! 勝手に召喚して、20年もほったらかし、ただの一度も会いに来なかったくせに、いきなり現れては『魔神を倒しにいかんかぁー、金時ぃい〜! たちゅけて、たちゅけてー!』……って、拙者を馬鹿にしているでござるかぁあ! 拙者には、拙者のライフステェアイルッというものが、ありましてですなァーー」


「馬鹿にしてるのはアンタよ、このアホ英雄!」


 かたわらで愚痴を聞きながしていた神官の少女は、目をカッと見開き、十字架をかたどった神杖しんじょうで金時の顔面を強打をする。


「ぶべほぇあ!?」


 うめき声をあげて転げまわるゴールデン。


 ああ、神殿の床ってひんやりしてて気持ちいいのでござるな。


 金時は頭をおさえてうずくまりながら、益体のないことを考えて沈黙する。


「これまでずっと見守ってきたけど、流石に我慢の限界。あなたには正義の心がある。そして、英雄にふさわしい力だってもってる。

 いい加減目を覚ましなさいな、坂田金時。こんなところで足踏みしてる場合じゃないでしょう? 賢者様がいらしたのなら、いい機会じゃない。世界は、いま、あなたの力を必要としているのよ」


 神杖をつき、艶やかな青髪をした美しい少女は、床のうえで押し黙る金時へ、しかりつけるように言った。


「……」


 じっと噛み締めるように、少女の言葉を聞いていた金時は、のっそりと立ちあがり、メイド服についた汚れを払いながら神殿の入り口へ。


「そんな事わかっていたでござる、わかっていたのでござるよ、そんなこと……まったく、あんなに小さかったプリチィ幼女ようじょが言うようになったでござるなぁ、パティ」


 金時は髭をしごきながら、振りかえらずに神殿を出ていく。


「いってらっしゃい、そして、さようなら、私のヒーロー……」


 神官の少女、パティはうるむ視界で、人混みに紛れられない巨漢の背中を見送るのだった。



 ⌛︎⌛︎⌛︎



 しばらくのち、金時は部屋のすみに置いてあった大斧まさかりをかついで、鍛冶屋へと来ていた。


「おう、ゴールデンクレイジーサイコロリじゃねぇか。フィギアは作らねぇつってんだろ」


「ひどい呼び名でござる。しかし、拙者は度量のおおきいジェントルメーンッでござる。許して差しあげるでござるよ。して、今日はフィギアのお話ではないでござる。こいつを見て欲しいでござるよ。どう思うでござるか、ご主人」


「ござるござる、うるせぇな、たくっよーー」


 手元を休めて、ふりむく鍛冶屋の親方。

 その瞬間、金時は肩にかついでいた、大斧を叩きつけるように台のうえへおいた。


 同時、あたり一帯に地震が起こる。


 混乱する人々。

 平穏からのぞくドッキリイベントに皆が壁やら地面やらに手をついて狼狽ろうばいしている。


「うぉおお! こりゃ、な、なんだぁあ!?」


 腰抜かす親方。


「気にしないでほしいでござる。ともかく、拙者が聞きたいのは一点のみ。錆びついて、とても使い物にならなそうな、この大斧を研ぎ直せるでござるか?」


 鍛冶屋の親方は、ムカつくほど冷静な金時へ半眼をむけると、咳払いひとつ、立ちあがり、斧へ視線をおとした。


「ッ、おめぇ、こんなもんどこで手にいれて来やがったんだ!? 神に愛されたのような大英雄がふるう武器だぜ、こりゃあ!?」


「感想は結構でござるよ。研ぎ直せるのか、研ぎ直せないのか。どっちでござるか」


「冷静すぎてウゼェエ!? んだこのロリ野郎は! てか、無理に決まってんだろーが! こんな神級武器を鍛え直せるやつなんざ人間にはいねぇさ!」


 鍛冶屋の親方は相手にするのも馬鹿らしいとばかりに、首をふり店の奥へ消えてしまった。


 やはり、拙者の「魔裟狩まさかり」を鍛えなおすのは厳しいでござるか。


 金時は宿にかえるなり、旅支度を開始。


「やれやれ、本当に面倒くさいが、今さら足利山あしかがで生きていけるはずもなし。はた迷惑な魔神を倒すしかなあでござるよ、拙者。さぁ、ここが頑張りどきでござる」


 自身に言い聞かせるように呟きながら、金時は小袋と大斧をかついで自室をあとにした。


 では、しばしの別れでありますぞ、我が牙城スイートホーム


 投げキッスひとつ、金時は宿屋の主人に鍵を預け、宿をでると、だらだらと街の門へと歩きだした。

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まさかり忘れた金太郎:足利山に強制送還されるのが嫌なので、魔神をたおしにい行き申す ファンタスティック小説家 @ytki0920

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